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傀儡の敗者 前編

※今回は長いので、前後編に分かれております。

一体何が起きたの?

ラーヴァはそのまま翼を羽ばたかせて爆発した辺りから更に距離を取る。


『あははッ、あはははッ、あはははははははは!』

『おやおや、逃げられてしまいましたかねえ』


不意に声が響く。

女の人の笑い声と、男の人の声?

何だか聞き覚えがある、全身がゾクゾクッと震える。


『あはは! あはははははははは!』

『あーもう、笑ってばかりおらんと、はあ、しょーもな』

『あはははは! あは! あはははははは!』


誰?

どこにいる?


不意に近くの地面が音を立てて陥没した。

そのまま大きな穴が開く。


「何か、出てくるぞ」


モコの後ろでセレスが緊張した眼差しを穴へ向ける。

皆も様子を窺っている。


ずる。

ずるずる、ずる。


腕だ。

穴から現れた。

太くて真っ白い腕が、一本、二本―――三本、四本?

穴の縁を掴んでズルンッと這い出てくる。

大きな白い塊?

腕は合計八本もある、その腕で地面に立つ姿はクモに似ている。

塊からニュウッと尾が生えた。

黒い外殻に覆われて先端にカギ状の針がついた、サソリの尾だ。

背中辺りに切れ込みが入ると、そこからは虫の翅が伸びて小刻みに振動する。


『あは、あはは、あはははは』


尾と反対側からは首みたいなものがズルズルと伸びていく。

立ち上がった先端は何も無かったけれど、急に毛みたいなものが生えて、その下に顔のような凹凸が現れ始めた。

女の人?

見覚えがある、凹凸の目の部分がカッと見開かれる!


『あはははははははははは!』


口の部分も裂けて、さっきから聞こえている笑い声がもっとはっきり響いた。

後ろでセレスが「嘘だろ」と呟く。


あれは、魔人ラクス?


『あはは! あははははは、あはははははははは!』


そんな。

だってラクスはディシメアーの海で、カルーパ様が命懸けで!


今度は長く伸びた首の付け根、胸の辺りに凹凸が現れた。

また顔だ。

その目の部分がすうっと開いて、口が『ごきげんよう』と嗤う。


『お久しいですなあ? 元気にしとりました?』


魔人カルーサ!

ラーヴァが『貴様ぁ』と口から炎を漏らす。


『おやおや! 怖い顔してらっしゃる!』


セレスがラーヴァの背中から飛び降りた。

カイと、メルもだ。

エレも降りて様子を窺っている。


『感動の再開やってのに、そない怖い顔せんでもらえます? 傷付くわぁ』


私もモコに降ろしてもらう。

なんで? どうして?

魔人ラクスと、魔人カルーサ。

間違いなく倒したはずだ。

それなのに二つの顔をつけた怪物が、今、目の前にいる。


『今日はお祝いやからねえ、不本意ではありますが、こうして呼び戻されたんですわ』

『あは! あはははははははは!』

『ツレも楽しみで仕方ないようで、さっきからずーっとこの調子、いい加減うんざりしますなあ』


ラクスの顔がついた長い首がぬうっと下がる。

その顔面を腕の一つが握った拳で思いきり殴った!

ギャッと声がして、黒い液体が飛び散る。

ゆっくりもたげた首の先のラクスの顔は、鼻がへしゃげて黒い何かでドロッと汚れている。


『あば、あばばばっ、あばばっ、あっ、あはっ、あはっ、あばばばばぁ!』

『あーうるさいうるさい! 回収に手間取ったのもあのクソガメのせいですわ、おかげで最低限の知能しか持ち合わせておらなんだ』

『あばばば、あばーッ』

『はあ、ま、いいか、そんなことより皆さんにこのサプライズの種明かしをしてあげな! 聞きたくてうずうずしとるようですしなぁ!』


「貴様は」とセレスが剣を構えて魔物を睨む。


「商業連合で師匠に呆気なく殺された魔人、カルーサか?」

『ええ、ええ、その節はどーも、あんなんが身内におるなんて卑怯じゃないです? えげつな』

「黙れ」

『っはは! 王子におかれましては! 流石の女たらし! ワタシの顔と名前まで覚えていてくださるとは光栄ですわ!』


カルーサの調子に合わせてラクスの顔がまた笑う。

頭がおかしくなりそうな声だ。


『それにしても、まさかこんな形にされるとは、屈辱以外の何ものでもない』

「どういう意味だ」

『ワタシ、不本意ながらあの時ゴミ山のゴミの一つに貶められたわけですが、まさかの復活を遂げたんですよ、この使えないゴミ魔人と混ぜられて』


復活って、そんな。

ゴミ山でカルーサはノヴェルを利用し、最後はロゼに首をもがれた。

ラクスは実験材料として大勢の命を奪い、ディシメアーの海を守っておられたカルーパ様の体を乗っ取ったけれど、逆にカルーパ様が命懸けで消滅させた。

実験やその産物の粉に関してはカルーサも関わっている。

どっちも酷い被害を生んだ災厄の魔人。

それがこんな姿になってまた現れるなんて。


『ところで、おじょーさんっ』


カルーサの目がギョロッとこっちを見る。

思わずヒッと声が漏れた。


『忠告して差し上げたお城の暮らしはどうでした? お兄さん方、おられんようになってしまいましたなあ?』


ッツ! 違う!

ロゼは今、地上で皆を守ってくれているし、リューだってきっとどこかで見守ってくれている!


『可哀想に、せっかく忠告して差し上げたのに、無駄にされて』

「お前! それ以上知ったような口を利くな!」


セレスが怪物を怒鳴りつける。


『おーこわ!』

『どーこぉ? どこどこ? どこどこどこどこどこどこどこどこ?』


ラクスの首が何かを探すようにキョロキョロし始めた。


『おっと、そういやコイツはおじょうさんトコの食わせモンのラタミルにご執心でしたなあ』

『どこ? どこどこどこ? あはは! どこどこどこ! あははははは!』

『こんな姿に成り下がって、ますます嫌われるんと違います? うぷぷッ!』

『あはははははははは!』


不意に肩にそっと手が置かれた。

モコ。

私、震えていたんだ。気付かなかった。

伝わる温もりに少しだけホッとする。


「おいバケモノ!」


今度はカイが怒鳴る。


「ゴミと混ざって復活したとか言いやがったな、お前らをそんな姿にしたヤツはどこのどいつだ!」

『ああ~、今パーティーの準備で忙しい主催者ですわ、そちらも招待状を受け取ってここにおるのやから、ご存じでショ?』


やっぱり、レパトーラなんだね。

だけど消滅した存在をどうやって復活させたんだろう。

見た感じ、これはもう生命じゃない。

元々魔物は神の眷属同様に異なる理の存在だけど、でもこれは、魔物ですらない。


『外道の法じゃの、エレ、何ぞ心当たりはあるか?』

「ない、だが、状況から推察される仮説ならば立てられる」

『聞かせてたもれ』


ラーヴァに頼まれて、エレは全身をパチパチと帯電させながら怪物を見上げる。


「これは、消滅した魔人の残留魔力を可能な限り収拾し、然るべき器に注ぎ込んだモノだ」

『ほほーう』


カルーサの顔がニヤッと笑う。


「器は件の人体実験の賜物だな、複数の動植物と魔物を融合させている」

『あの外道の術か』

「そうだ、以前魔人は受け皿と言っていたか」


私が知っている一番古い実験の被害者は、ネイドア湖で戦った大蛇。

あの頃から続けられてきた惨い行いの成果がこれなの?


『なるほどのう、そもそも魔人は根拠に乏しく存在も不安定、故に器を求めるが、自作した結果がこの有様か』


ラーヴァの言葉に、カルーサの顔が『言うてくれますなあ』と口の端を吊り上げる。


『見てくれだけで判断するのは、商売人としてどうかと思いますがね』

『はん! 見てくれ程度も取り繕えない地点で話にならん!』

『そんなこと言って、後悔しますよ?』

『ほーう? 無様に醜態を晒すのがお望みか、やはり所詮は無価値なゴミじゃの!』


怪物の、サソリの尾が持ち上がる。

威嚇するように鋭いカギ針を揺らしながら、虫の翅をブウウンと震わせて宙に浮かび上がった!


『では試されるとよろしい!』

「来るぞ!」


セレスが叫ぶ!

怪物がこっちへ突っ込んでくる!


「はる!」


モコが私を抱えて羽ばたく。

皆も、今の攻撃を全員避けたみたいだ。

だけど魔物は目についた方へ手当たり次第に突っ込んでいく!


『このヘタクソ! 突っ込むしか能のないザコなんぞ願い下げじゃ!』


ラーヴァがグッと溜めて炎を吐く!

その向こうでエレが黒竜に姿を変えた。

全身に帯びる電流を束にして怪物へ落とす!


『ぎゃあああああああああッ!』

『いったあああああッ! よくもぉッ、酷い目に遭わせてくれましたなあッ!』


ラクスの顔がガチガチと歯を鳴らす。

その口元がニュウッと長く伸びた。硬そうな歯の幾つかが牙に変わって唇を切り裂く。

八本の腕もメキメキと伸びて、指先が割れて鋭い爪が現れる。

触手のようにうねる髪と、頭の上にはフワンと光る輪が浮かぶ。


『アンタら全員、皆殺しだ、ははッ、あはははははは!』

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