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召喚


悪魔と呼ばれる存在は、あまりにも有名であった。その由来は何であろうか。

仏教では煩悩や欲望を象徴し、真理や悟りに至る道を阻む存在として語られ、キリスト教、ユダヤ教では、神に逆らった存在として伝えられている。

今ではその存在は古今東西の物語に颯爽と登場しては、物語のスパイスとして輝いている存在であった。


仮にそれが現実にいたとして、それを呼ぶことが出来る鍵が自身の手に握られていたらどうするだろうか。

賢者はそっとその鍵をその場に置いて立ち去り、愚者は鍵を使い欲を満たすために彼らを呼ぶだろう。

俺はどちらでもなかった。鍵を手放すことは出来ず、それを使う勇気も愚かさも持ち合わせていない中途半端であった。


「おじさん、大丈夫?顔が死んでいるよ」


カズマの持つ剣で壊せるかと思っていたが、それは叶わなかった。普通であれば錆び付いたこんな鍵など一振りで一刀両断されるだろう。だが、剣身と鍵が衝突した瞬間。


キンッ!!


甲高い音が部屋の中に響いた。硬い金属が衝突したかのような音であり、思わず耳を塞いでしまった。

カエデ、カズマ、俺の三人は驚いた様子で鍵を見ていたが、ライだけはそうではなかった。彼はまるでそうなることを知っていたかのように平然としていたのだ。


「……とりあえずは、ライさんの話を聞きましょうか」


カズマはそう言ってライの方を向く。それに合わせてカエデも同じ方を向き、自身の肩に乗っている小ぶりなスライム?のような物体を撫でている。俺もいつまでも曲げられない現実に打ちひしがれている場合ではないため、耳だけはライの方に傾ける。


ライは喜びを噛みしめるような笑顔で話を始めた。


「君たちは本当に……本当に!優秀なようだ。やはり、私の見る目は正しかったというべきだろう」


自慢気に言っているが、これが偶然だとは言えない。それに結果的にそうなっている事実がここにある。

ライの話はさらに続く。


「それでは諸君!一次試験も終わった。玩具選びも終わり、君たちは無事に権利を勝ち取った。であれば、次は君たちが行う仕事についての説明をしなければならない。こちらを見てもらおう」


ライはいつの間にか持っていたリモコンを操作し、上からスクリーンを出す。映し出されたのは『仕事の内容説明』と書かれたスライドであった。


「一度しか言わないため、聞き逃しをしないように。では始めていこう。まず、君たちにしてもらう仕事は玩具の破壊活動だ」

「…は?」


俺は不思議に感じた。この会社の利益はどんな場所から来ているのかと思えば誰でも思いつく。

玩具だ。玩具の存在は、一般には知られていない。そんな得体の知れない物を管理し、利益を得ているのだと俺は勝手に考えていた。だから、ライの言った言葉は、到底納得できるものではなかった。


「楓君、不思議そうな顔をしているね?」

「だって、この会社って玩具で利益を生み出しているんでしょ?」

「その通りだ。それで?君はそのことを誰から聞いたんだい?」


どうやらカエデも俺と同じように疑問に思っていたようだ。隣のカズマも頷いている。

カエデの質問に答えつつもライの見る目は警戒をしているような目であった。


「えへへ、内緒」

「……まぁいいだろう。楓君が言うように我が社では、玩具を管理することで利益を生み出している。これ以上は詳しい話をするつもりは無いため、質問はしないように」


追求することを封じられたため、これ以上は聞くことは出来ないだろう。


…先回りして質問を潰しやがったな?


俺は心の中で悪態をつく。聞きたいこともあったが、それは質問したところで答えてはくれない。

切り替えて、俺はライの説明が続いているため、そこから情報を取りこぼさないように慎重に聞く。


「玩具にも幾つかの種類があることは理解しているね?君の剣と彼女の動物が良い比較になる」

「なるほど」

「玩具には管理方法がある。そして、その管理方法の難易度は簡単に我々の中で決められているのだ」


スライドに4つの文字が映し出された。


「この四つに管理の難易度は分類されている。左から右に行くにつれて難易度が跳ね上がると考えてもらって構わないよ」


スライドには、四つの絵と文字が映っていた。

絵に関してはあまり、理解できないがそれでも文字は学のない俺でも読める。


【ケシル】、【ハカム】、【マザル】、【テフィラー】


の四つが読めた。どの言葉もまるで聞いた事がない単語で、意味が全く持って理解できないが、左から順に難易度が高くなることは理解できた。


「さて、仕事の内容も話したので研修を行なってもらうよ」

「研修なんてものがあるのか」


俺は少し意外そうに言う。

この手の会社であれば、いきなり業務をこなすように言ってくるものだと思っていた。


「研修は、君たちの先輩が付き添うから…頑張ってね?それじゃあ、頼んだよ?先輩方」


そう言ってライは俺たちではなく俺たちの後ろに視線を向ける。俺たちは、それに釣られて後ろを向く。


和服の女性、スーツの男性、杖をついた老人。

随分と統制のとれていないメンバーだと思ったが、それはこちらも同じ事であるため口には出さない。


彼らは、いつからそこに居たのかはわからない。


「あらあら、随分と可愛らしい後輩じゃない?」

「警戒心が無さすぎることは問題だね。減点だな」

「まぁ、そう事を急くでない。お主の悪いところじゃ」


カエデの前には美しい女性がいた。この場には似つかわしくない赤い和服を着ており、妖艶な笑みを浮かべて全員を眺めていた。その隣に眼鏡をかけ、クリップボードを持ちながらそれにペンを走らせている賢そうな男性が立っている。

俺の前には白く細い杖をつき、腰を曲げながらこちらを神妙な顔つきで見ている年老いた老人がいた。


「ほう…お前さんが儂の担当する後輩じゃな?」

「…鈴木 大智だ。よろしく頼む」

「儂は拓人じゃ。挨拶ができるのはいい事じゃ。では、早速で悪いが君には儂と来てもらうぞ?」


目の前の老人からは、有無を言わせない圧を感じた。

他の2人も先輩たちと何やら話しているようだが、俺はひと足先に爺さんに連れられて部屋を出た。


「仕事をするのか?」

「先ずはお主が持つそれについて詳しく知る必要がある。仕事の体験はそれからじゃよ」


鍵を握る力が強まる。

こいつを知る必要と言われても…こいつを使う気になれないのが現状なんだよな。わざわざ危険を冒してまで知りたいとは思えないなぁって…そう言えば。


「これを使った事例があると聞いたんだが…」

「ある。25年前…その鍵を無断で使用した愚か者がおった。その時の記録は残っておるが生憎と儂では手が届かん」

「駄目か…それにヒントがあるかと思ったんだがな」

「声は聞いておらんのか?」


爺さんは俺にそう問う。

声とは誰のだろうかと思ったが、一つだけ心当たりがあった。あの門をくぐり抜ける途中で体験したあの空間での出来事を思い出す。あの目の前にいた影に言われた言葉。


『王よ、我々を使え、その欲を満たせ。そして――』


最後までその言葉は聞こえなかったが、あの影は使えと言っていた。

つまり、声に従うのであれば呼べということだろう。罠という可能性もあるが、そんなことを言えばきりがない。


「…地下四階に行く」


入り組んだ通路を爺さんの先導で進み、エレベーターに乗る。

エレベーターには地下六階までのボタンが付けられていた。四階のボタンを押し、そのランプが光るとエレベーターの扉は閉まり、動き出した。ちょっとした重力をその体に感じると、直ぐに四階のランプが点滅して扉が開く。


「ここで何をするんだ?」

「言ったであろう?先ずはお主の持つそれについて知るべきだと。この階は、玩具の実験フロアじゃ

よ。部屋は借りておる。4‐H6という部屋じゃ」

「…これ一つ一つが部屋?」


連れてこられた場所は、天井が高くて長い通路が延々と続いているようなところであった。

規則的に扉が付けられており、その扉を確認すると全てが自動ロック式のものとなっていた。扉の横には部屋の番号が書かれている。俺が見た部屋の番号は『4‐A1』という番号であった。


「Hの列はこっちじゃよ。ほれ、あまり呆けておると置いていくぞ?ここは有りえんほど広い、迷ったら終わりじゃぞ」

「いや、部屋の番号を見れば帰れるだろ」

「つまらんの~?」


なんだこの爺さん。俺の事を完全に茶化しに来てるな。

どれくらいこの会社にいるかわからんけど、25年前のことを知っていることからかなり長くこの会社にいるのだろう。


「この列じゃな。ほれ、部屋を探して早く入れ」

「気の早い先輩だな?」

「儂に残された時間は長くないからの~?気が早くなるのも仕方あるまい」

「…そ、そうかよ」

「今のは笑うところじゃぞ?」


いや笑えねぇよ!

そんな爺さんジョークで笑える奴なんかいないだろ。え、いないよな?


部屋を見つけ、俺だけ部屋の中に入る。部屋は俺が入ったところで閉められカチャッというロックがかかった音がした。


「…おい?」


部屋を見渡すと上にガラス張りになっている場所があった。

よく見ると爺さん以外にも研究員のような人がこちらを見ている。さしずめ俺は実験動物のようだと思ったが文句は言うまい。爺さんはそんな中で優雅に座りながら俺の事を見ている。

目が合うと顎で『さっさと呼べ』と顎で俺に言ってきた。


死にたくねえ…だが、呼ばねぇと次に進めねぇ。


「仕方ない。うん、これは仕方ないことだ。もう、さっさと呼んで直ぐにお帰り願おう」


俺は鍵を持つ。すると目の前にぼんやりと見覚えのある扉が出現した。蜃気楼のように朧気でゆらゆらと揺らめている。扉には鍵穴が付けられており、俺はそれに鍵を差し込む。

そして回すとカチッと音と共に扉が霧散していく。

扉は無くなったが、その場所には別の存在がいた。それは、俺の背を遥かに越しており、黒い体毛に覆われていた。目を閉じ、静かに伏せて待っている獣の姿であった。


「狼か?」

「いえ、悪魔です」

「喋った!?」


そいつは俺が小さめに呟いたことを訂正し、普通に喋りだした。

唐突のモフモフ要素…俺でなくちゃ見逃しちゃね

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