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32.新しい友達

 山程の紙袋を両手に抱え、ロッティは深々とお辞儀した。


「え、エレナさんっ。たくさん、たくさん選んでくださってありがとうございました……!」


 感極まりすぎて喉が詰まりそうになる。


 本当は、こんなにも買い込むつもりなどなかったのだ。

 けれど友達が増えたことに浮かれしまい、ついつい財布の紐が緩んでしまった。それでも、まあいいか、とロッティは思う。


(だって、お友達と遊ぶにも服は必要だもんね……!)


 えへへと照れ笑いすると、エレナも嬉しそうに頬をゆるめた。


「いえいえ、こちらこそ毎度ありですよー! それに、あたしもすっごく楽しかった! これでもう、あたしとも友達ですねっ」


「エレナさん……!」


 じぃんと感動にうち震えるロッティを見て、クリスがつんつんとフィルを肘でつつく。


「おいフィル。またひとり友達が増えちまったぞ」


「…………」


「フィルの弟よ、同性ならば問題無いのだ。男ならもちろん抹殺するがな。なあフィル、あははははは」


「…………」


 ちっとも笑っていない目でバートから腕を掴まれても、フィルにはもはや反応する元気もない。

 いろんな服を試着して、可愛いロッティを見るのは大変に楽しかった。大いに堪能した。


 ――が、しかし。


「ロッティ。またおれとデートしようなー?」


「ロッティ殿。改めて、エレナの夫のバート・オルグレンと申す。よければ俺とも友人になってくれまいか」


「ははははいぃっ! よ、よろしくお願いしますうぅっ」


「…………」


 おいそこ、男なら抹殺すると言ったのはどの口だ。


 ゆらりと怒気を立ち昇らせるフィルを、バートは得意気に振り返る。無言で睨み合っていると、エレナが困ったように眉を下げた。


「ごめんねー、ロッティ。あ、もう呼び捨てでいいよね? うちの旦那ってばこんな顔だけど、全然怖くないのよぅ。むしろ可愛いの!」


 強面の顔を一瞬硬直させたバートは、首をひねりながらエレナの隣に立つ。


「いや、エレナ。俺は決して可愛くなど」


「可愛いの! ねっ、そうよねぇバート?」


「…………」


 腕に抱き着き、あざとく瞳を潤ませるエレナをバートはまじまじと見返した。ゆっくりと手を伸ばし、エレナの前髪を留めるキラキラしたピンを抜き取る。


 不器用な手付きで自身の髪に装着すると、重々しくロッティを振り向いた。


「そうとも。この俺こそが世界で一番可愛い男」


 こてんと首を傾げる大男にロッティは息を呑み、こぼれんばかりに目を見開く。


「そっ、そうだったんですね……! 私ってば、見た目で判断しちゃって申し訳なかったですっ」


「ちょっと待とっか? 可愛い男勝負なら、おれだって全然負ける気がしないけど?」


 斜め上な自信に満ちあふれる同僚と、純真すぎて心配になる素直なロッティ。そして、なぜか対抗心を燃やすアホな弟。


 突っ込みどころが多すぎて、もはや何から手を付けるべきかわからない。

 どっと疲れを覚えたフィルは、バートとエレナに力なく会釈した。


「……それじゃあ、僕らはこれで」


「ええ。またぜひ遊びに来てくださいねー!」


「また明日な、フィル」


 バート夫妻に別れを告げて、三人並んで歩き出す。さり気なく車道側に立ったフィルは、ロッティから荷物を取り上げた。


「実は、昼食がまだなんです。ロッティはもう済ませましたか?」


「わ、私達もまだ食べてないです。というかフィルさん、荷物……!」


「クリス。ロッティは僕が送っていくから、お前はもう帰って構わないぞ」


 ロッティの届かない高さまで紙袋を遠ざけて、満面の笑みで弟を見下ろす。クリスはしかめっ面になると、これみよがしに肩をすくめた。


「邪魔者は追い立てようって魂胆かよ。……ま、別にいいけどさぁ。どっちみち、そろそろ稽古に戻んなきゃいけなかったから」


 さばさばと告げて、一生懸命背伸びしているロッティの頭をぽんと撫でる。


「そんじゃまた近いうちに! カイさんに会ったら、お礼を言っておいてよ」


「カイさん?」


 ロッティがきょとんと目を丸くする。

 フィルはクリスの手を素早くはたき落とすと、「どういうことだ」と整った眉をひそめた。


 クリスがいたずらっぽく舌を出す。


「今朝一番でオールディス商会に行ったんだよ。『あのぅ。ぼく、宝玉の魔女さんに用事があるんですけどぉ』って舌っ足らずにねだったら、すぐに担当のカイさんとやらを呼んできてくれて」


「……カイには、お前のことを話してあるぞ?」


 脱力するフィルに、「みたいだね」とクリスはあっさり頷いた。


「もしかしてフィルの弟か、ってすぐに聞かれたからさ。髪と目を見てピンときたみたい。お陰で話が早くって、すぐにロッティの家を教えてくれたんだ」


「あ、ああ……。道理で」


 急に来るからびっくりしちゃいました、と笑うロッティを見て、フィルがみるみる眉を吊り上げる。クリスに向かって声を荒げた。


「女性の一人暮らしに押し掛けるとは何事だ?」


「胸に手を当ててもう一度言ってみなよ。カイさん、途中まで送ってくれたからさぁ。面白おかしく話してくれたよ? しつこい付きまといに迷惑なプレゼント攻撃。友達に昇格できたのだって、つい昨日の話だっていうのも」


「…………」


 フィルはあえなく黙り込む。


 カイのやつ覚えてろよ、と呻く彼に、ロッティは堪えきれずに噴き出した。滲んだ涙をぬぐいながら、荷物がなくなって自由になった手でクリスの手を握る。


「ロッティ!?」


「クリスさん。また、いつでもうちに遊びに来てくださいね?」


 朗らかに告げると、クリスは珍しく照れたように目を逸らした。機敏に駆け出して、二人に向かって大きく手を振る。


「今の演目、あとちょっとで千秋楽なんだ。すぐに別の芝居の稽古が始まるから、今度絶対に見に来てよ! そんじゃね!」


 あっという間に小さくなっていく彼の背中を見送って、ロッティは何度も深呼吸した。よし、と覚悟を定めてフィルに向き直る。


「フィルさん。お話したいことがあるんです。――クリスさんの、魔石に関して」

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