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堕ちたる獣

『しねえええええ!』


頭部の大きな怪物がセレスに狙いを定めて襲い掛かる!


『あはははははははは!』


首の長い怪物はラーヴァの方へ向かっていく!


「分離した? 方向性の違いか?」

「冗談言ってる場合じゃねえぞ、セレス!」

「ああそうだなッ、カイ、いくぞ!」


カイがセレスに加勢する!

メルも少し離れた場所から銃で頭部の大きな怪物へ弾を撃ちこむ!


ラーヴァ達の方は、エレが首の長い怪物へ雷を落とす。

炎を吐いたラーヴァは繰り出されるサソリの尾を薙ぎ払い、首の長い怪物の胴へ爪を食い込ませた!


『あははははははははは! あはは! あはははははは!』


爪が食い込んだ部分から黒い液体を流しながら、それでも首の長い怪物は笑っている。


「モコ、私達は援護しよう!」

「分かった」


あの二体以外に現れたミゼデュースは全部引き受ける!

でも、エノア様の花を咲かせた影響で殆ど湧いてこない。

分離した怪物たちもカースを唱えなくなった。


「ッぐあ!」


見た目よりも素早い動きをする頭部の大きな怪物が、セレスの腕の辺りを歯で掠める。

カイが繰り出した槍の攻撃を受けた瞬間、その背中からゾロッと管が生えて一斉にカイを狙う!

セレスがまとめて剣で薙ぎ払った!

切られた管から液が飛び散る、液の落ちた場所がシュウシュウと音を立てて煙を上げた!


「おいッ、溶解液だぞ! 触れると溶ける!」

「ディクチャー・アクエ・アグ・レパ!」


詠唱無しで全員に水の精霊アクエの水膜を張る!

これで有害な液体は中和できるはずだよ!


「ハル、よくやった!」


振り返ったカイが褒めてくれる。

セレスが急にカイを蹴って、私には「有難う!」って笑いかけた。


「てめぇッ!」

「なにが『よくやった』だ偉そうに!」

「いっちいち、いちいち! お前はッ、小姑かよ!」


言い合いしながら二人は協力して頭部の大きな怪物に立ち向かっていく。

怪物は素早い動きで攻撃を避けつつ、二人に噛みつこうとしたり、防がれると管を伸ばしてきたりする。

間合いを取り辛くて少し苦戦しているみたいだ。


首の長い怪物も主には噛みついて攻撃して、空を飛んで逃げたかと思えば急降下して襲い掛かる。

背後へ回り込むとサソリの尾を振るい、ラーヴァが吐く炎やエレの雷はあの触手みたいにうねる髪で防ぐ。

こっちも手こずらされている。


『だーもうッ、うざったいのう! まとめて燃やすか!』


掴みかかってきた腕を振り払って、噛みつこうとする長い首を逆に噛みつき返して肉を引き千切り、それでも噛んできた頭を叩き落して距離を取ったラーヴァが唸る。


『あははは! あはははははは!』

『イラつく笑い声じゃ!』


エレがバチッと電撃を放つ。

ギャッと叫んだ首の長い怪物は、サソリの尾を振り回す!


『どこも無駄に長い! 攻撃の範囲が広すぎて手に負えん!』

『会長』

『なんじゃッ』


エレが目配せをして、首の長い怪物に巻き付く!

動きを封じられた首の長い怪物にラーヴァが襲い掛かって、背中の翅を引き千切った!


『どうじゃぁッ! これでもう飛べまい!』

『あはははは! あは! あははははははは!』


首の長い怪物はエレの胴を掴んで引き裂こうとする。

体を捩って逃げ出そうとするエレを抑え込むと、首の辺りに噛みついた!


『ぐッ』

『やめんかこの痴れ者がぁ!』


頭を引き剥がそうとしたラーヴァを狙ってサソリの尾が振り下ろされる!

間際で避けたけど、掠った辺りがジュッと音を立てた。


『ぐうッ、おのれ、やはり毒かッ、小癪なぁッ!』

『あはははははははは!』


ラーヴァがゴウッと火を吐くのと同時に、エレは暴れて強引に拘束から抜け出す。

直後に首の長い怪物はラーヴァの頭を掴んで地面へ叩きつけた!


『おごッ! お、おのれよくもぉッ!』

『あは! あーははははははははははは!』


怪物たちはなかなか倒れない。

このまま、ここに足止めされてしまう。

もうすぐそこにミゼデュースの森が見えているのに。


「ぐあぁッ!」


セレスの声だ!


「大丈夫かッ!」

「く、そぉッ」


腕が赤く染まって、血が滴ってる!


『もう片方ぉッ、もう片方も剣を握れないようにしてあげましょかぁ! ぎゃははははは!』

「クソッタレがぁッ!」


走る!

モコもついてくる!


「セレスッ!」

「は、ハルちゃんッ」

「ハルぅッ!」


カイの声!

頭部の大きな怪物がこっちに飛び掛かってくる!


「アプリーティオ・ファラマ!」


モコが唱えて、目の前で爆発が起きた!

でも寸前で魔力の壁が展開されて私とセレスは無事だ。

爆発に巻き込まれて倒れた怪物に、槍を構えたカイが飛び掛かっていく。


「セレスッ」


怪我を見せて。

ッツ! 二の腕あたりがごっそり抉れてる。


「パナーシア!」


唱えると欠損した部分が元に戻った。

服の穴も自己修復能力でそのうち塞がるはずだ。


「すまない、有難う」

「大丈夫?」

「ああ勿論!」


セレスはまた剣を構えると怪物に向かっていく。


「カイ!」


振り返ったカイの脇をモコが射た矢が掠めて飛ぶ。

間際に迫っていた怪物の眉間の辺りを貫いて、絶叫が響き渡る!


「こっちに来て!」

「俺はいいッ」

「早く!」


駆けてきてくれたカイにもパナーシアを唱える。


「お前なぁッ、備えだッツただろ!」

「自分のことくらい分かるよ」

「アホ! 無理すんな!」


カイもセレスと一緒に頭部の大きな怪物へ向かっていく。

―――あの二体を倒しても、次はミゼデュースの森へ向かわないといけないんだ。

そこで何が起こるか分からない。

これ以上全員が疲弊するのはよくない。

どうすればいい?


こういう時、兄さん達ならどうする?


「はる」


モコが呼んだ。


「モコ」

「行こう」


空色の目がまっすぐ見つめてくる。

そうだね。

―――優先順位だ。


「フルースレーオー、花よ咲け、声よ響け―――トゥエア!」


広げた両手から溢れた青い花が辺りに広がっていく。

花に触れるとミゼデュースは溶けだして、怪物たちも苦しそうに悶える!


「ラーヴァ、エレ!」


竜たちが振り返る。


「君達にこの場を任せたいんだ!」

『ぬおッ! なんと、ハルルーフェよ! 我らを頼ってくれるか!』

『承知した、主の命ずるままに』


今咲かせたトゥエアの力でこの辺りの魔力を削いだし、怪物たちも更に弱体化したはずだ。

不意に地鳴りがして足元が揺れる!

モコが私を抱えて宙に浮いた。


「ラーヴァ、エレ、いい?」

『無論じゃよ! 我らはそのために来たのじゃからな!』

「でも、無茶はしないで、お願いだよ!」

『分かっておる! 案ずるでない』


ラーヴァの赤い目がギラッと光る。


『さて、主の勅命じゃ、大義名分ができたぞ、エレ?』


エレは全身にバチバチと電流を纏う。


『そうだな』

『ここまでお膳立てしてもらって無様は晒せん』

『無論だ』

『ではどうする?』


ラーヴァが訊くと、エレは首の長い怪物にドンッと特大の雷を落とす!

怪物は防ぎきれず直撃を受けて絶叫した!


『悉く破壊する』

『そうこなくっちゃのう! 我らの真骨頂じゃぁ!』


ラーヴァも喉の辺りを大きく膨らませると、ここまで熱風が届くくらいの炎を吐いた!


『主らに分からせてくれようぞ! 竜とは如何なるものか、その身をもってとくと味わうがよい!』


赤と黒の竜が咆哮を上げる!

辺りの空気がビリビリ震える、そして竜と怪物は真正面からぶつかり合った!


私達は行こう!

モコが私を連れて戦いからもっと離れる。

セレスとカイも走ってきた、メルは飛んでくる。


「ハルちゃん英断だ、あれは奴らに任せよう」

「うん」

「で? 俺達はあっちの薄気味悪い場所に向かうのか」

「そうだよ」

「正直気分が乗らねえな」

「あらカイ、今になってしり込み?」


メルに訊かれてカイは「違ぇよ!」って返す。


「アクエ・ニヴァ・アグ」


水の精霊アクエの力を借りて、辺りに霧を立ち込めさせた。


「これで私達の姿を追いづらくなるはずだよ、霧が消える前に急ごう」

「分かった」

「モコ、君ならこの霧の中でも見えるよね、先頭を歩いて」

「いいよ」


天眼を持っているモコを先頭に、霧の中を進んでいく。

モコの後ろに私、セレス、カイ、最後はメルだ。

時折向こうの方に炎や稲光が見えて、ここまで押し寄せてくる戦いの余波が辺りの輪郭を少しずつはっきりさせていく。


アクエの霧がすっかり消えた頃、とうとうミゼデュースの森の手前まで辿り着いた。

―――ずっと遠くでラーヴァ達はまだ戦っている。


「ここか」


改めて見上げるほどの大きさだ。

この中へ入っていくのか。


「ハルちゃん、どうするんだ?」

「うん」


すんなり入れるわけがない。

そもそも、どこからどう踏み込めばいいか分からない。

―――そうだ。


小物入れから香炉を取り出して、受け皿にエノア様の香りのオイルを垂らす。

魔力を通した熱石を底部に仕込むと、香炉を鎖で垂らしてゆっくり振る。

フワッと香りが漂う。

なんだか懐かしい、ホッとするような、温かくて優しい香りだ。


「お、おい」


セレスが驚いた声を上げる。

立ち並ぶミゼデュースが一斉にざわついて、香りから逃げるように身を反らしていく。

左右に分かれたそこに道が現れた。


「行こう」


この、真っ黒いミゼデュースの森の奥へ。

覚悟を決めて。

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