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玩具とは何か?


カエデの目は酷く濁っていた。普通の人から見たら可愛らしい女の子だろう。しかし、普通ではない、外れた者たちから見ればそれは異質であった。その身に纏う雰囲気は、明らかに違っている。

カエデは、俺のことをじっと見つめた後に不思議そうな顔をする。


「おじさん、なんでこの会社に来たの?」


至って普通の質問であった。まぁ、高校生が大人の男の人にしているという状況を除けばだがな。

俺はそれにあまり答える気にはなれなかったが、カエデの方は「興味があります」という目をしており、どうも煙に巻いて逃げることはできそうにないと悟った。俺は少し気怠げに、その質問に対する答えを探す。


「金だ。それ以外でもなんでも無い」


そう、普通の答えであった。会社に働きに来ているのにお金が目的の一つではないのはおかしい話である。だが、カエデからしたらあまりにも普通すぎる返答であったのか不満げな顔をする。


「本当にお金だけ?」

「そうだぞ。お前が望んでいるような面白い理由なんて無いんだよ」

「なんで私が面白い理由を欲してるってわかったの?まさか…思考が読めるの!?」

「いや、表情見れば誰でもわかるだろ」


「えっ!?」と驚きながら顔を手で触るカエデ。

それを見ながら苦笑している俺とニヤニヤと微笑んでいる白衣の男。

それからもカエデとの会話は続いた。俺としては、静かに待っていたかったがカエデがそうはさせるかとずっと話を続けさせる。ほぼ質問攻めのような感じにはなっていたが、それでもこんなにも人と会話をしたことが久しぶりだったので、楽しかった。


やがて、一人の男が入って来る。男は黒いタンクトップを来ており、顔から肩にかけて奇妙な入れ墨が入っていた。それは、絵や文字ではない何かの模様のような入れ墨であった。

厳つい見た目であるが、男の表情にはどこか弱々しく感じる部分があった。キョロキョロと見渡して俺と視線が合うと軽く挨拶をしてくれる。

人は見かけによらないとは正にこのことを言うのだろうと感じた瞬間であった。


「やぁ!やぁ!君が最後の合格者だね?確か名前は…」

「藤井です。藤井 和真」

「そう、藤井くんだ!どうだい?少し小腹が空いているのではないかね?」


白衣の男は手前にある料理を食べるように勧める。俺は、その料理が毒であることを知っているため、止めようとするがとっさにカエデに手で制止させられた。首を小さく横に振っていた。

カエデは、毒に気づいていないのではないかと思ったが、ふとして考えてみるとカエデは、調度品には、手を出そうとしていたが料理には全く手を付けていない。俺と話しているときも水すら飲まなかった。


俺たちが静かに見守っていると和真は少し悩んで頭を軽く下げる。


「大丈夫です。これ…とても美味しそうですけど食べたらきっと死んじゃうんで。お腹が丈夫なら平気でしょうけど、私はそうではないので遠慮しておきます」


俺は目を見開いて驚いていた。俺がこの料理の毒に気がついたのはあの婆さんが伝えてくれたからだ。

だが、カズマは違う。何も伝えられていないのに、なぜかは分からないが目の前にある料理が毒であることを見抜いた。

白衣を着た男も一瞬であるが目を見開いた。このカズマの反応は奴としては予想外のことだったのだろうか。だが、直ぐに目を細めて気分良さげに笑い、手を叩く。


「素晴らしい!本当に素晴らしいよ!今年の新人はどれも優秀だ。…では、全員が揃ったところで次のステージに進もうではないか」

「…次?まだ何かやるのか?合格者は、この会社で働くことができるんだろ?」


白衣の男は、質問をした俺を見て頷く。


「そう。働くことが出来る。だが、それは餌として働く権利だ。これから君たちに得てもらうのは、彼らの遊び相手として働く権利だ」


意味の分からないことを白衣の男は説明する。

餌…その言葉を聞いて浮かんだ映像が最初に見せられたあの映像であった。女性の会社員が得体も知れない化け物に取り込まれる映像。…仮にあれがこの男が言う餌としての仕事であるのなら、俺は次に進まなければならない。


「わかってくれたかい?君たちは、まだ本当の合格者ではない。次に君たちにやってもらうのは、自分の玩具を手に入れることだ。つまり、玩具選びだ」

「…玩具選び?」


前のカエデが怪訝そうな顔で言葉を復唱する。

白衣の男は、こちらに来るように促しながら部屋を進む。そして狭い通路に入り歩いていく。随分と狭い通路で二人でも並んで歩くことが出来ない。俺たちは一列にならんで白衣の男の後ろを付いていく。


「この会社は、君たちが感じているように普通の会社ではない。そして、ここで働く職員もまた普通ではない。私を含めてね」

「じゃあ、玩具ってどんな意味なの?」

「私達の言う玩具とは、例えば…先程君たちの前に出されていた料理とテーブル。あれが我々の言う玩具だよ。あの玩具の名前は【最後の晩餐】だ。有名所から名前を借りて付けてみたのだがいいだろう?あの玩具には幾つかの性質があるのだが――」

「ちょ、ちょっと待ってください!あ、あれが玩具?ただのテーブルと料理じゃないんですか?」


白衣の男が説明を続けようとしたところを俺の後ろにいるカズマが止める。俺も少し驚き過ぎて、思考が止まっていた。あれが、玩具だとすれば玩具とは俺たちが考える物ではない。それに、あれで一体誰が遊ぶと言うんだ。


「そう、見てくれはただのテーブルと料理だ。しかし、あのテーブルに皿を乗せれば料理が生まれる。ムから料理が生まれるのだよ。面白いだろう?それに、その料理は出来たてのように生まれてくる。ここだけ聞けば大変素晴らしいテーブルであり、飢餓に苦しむ者たちを助けることが出来ただろう」

「……違ったんですか?」

「あぁ、違った。あの料理には秘密があった」

「毒か」

「その通りだ」


俺はその料理が抱える問題を知っていた。果物を突いた時に中から溢れてきたのは果汁ではない何か。

その液体は皿、突いたフォークすら溶かしていた。


「あれは、毒及び人体に害を与える物質を内包するのだよ。だから、食べたら間違いなく天に召される」

「…なんであんな場所に置いておくんだよ」

「見てくれは良いからね。出てきた料理はいつまでも腐らず、新鮮なままだ。インテリアとしてはもってこいだろう?」

「なるほど~…確かにあれほど豪華な食事が並んでいるのは初めて見た。物凄く怪しいから手は出さなかったけど…出してたらヤバかったね」


…そんなに怪しいとは思えなかったんだよなぁ。いや別に負け惜しみとかそんなんじゃないけどさ。

あれに毒が入っているとか普通はわからないからな?


「すみません、貴方が見せてくれたあの映像…あれに映っていた物も玩具なんでしょうか?」

「私のことはライと呼ぶといい。そしてそれに対しての答えは、イエスだ」

「そうですか、ありがとうございます」

「さぁ、立ち話はここまでだ。先ずは、ここで玩具選びをしてもらう」


狭い通路を抜けるとそこは先程までいた部屋よりかは狭い部屋であった。しかし、たった一つだけ異質な部分があった。


「この門は、一体何なんですか?」


真っ黒に染まった門があった。門の幅は人が三、四人位のもので細すぎる訳では無い。

綺羅びやかな西洋風のこの部屋には明らかに馴染んでいなさすぎるものであり、一際目立つ存在感を放っていた。


「【選定の門】と言う。この門をくぐり抜けることが出来れば君たちは本当の合格者になる」

「……くぐり抜けれなければ?」

「安心したまえ、死にはしない。ただ何も起こらないだけだ」

「何も?本当は何かが起きるような言い方だな?」

「この門をくぐり抜ける途中で、選定の門を通じて彼らが見極めるはずだ。彼らは自分を使って遊べる者を探しているからね。君たちにその力があるのであれば、あちらから話しかけてくるはずさ。…さあ、誰から行く?」


誰も手を上げない。

それもそうだ。普通なら自分から気味の悪い門を潜ろうとは思えないだろう。


俺は手を挙げる。


「お、鈴木君か。じゃあ、頑張ってね?」


だが、この場所において普通を演じる必要性は無い。

であるのなら、俺は行こう。誰よりも外れた道を歩き、剣山そびえる近道でも臆すること無く進もう。

それが、あの場所にたどり着く道であるなら。

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