ワン
「じゃあな」
「ああ。世界の終わりにまた会おう」
「明日は世界の終わりだった?」
忠次の戯言を聞き流して別れ、一人で帰路につく。
それにしても、今日は色々な怪奇現象があった。
いきなり足が取れたり、燃え上がったり、急に宇宙まで飛ばされたり……。
誰かにイタズラでもされているのだろうか。
「明日、家図の奴にでも調査を――」
ガッ
瞬間、誰かに背後から殴られ、俺は意識を失った。
◇
目を覚ますと、薄暗い廃墟の中だった。
ボロボロのコンクリートの柱に縛り付けられており、身動きが取れない。
「……ふざけてるのか、鹿馬」
「ちげぇよ」
どうせ鹿馬のおふざけだと思ったが、どうやら違うらしい。
暗がりから現れたのは、吊目で恐い雰囲気の……名前も知らない女子だった。
同じクラスにいた気がするが、特に関わりの無い人だ。
「ダレ?」
「【鬼神ノ巫女】、鬼塚盈だ」
「いやマジで誰だよ」
「月夜サンの相棒だ」
「……あー」
よく思い返してみると、確かに清建がよく話していた気がする。
コイツが俺を連れ去ったのか?
「ここって、叫んだら人が来たりする?」
「無駄だ。ここは昔からよく使っているが、人が来たことは無い」
「誰かあああああ!助けてええええ!」
「無駄って言ったよな? 何で聞いた?」
「誰かあああああああああああああああああああ(大声)」
喉が壊れる程叫んだが、廃墟に虚しく響くだけだった。
そのうち「うるさい」と口を破壊され、叫べすらしなくなる。
「……へ、ほうひへほへはひははへへふほ?(で、どうして俺は縛られてるの?)」
「オメェが月夜サンに近づくからだ」
「……だって、あっちから寄って来るから」
「関係ねェ。月夜サンに近づく男は殺す」
「狂犬かな?」
……こいつ思ったよりヤベー奴なんじゃね?
不死なので、別段危険は感じていなかったが、何だか本能的な恐怖が湧き上がって来た。
まあ、明日になったら先生か家図あたりが、発見してくれるだろう。
明日まで耐えきれば、多分何とかなる。
「俺は近づかれてる方だから、離れることなんて出来ないんだけど」
「嫌われるように立ち回るんだよ。例えば、唐突に発狂してみるとか、お嬢様口調にしてみるとか」
「嫌ですわ!」
今日は帰れそうに無いな。
「……交渉決裂だな。どうする? 力づくで言うことを聞かせるか?」
「そうだな」
鬼塚の背後の次元が歪み、鬼が持つような棍棒が出てきた。
「やるかァ!」
「巫女って魔法職じゃないの!?」
「巫女は巫女でも【鬼神ノ巫女】だぞ。戦士と魔法の半々みたいなもんなんだよ!」
「はえー」
ドカッ
巨大な棍棒が振り下ろされ、縛られている柱ごと俺の頭が粉々に粉砕された。
だが、【五感遮断】を起動しているので、少し怖いだけで、痛みは全く無い。
しかし、変なことをされるよりは、このまま痛いということにしておいた方がいいか。
「わー、痛い(棒)」
「やっぱ効いてねェな」
あ、バレた。
「……まあいいや。とにかく、俺は一年間も異世界の拷問を受けてきたんだ。今更素人の拷問が通用すると思うなよ」
「いやァ、同じ世界の住人だから気付くこともあるかもしれないだろ」
ババッ
鬼塚は、宙に魔法陣を描いたかと思うと、それを耳に刻印した。
さらに、彼女が取り出したのは……黒板。
……何だか、嫌な予感がしてきた。
「えっと、何をするおつもりで?」
「なに、こうして会話出来てるってことは、聴覚はあるってことだよなァ」
「……」
鬼塚は、笑顔で黒板に鋭い爪を突き立てた。
キイイイイィィィィイッィイ!
「ギャアアアアアアアア!」
「やっぱ、これは効くのかァ?」
甲高いというか、不協和音というか、そんな感じの音が鳴り響く。
ギギギギッキキギィギギギ
「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「叫んで誤魔化すつもりかァ? そうはいかねェぞ」
そう言って、鬼塚はさらに三つの黒板を取り出した。
「おいおいおいおいおいおいおい!」
「いくぞ!」
さらに四つの黒板から不協和音が発せられようとした瞬間、
ドガァン
廃墟の一角が破壊され、入って来る者がいた。
「よお。元気か科津?」
「ッ、月夜サン」
「清建……どうしてここが?」
「手前が色々とちょっかいをかけられてたからな。こうなっていると思ってた」
ガァン!
言いながら拳一つで俺が縛られていた柱を、跡形もなく消し飛ばした。
「大丈夫か?」
「あ、ああ。ありがとう」
清建は、軽く俺に笑みを向けてから、表情を厳しくして鬼塚の方へズンズンと歩いていく。
それに対して、鬼塚は怯えるようにジリジリと後ずさりする。
「手前、何でこんなことをしたんだ?」
「だ……だって、月夜サンが引け目から奴に構っているから――」
「違えよ。アタシは好きで科津と付き合ってんだ。それを勝手に――」
「つッつつつつ付きィ合ってる!?」
「……いや、交際的な意味合いではないから」
飽きれたように訂正した清建は、鬼塚の目前で拳を構えた。
「覚悟はいいな?」
「ッ!?」
「反発したら、もうアタシといられると思うなよ」
「……はい」
「〈誓約〉!」
ダン!
鈍い音が鳴ったかと思うと、鬼塚は凄い勢いでふっ飛ばされ、コンクリートの壁にめり込んだ。
ぐったりとしていて、意識があるか分からない。
「し、死んでないよな?」
「それくらいの手加減はしている。さて、帰るぞ」
「あ、ああ」
少し鬼塚を心配しつつも、清建の後に付いて、廃墟の地下から脱出した。
思ったより時間が経っていたらしく、辺りはもう真っ暗だ。
月は夜空に上がり……道の上にも、月が停車していた。
月 夜 の ラ ビ ッ ト 号
「乗れ(ポン)」
「……俺、歩くの好きなんだ。ついでに言うと、ジェットコースターは苦手なんだ」
「乗れ」
「ぎゃああああああああああああああああああああ」
バイクが一番の拷問だった。
ザ・ネクストデイ
「おはようございます、科津さん(棒読み)」
「……お前何してんの?」
家を出ると、メチャクチャ嫌そうな顔をした鬼塚が立っていた。
「鞄、持ちます」
「お前何してんの(二回目)?」
「月夜サンに、『迷惑をかけた償いをしろ』と言われて……。しかも、〈誓約〉のせいで身体が勝手に動く」
「〈誓約〉?」
「【拳誓】の力の一つだ。触れた相手と無理やり誓約を結んで、相手のスキルや行動に制限を付ける」
「ヤ〇ザかな?」
「ッ!」
ギュンッ!
瞬間、強靭な棍棒が眼前で止まった。
もの凄い風圧にふっ飛ばされそうになったが、プルプルと震えるだけで、棍棒が直撃することは無い。
「おぅ……これが〈誓約〉か」
「クッ、月夜サンの悪口を言われて、制裁できないなんて……殺せ!」
「何でだよ……。ちなみに、契約内容って何なの?」
「……『清建月夜の恩返しが終わるまで、科津久周に従うこと』」
「……お手」
「そんな命令、聞くわけ――」
ポン
差し出した俺の手の上に、鬼塚の手が乗った。
「…………」
「…………」
「……ドンマイ」
「うわああああああああああああん!」
「うるさい、ワン」
「ワン……」
俺の鞄を持った鬼塚の背中には、哀しい哀愁が漂っていた。
すみません、色々事情があって一年ほど休載します。
まあ、「受」から始まって「剣」で終わるアレです。
終わるまで、投稿することはありません。合格できるように、応援して下さい。
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