狂信 3
連続する炸裂音に目を開く。
空を舞う黒い翼―――メルだ!
両手に持った銃でミゼデュースを撃ちながら、カイの傍へ降りてきて治癒魔法を唱える。
「無事のようね」
「お前もな、やるじゃねえか」
メルはカイにウィンクした。
ここへ来てくれたってことは、一人であの大蛇を倒したんだ!
流石だね!
「苦戦しているようじゃない」
「抜かせ」
メルは空へ羽ばたく。
「ミゼデュースは全て引き受けるわ、貴方達は魔人を倒すのよ!」
「おう、頼んだぜメル!」
「メルさん!」
「セレスも任せたわよ!」
「ああ!」
振り返ったメルがモコと目を合わす。
モコは頷き返して、また空へ向けて矢を放った。
どんどん湧き出すミゼデュースは、魔人に向かっていくセレスとカイの方へ。
そして私達の方へも押し寄せてくる!
メルは両手の銃を重ね合わせると、一つの大きな銃に造り変えた。
その銃を構えてミゼデュースへ大量の弾を撃ち出す!
モコの矢も空中で無数に分かれてミゼデュースの上へ降り注ぐ!
一網打尽だ、それでもミゼデュースは途切れず湧き続ける。
「せいッ! はぁッ!」
「そりゃぁッ!」
セレスとカイは交互に魔人へ攻撃を繰り出す。
脇からセレスが斬りつけて、防がれたところをカイが槍で突き、その穂先を避けた魔人にセレスがまた斬りかかる。
魔人も剣や槍を振るって二人に対抗するけれど、圧倒的に手数が足りていない。
私は攻撃を防ぐたび効果が落ちていく守りのエレメントを、様子を見ながら唱え直して補強する。
無暗に魔力を使い過ぎて疲弊しないように、見極めが肝心だ。
合間に武器の加護も唱え直す。
皆の補助しかできないけれど、気持ちは一緒に戦っているよ。
魔人がセレスとカイから距離を取った。
そして―――体の関節を変な感じに動かす。
何をしているんだろう。
魔人の脇腹辺りから何か生えた。
あれは、腕?
腰から下も変形を始める。
ズルリと生えたのは尻尾だ。
胴が長く伸びて、尻尾は太く大きくなりながら、脚の形さえも変わっていく。
「なッ、なんだ、ありゃ」
「トカゲ、か?」
カイとセレスも武器を構えたまま変態する魔人を唖然と見ている。
トカゲ、いや、竜?
腰から下の爬虫類を思わせる造形は、竜態の時のラーヴァに似ている。
上半身は人型のままだけど、腕が四本に増えた。
「チッ、趣味悪ぃぜ」
「同感だな」
魔人はミゼデュースの寄せ集めの地面を蹴立てて二人へ突進する!
体の大きさがさっきの倍以上だ、あんな巨体に高速でぶつかられたら、それだけで大変なことになる!
「アクエ・ディフ・ルーフェム!」
カイがエレメントを唱えて、水の精霊アクエの力で生み出した水の刃を繰り出す!
脚を斬りつけられた魔人は体勢を少し崩した。
その隙に二人は進路から飛び退くけれど、魔人はセレスへ槍を投げ、踏み込んだ脚を軸に振り回した長い尾をカイに叩きつけようとする!
「ぐッ!」
セレスは直撃を躱した。
カイも間際で避けたけれど、そこへ振り下ろされた剣の刃が体をかすめた。
「ヴェンティ・ラム・パージフレ!」
メルがエレメントで暴風を起こす!
巻き上げられたミゼデュースは魔人へ向かって飛んでいく、でもぶつかる直前で爆発が起きて散り散りに吹き飛ばされる!
斬り込んだセレスの剣を魔人は脇腹の手で防いで、反対側から拳を繰り出す。
その背後へ槍を構えて突進するカイに、振り向きざま魔力を凝縮した一撃を放つ!
メルはまた湧き出すミゼデュースへ散弾を撃ち込む。
モコも私の隣で弓を引きながら、合間にエレメントを唱えてミゼデュースをまとめて倒し続ける。
「ケレア・シクド」
モコを中心に水平に放たれた魔力の刃がミゼデュースを薙ぎ払った!
「ディクチャー・ヴェンティ・レガート・ストウム!」
私もエレメントを唱えて風の精霊ヴェンティの守りを皆に!
攻撃する余裕はないけれど、せめて回復だけでもどうにかならないかな。
湧き出すミゼデュースは際限がなくて、モコとメルはそっちに殆ど手を取られている。
魔人を相手しているのはセレスとカイだけ。
でも、魔人の姿が変わった途端に二人の傷が目に見えて増えていく。
「アマザナ・ミヤマ」
魔人のカース!
呪いの雨が降り注ぐ!
「効かねえ! ハーヴィーコール!」
カイが海神オルト様の力を借りて呼び寄せた水で、カースの効果を打ち消す。
振り下ろされる腕を槍で防いで、飛び退き間合いを取った先で何かがさく裂した!
「ぐあッ!」
「カイ!」
セレスが叫ぶ。
カイは、どうにか無事みたいだ。
ふらつきながら自分に治癒魔法を唱えるけれど、あまり効果が現れていない。
戦いで体力を消耗しているんだろう。
あの状態だと体力依存な治癒魔法での回復には限度がある。
魔人に切りかかっていったセレスが腕を一本落とした!
間合いを取るセレスへ魔人が魔力を撃ち出す。
セレスは避けてまた魔人に斬りつける。
カイも氷の槍を投げて、すぐ新しい槍を両手に出現させると、構えて繰り出す。
「ぐぅッ!」
セレスだ!
倒れた、どうし―――あ、脚が。
膝から下の、脚が、な、い?
「セレスッ」
カイが切り落とされた脚へ手を伸ばす。
だけど掴む前に、セレスの膝から下はミゼデュースの中へ飲まれた。
「ぐああああああッ!」
「セレス、おいッ、しっかりしろ!」
行かなきゃ。
だけどこの防壁を出たら、傍で守ってくれているモコはあの大量のミゼデュースを捌ききれなくなるかもしれない。
今だってメルと協力してセレスとカイ、私が襲われないよう、全部倒してくれているんだ。
私がこの防壁の中にいるから割く手間を省けている。
でもセレスをあのままにしておけない。
部位欠損の再生は私にしかできない。
どうすれば。
どうすれば。
―――そうだ。
「フルースレーオー、花よ咲け、愛よ開け―――ポータス!」
翳した両手から青い花が溢れ出す。
触れたミゼデュースが次々に溶けて、花はセレスがいる場所まで届く。
「パナーシア!」
届いて!
強く願って想いを込める。
きっとできる。
これは、そのための花だ。
「あっ、ああッ、あっ!?」
声を上げたセレスが、ふらりと立ち上がった。
脚が、元に戻ってる!
「そんな、マジか」
「これは」
よかった、できた。
―――ふっと目の前が暗くなる。
ダメ、堪えろ。
今はまだ駄目だ、まだ、倒れるわけにいかないッ。
「ハルちゃん!」
振り返ったセレスと、その隣でカイも驚いている。
不意に呻き声がした。
魔人だ、苦しんでいる。
今咲かせたポータスと、もしかしたらパナーシアも魔人を弱らせたのかもしれない。
私の命を分け与える治癒の術。
それが苦痛になるなんて、やっぱりさっきの考えは合っているのかな。
魔人が呼ぼうとしている神。
それは破滅の神だ。
「おい、セレス!」
「ああ!」
カイに頷き返したセレスは、こっちを振り返って「有難う!」って叫ぶ。
「君のおかげだ、今こそ決着をつける!」
「おう、お前の根性に報いてやるぜ!」
二人が魔人へ向かっていく。
お願い。
どうかあの魔人を止めて。
早くしないと取り返しのつかないことになってしまう。
「はる」
不意にモコの手が肩に触れた。
そこから暖かな何かがホワッと体の中に広がっていく。
「少しだけどぼくの力を分けたよ、大丈夫?」
「うん、有難う」
こんなこともできるんだ。
お陰で眩暈が収まって、少し回復したように感じる。
サクヤの鈴の音も聞こえてくる。
大丈夫。
まだ大丈夫だ。
「うおおおおおおおおおッ!」
セレスが振りかぶった剣を苦しんでいる魔人へ叩きつけるようにして斬る!
刃が腹を割いた!
血飛沫が飛んで、身構えた魔人の竜化した下半身にカイが槍を突き立てる!
「ぐあああッ! ぐッ、がああああああッ!」
大きくうねる尻尾の一撃を逃れたカイは、今度は両手に槍を握って次々と魔人へ投げつける。
その槍を防ぐ魔人の背後からセレスが斬りかかる!
「があああああッツ!」
振り返りざま飛んできた拳の一撃を避けたセレスの背後から、カイが飛び出して魔人の肩を槍で貫いた。
その槍を軸に回転して飛び退いたカイと入れ替わりで、今度はセレスが魔人の腕をもう一本切り飛ばす!
「きさまらぁッ!」
魔人が振り上げた尾に無数の矢が突き刺さる、モコだ!
メルがまたエレメントで巻き上げたミゼデュースの塊を魔人にぶつける!
視界が塞がれ、体を揺する魔人の脇腹をカイの槍が貫いた。
「ぐがッ、がッ、がああッ」
続けてセレスが魔人の脚を切り裂く。
体勢を崩した魔人の背後から、カイが「これで終いだぁッ!」と二本の氷の槍を突き立てる!
「ぐあああああああッ!」
とうとう魔人が、ガクッと膝をついた。
―――倒した?
セレスとカイも魔人から距離を取って様子を窺う。
魔人は項垂れたまま動かない。
「ふふ」
不意に肩が上下した。
「ふふふ、ふふふふッ、ふははっ!」
笑ってる。
どうして?
「時は、来ませり」
魔人が顔を上げる。
「器は、成れり」
不意に足元が揺れて、ゾクゾクッと寒気を覚えた。
怖い。
何か、来る。
「待たせたな同胞よ、さあ、ようやく我らの神が―――降誕なさる」




