表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
541/555

決戦 1

私を抱えたモコは、戦う皆から少し離れた場所へ降りる。

気付いてこっちへ向かって来たミゼデュースのヘビの頭を、魔力を凝縮させた一撃で吹き飛ばした!

でも頭はすぐ再生して、しかも二つに分かれて牙を剥く!


「鬱陶しいね」


傍に私を降ろすと、また周りに魔力の防壁を張ってくれて、モコは手元に現した弓矢を引き絞る。

ヘビに連続して何発も矢を撃ち込みながら「はる」って話しかけてきた。


「大丈夫だよ、妖精に助けてもらおう」

「妖精?」

「友達、呼んでごらん、きっと力になってくれる」


どうして妖精なんだろう。

でも、モコが言うなら。


どうやって助けてもらえばいい?

呼べばいいのかな。

―――そういえば、ニャモニャの里でもらったあの石。

信頼の証って言っていた、大切な宝物だから今も持っている。


小物入れから取り出した石を両手で強く握る。

助けて。

皆、力を貸して。


石が、なんだか温かい?

トクン、トクンって、鼓動みたいな振動が伝わってくる。


あっ、声が聞こえた!


『ハル』

サフィーニャの声だ!


『ハル様』

この声はヴァニレーク!


『恩人様!』

これはワフリス。

よかった、砂漠が虚に呑まれたって聞いて心配していたんだ。

無事に逃げたんだね。


『ハルルーフェ様~ッ』

モルモフたち。

パヌウラやルルと一緒に避難中かな、気をつけて。


『姫』

ネモネと、『姫ぇッ』って小さくフィラの声も聞こえた。

ふふッ。


『ハルルーフェ』

これは―――妖精の女王。

緑の君、モーシェルの声。


目の前にふっと光が現れる。

精霊だ!

どんどん集まってくる!


「モコ!」


呼ぶとモコは振り返ってニッコリ笑う。

本当に妖精の皆が助けてくれたよ、有難う!

おかげでまだ戦える!


「力を貸して! ディクチャー・ヴェンティ・レガート・ストウム! ディクチャー・ガラシエ・コンペトラ・ストウム!」


精霊の加護の守りを!


「セレス! ヴェンティ・デリュース・コンペトラ!」


セレスの剣に、風の精霊ヴェンティの力を!


「カイ! ガラシエ・ヴェーレ・コンペトラ!」


カイには氷の精霊ガラシエの力を!


「モコ! メル! ディクチャー・ヴェンティ・デリュース・コンペトラ!」


モコとメルには風の精霊ヴェンティの力を、そして。


「ラーヴァ! イグニ・レーヴァ・コンペトラ! エレ! トートス・レーケパー・スウィグ!」


ラーヴァには火の精霊イグニ、エレには雷の精霊トートスの力を!


『うおおおおおおおおッ! 漲るううううううッ!』

『これは有難い』

『ハルルーフェ! 主と共に在らば我らは何ものにも負けん!』


ラーヴァが激しく炎を吐き、エレは雷を幾つも落とす。

その間を掻い潜ってセレスがミゼデュースを切り裂く! カイは氷の槍で貫いて、メルは風の加護が宿った弾丸を撃ち出す!

モコも翼を広げて力強く羽ばたいた!


「ケレア・シクド」


衝撃波がミゼデュースを切り裂く!

戦況は攻勢に向いたけれど、それでもまだ押され気味だ。


「はる!」


急に視界をモコの翼で覆われた。

何かさく裂して、また吹き飛ばされそうッ!


「うッ、ヴェンティ・レガート・ストウムッ!」


今度は風の防護壁が間に合う。

ふらついて転んだけれど、モコが張ってくれた防壁の中からは出ていない。


さっきから何が―――成り損ないがこっちへ向けていたヒレを降ろす。

そうか、狙われていたんだ。

皆を守るだけじゃなく、私自身も何か手を打たないと。


小物入れから別の香炉を取り出す。

受け皿に垂らすのはエノア様の香り。

底部の熱石に魔力を通して、鎖で垂らした香炉を揺らす。


「ヴィーラセルクブレ、応えよ、我が助けとなれ!」


大きいのを呼ぼう。

私と―――リュー兄さんだけが呼べる精霊の源。その純粋な力と意志を。


足元がポウッと光って、緑に輝くツルがスルスルと伸びる。

そのツル同士が絡まり合い、何かの形をとっていく。

獣だ。

頭から背にかけて生え揃うフサフサした濃茶のたてがみ。

真夏の青葉のような深緑色の瞳。


リュー兄さん?

なんだか似ている。


思わず獣と見詰め合って、ハッと我に返った。

そうだ、今は他に気を取られている場合じゃない。


「お願い、私を守って」


獣は頷いて、一声吼えるといきなり飛び掛かってきた!

でもその姿は目の前でふっと消えて、全身が淡い緑の光に包まれる。

あったかい。

なんだか兄さんに抱きしめられているみたい。


これできっと大丈夫。

香炉を小物入れにしまう。


「フルースレーオー、花よ咲け、温もりよ届け!」


腕を前へ伸ばして唱える。


「―――ヴァティー!」


フワッと咲いたバラに似た赤い花が辺りを埋め尽くしていく。

花に触れたミゼデュースの動きが途端に鈍くなる。


「パナーシア!」


皆に治癒を!

―――さっきみたいに眩暈がしない。

不思議だ。

体の奥から力が湧き上がってくる。


駆け出したセレスが勢いのまま飛んで巨人のミゼデュースに斬りつける!

滑空するように宙を飛んで着地すると、振り返りざま飛来した鳥のミゼデュースを斬って後ろへ飛び退く。

そこへもたげた鎌首を繰り出すヘビのミゼデュースめがけて、カイが氷の槍を投げつけた!


カイは手に新しい槍を次々と現して立て続けに投擲する。

頭上から襲い掛かる獣のミゼデュースに、喉の辺りを槍で貫いた!

落ちてくる体の下を滑り抜けると、今度は背中へ槍を突き刺す!


空からはメルが銃を撃って二人を援護する。

傍をラーヴァが羽ばたいて、炎を吐き、巨人のミゼデュースに鋭い爪を振り下ろす!

一撃を受けて崩れたミゼデュースに太い尾を叩きつけ、更に炎を吐いた。


エレは雷を落としながら、爪でミゼデュースを砕き、尾を強打する。

向かっていった鳥のミゼデュースが特大の雷を受けてバラバラに砕けた!

だけど、また別の場所から湧いたミゼデュースが同じように歪な翼で空へと羽ばたき、襲い掛かっていく。


『マジでキリが無いッ!』


ラーヴァが叫ぶ。


『いい加減、何とかならんのか!』


―――モコが振り返って「はる」って少し焦った様子で声を掛けてくる。


「えのあの花、同時に咲かせられる?」

「うん、今なら大丈夫」

「急いで、ぼくは障壁を張る」


どうしたんだろう。

とにかく花を咲かせよう。


「フルースレーオー、花よ咲け、声よ響け! トゥエア!」


掌から青色の花が零れる。

続けてもう一度!


「フルースレーオー、花よ咲け、眼差しよ伝われ! リトリス!」 


黄色い花が溢れ出す。

二つの花は混ざり合って辺りを満たす。

モコが戦う皆を覆うくらい大きな規模の障壁を張った直後、今までにない激しい揺れが起こる!


「うわッ」

「なッ、なんだ!」


空ではメルと竜たちまで体勢を崩している。

これは地震じゃない。

大気も震わせるほどの膨張した魔力だ!


グオオオッと雄叫びが響く。

成り損ないが全身を震わせている。


空から、無数の魔力の柱が降り注ぐ!

モコの障壁を貫いて、皆を激しく打ち付ける!


―――う、ううッ。


す、すごい、勢い。

モコが殆ど防いでくれたけど、少し足を痛めた。


あっ、セレス、カイ!

向こうで這うようにしている、大分傷を負った様子だ!

メルと竜たちも!

モコは? ああ、酷い。

翼も体も傷だらけ、私の分まで引き受けてくれたんだ。


座ったままエノア様の花の中心で、両手を組み合わせる。


「パナーシア!」


皆、大丈夫だよ。

傷は私が全部癒すから。

だから立ち上がって。

あと少し、一緒に戦って!


セレスが立ちあがる。

剣を構えて駆け出していく。

カイも、氷の槍を握って成り損ないへ向かっていく。

有難う。

―――ごめん。

でも、私一人じゃ戦えない。

この世界を消滅させないために、どうか力を貸して!


さっき降り注いだ柱はたくさんいたミゼデュースも砕いて粉々にした。

だけどまた新しいミゼデュースが湧いてくる。

昆虫のようなミゼデュース、ドロドロと不定形のミゼデュース、触手のように管を生やしたミゼデュースもいる。


そして。

ズルリと這い出てくる、腰から下が魚の、黒一色で塗りつぶしたようなミゼデュース。

翼の生えた子供みたいな姿のミゼデュースも湧いて出る。


「クソが!」


カイが吐き捨てる。

空でメルも顔を顰めてそのミゼデュースを見下ろしている。


「あれ、ハーヴィーとラタミルのミゼデュース?」

「ううん、違う、形を似せているだけ、取り込んだ眷属を部分的に利用しているけれど、別のものだよ」


モコが答えてくれる。

それでも、あれはあんまりだ。

別の大きなミゼデュースも現れた。


『おおう』


ラーヴァが唸る。

まるで竜のような形のミゼデュース!


『最悪じゃのう』

『そうだな』

『紛い物をあてがわれるとは、舐められたもんじゃ』


「珍しく意見が合ったじゃねえか」ってカイが振り返ってラーヴァに声を掛ける。

ラーヴァはフンッと鼻を鳴らす。


『ンなもんちっとも嬉しゅうないわ、それより』

「あ?」

『主らハーヴィーは情深い眷属じゃ』

「だから何だよ」

『この有様に、我を忘れるでないぞ』

「はっ!」


カイはラーヴァに笑い返す。


「それこそ心配いらねえ、だが身内を辱められたとあっちゃ、ますます許せねえな、なあ、セレス!」

「ああ」


頷き返したセレスは、改めて剣を構える。

魔剣ナウブ・ファムラウ。

相手の魔力に応じて切れ味が増す、セレスにしか扱えない特別な剣。


「貴様だけは絶対に許さん、この手で必ず引導を渡すッ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ