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 あたりが急に暗くなった。真っ暗だ。

 目を閉じているのか開けていないのかわからないほど暗い。

 そして上下左右前後の概念がなくなる。まるで宇宙。

 いや、宇宙の方がもっと光があって概念がはっきりしていそうだ。

 もはや無。無の空間。

 しかしこの感覚は知っている。

 ゆがみだ。

 ゆがみに巻き込まれたときに味わったものだ。

 またどこかに飛ばされるのだろうか。

 邏卒たちからは逃れられたかもしれないが、まだ楽にはなれそうにないということか。

 でも涼の手は離さない。涼も俺の手を離していない。

 たぶん大丈夫。涼がいるなら大丈夫。 

 ここが無だとしても、涼がいる限り無じゃない。



  □◇■◆



「「うわぁあああ」」

 ゆがみから放り出される。

 やはり着地はうまくいかない。慣れたいものだと思ったけれど、もうゆがみには巻き込まれたくないと考え直す。

 柔らかいものを俺に押し当てるように上に乗っかっていた涼を

どかすと、強打した腰をさすりながら周りを確認する。

 一体今度はどこに飛ばされたというのだろうか。

「痛ててて……。ってあれ?」

 周りの景色に驚く。

 遅れて涼も「うーん……」と言いながら上体を起こす。

「え?? 社長!?」

 俺たちの前にいたのは椚田社長だった。

「ひ、、久しぶりじゃったが……う、上手くいったようじゃな……」

 そう言うと社長はぐったりと後のソファに沈み込んだ。

 一体全体どうなっているのだろうか。

「はいはい、社長。お疲れちゃん」

 いかつい元ヤンみたいな、元レディースみたいな女の人が社長にリポのつかないビタンの妖を渡す。

 社長は力なさそうに受け取っている。

「姉貴!」

 涼がそのブリーチで傷んだ髪の女の人に向かって言った。

「ったくよ。育休明け一発目でこんな大仕事させやがって」

 涼は「姉貴! 姉貴!」と言いながら、姉貴と呼ばれる女の人に抱きついていた。

「暑いだろうがッ!」

 そう言って涼を引き剥がすと、今度は俺に目を向けた。

「お前が寒葉逢夢か」

 床に座っている俺に視線を合わせるように、ヤンキー座りをして言う。

「は、はい!」

 自然と背筋が伸びる。

 ポケットをがさがさして何かを取り出した。そのときセブンスターが落っこちた。

「あたしは込縄(こみなわ)桐子(きりこ)だ。四露死苦!」

 名刺を一枚俺に差し出しながら言った。

 幽玄会社不思議の社員のようだ。つまり先輩だ。

 会社の駐車場に停まっていたデコトラを思い出した。

「よ、よろしくお願いいたします」

「そんなかしこまらなくていい。涼みたいに姉貴でも、他で呼ばれてる姐さんでもいい。好きなように呼びな」

「は、はい。それじゃあ桐子姐さんって呼びます」

「悪くないな」

 桐子姐さんは「ふっ」と笑って言った。

 その時、騒がしく扉が開かれた。

「おお、戻られたか! 涼殿! 逢夢殿!」

「よ、よかった、です……」

 現れたのは廉次郎さんとばなりんさんだった。

 俺らが戻ってきたのは幽玄会社不思議の社長室だった。

 廉次郎さんたちに促され、ぐったりする社長を置いて会議室に移動する。

 そこでゆがみに巻き込まれた後のこっち側での状況を教えてくれた。

 廉次郎さんは俺らがゆがみに巻き込まれたとわかると、すぐに会社に戻り社長に報告したらしい。

 それから一般業務は中止にして、俺らの救出を優先させてくれたとのこと。

 ゆがみに巻き込まれるとどこに飛ばされるかわからない。関東圏外だと能力が及ばないため、救出しようにも手が出せない。

 だからいつ俺らが関東に入っても、すぐに対応できるように会社全体で構えていてくれたらしい。

 廉次郎さんとばなりさんは顧客へキャンセルの電話やもろもろの事務をこなしていたとのこと。

 育児休暇明けで時短を使っていた桐子姐さんは、出勤早々最悪の状況を聞き、あっち側全域にサーチをかけ、関東に俺らが入ったことをいち早く察知できるようにしていた。

 桐子姐さんが「蜘蛛の目玉の数とネットワークなめんな」と、ドヤ顔をしながら教えてくれた。

 そして察知したらすぐに椚田社長が転移をさせた。

 涼が昨日“ごはん処ろくろ”で輪くぐり以外に移動する方法に、強い妖力があればできると言っていたが、社長は相当な妖力を使えるということだろう。

 ちょうど邏卒たちがドアを開ける瞬間に、間一髪関東圏内に突入したということだ。

 しかし社長はかなりの妖力を消費したらしく、ぐったりしている。迷惑をかけた。

 でもどうしてここまで俺らの救出に力を注いだかというと、社員を守るためというのももちろんだが、これは会社にとってとんでもない不祥事だから、という側面もあると言っていた。

 そりゃそうだ。ばれたら殺されるようなことをしたのだ。

 なのでこれは会社としてはなかったことになる。いわゆるもみ消し。

 結果として帰ってこられたし、このことを知っている部外者は萬屋のおっちゃんだけ。

 おっちゃんと社長は旧知の仲らしく、多分問題ないとばなりんさんは言っていた。

 ただこれで他の店から買物はできないと、ぼそっと付け加えていた。

 廉次郎さんも「拙者がいたのにかたじけない」とかなり反省していた。俺としては廉次郎さんに非はないと思っているが、本人は自分に厳しいようだ。

 そんな話を聞いていたら、会議室のドアが開いた。

「ま、まだ残っておったのか」

 しんどそうな社長が立っていた。

「社長、申し訳ございませんでした」

 俺はすぐに駆け寄り頭を下げた。

 遅れて涼も隣で「申し訳ございませんでした」と謝る。

「うむ。これからは気を付けるように」

「はい。このことは口外いたしません」

「うむ。まあばれても何とかするだけだ。とにかく無事でよかった」

 そう言うと、壁に手を当てながら弱々しく社長室へ戻っていった。

「それじゃあ、あたしらもビタンでも飲んで帰るとすっか」

 桐子姐さんがそう言い、栄養補給をすると、何事もなかったかのように揃って退社した。

 長かった入社二日目が、なんとか無事に終わった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 社長!助かった~! 姐さんも強キャラでいいですね( *´艸`) とりあえず無事に帰ってこれて良かったぁ~。
[良い点] まだ入社2日目だったか… 社長とお姉さん強そうで好き笑 実家のような安心感のある会社だ… 読み始めたらちょうどキリのいいとこが最新だったので良かったです笑 今後の展開も楽しみにしてます!…
[良い点] 社長〜っ!! そして桐子姐さんっ!! 女性キャラがカッコイイのって素敵ですよね(*'▽'*) ばなりんちゃん、廉次郎さんも相変わらずいいキャラしてて楽しいです( *´艸`) 涼さんと手を繋…
2022/05/16 07:58 退会済み
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