プロローグ
「おはよー」
「おはよ。ねえねえ、昨日のドラマ見た?」
「見た見た。凄かったよねー」
教室内に、楽しそうな話し声が響く。
一生の中で三年間しかない高校の、第二学年が始まった頃。
俺、科津久周は、誰と話すでもなく、教室の隅の席から、窓の外をボーっと眺めていた。
そんな時。
ドン! ガン!
俺は急に背後からタックルを受け、頭を窓ガラスで打った。
「いててて」
「いてててじゃねぇよ! タックルすんな!」
高い身長に、魚のヒレを付けたようなモヒカン頭。
ぶつかって来た本人、超野鹿馬は服に付いた埃を払いながら、口のフランスパンを貪った。
「……お前、何してんの」
「ラブコメの主人公らしく、朝に人とぶつかってみた」
「それは止まっている男にやることじゃねえし、第一咥えるのは食パンだろ! 何でフランスパンなんだよ!」
「フランスって愛の国なんだろ?」
「……そうだけども」
ちょっと納得してしまった自分に腹が立った。
そんな俺を置いて、鹿馬は髪をを整えながら、食べかけのフランスパンを差し出す。
「久周も食うか?」
「いらんわ!」
キーンコーンカーンコーン
朝礼のチャイムが鳴り、鹿馬は『やべっ』と言って、俺の前の席に座った。
少し前までは幾つか欠席があったのに、チャイムが鳴った今では三十名全員が出席している。
そして、教室の前の扉が開き、先生が入って来た。
「グッドモーニーング、エブリイワーン!」
「先生なんですから、適当なカタカナ英語はやめて下さい」
クルリと回転しながら入って来た先生に、委員長が口を挟む。
そして、その委員長が、いつも通り『起立』と言おうとした時。
光の線が教室の床一面に迸り、魔法陣のようなものを描いた。
光は次第に強くなり、甲高い音が鳴る。
キイイィィン!
「何だこれ!?」
「みんな、どこかに掴まって!」
「これはまさか、異世界――」
オタクが正解を口にしようとした瞬間、教室内の三十名の生徒と、一名の教師の姿が掻き消えた。
◇
「ここは……」
目を開くと、そこは見慣れた教室ではなく、とても煌びやかな場所だった。
教室とは明りの明度、床の感触、空気。その全てが違う。
「王よ、勇者の召喚に成功しました」
「よくやった!」
「しかし……些か多くないか?」
……ここまで来たら、俺でも何があったか分かった。
異世界召喚というやつだ。それも、クラス全員での。
その後、王からの説明があった。
曰く、我々は世界を荒らす魔王に対抗するために呼び出された。
曰く、異世界より召喚された者には、強力なスキルが与えられていると。
曰く、それは『ステータスオープン』と唱えると見ることが出来るらしい。
「……マジでそのままだな。ステータスオープン」
とりあえず言ってみた。
すると、何もない空間にウィンドウが現れる。
攻撃やら防御やら、ゲームのようなワードと二桁くらいの数字が並び、右上にはスキルが書かれていた。
【勇者】が最強らしく、もしかして……と期待したが、そうはいかなかった。
【不死者】:しなない。
「説明四文字かよ」
強そう、とは言えないが、生存力で考えればむしろ一番の当たりではないだろうか。
それより、俺達のリーダーとなる勇者は誰だろうか。
そう考えたとき、俺の目は自然と彼の方に向いた。
英月燈彩。
まだクラスが変わったばかりだが、彼がクラスのリーダー的な存在であることは分かる。
しかし、英月の話し声を聞いてみると、
「燈彩どうだった?」
「いや、俺は【英雄】だった」
どうやら、違ったらしい。
ならば、と第二候補を考え始めた時、その答えは自然と耳に入った。
「あ、あのー、私が【勇者】でした」
声を上げたのは、結城先乃……先生。
「こういうのってクラスのリーダーじゃないのか!?」
「先生なんて置いかれることもあるくらいなのに……」
「割とテンプレまみれなのに、こんなところで意外性を出すな」
一瞬静まり返った室内は、オタクどもの怒号に包まれた。
まあ、誰が追放されるでもなく、その三年後。
「……ただいま?」
魔王を討伐した三十一人の勇者は、全員揃って召喚されたばかりの教室に戻って来た。
投稿ペースは週一くらいの予定です
キャラ数が多いので……サラッと出てきただけの名前は、覚えなくても大丈夫です。




