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事後

―――舞踏会の夜から一夜明けて。


被害に遭われた方々を、昨日とは別の大広間に集めて、陛下のお言葉としてランペーテ様から発表があった。

舞踏会でサネウ様が発言した内容は、全てサネウ様ご自身の事であり、罪を隠蔽しようとして暴挙に及んだと。


その共犯は、薬師。

ランペーテ様に取り入って王室に入り込み、サネウ様の計画を聞いて協力を申し出た。

あの『粉』や、南国ベティアス、西国商業連合での事件、何もかもサネウ様と共謀して行ったと自白したそうだ。

その後薬師は投獄された牢内で、隠し持っていた毒を服用して自害。

他にもディシメアーの海底研究所から引き上げた書類の内容をスノウさんが告発して、サネウ様の犯行は確定となった。


目的は宰相の地位を奪うための造反。

陛下はご自身が民や国を疎かにして、全権を預けていた宰相を妬んだサネウ様が暴走してしまったのだろうと、省みられているそうだ。

だからこれからは王として、改めて民と国のために尽くしたいと。

それが、ご自身ができる唯一の贖罪だと、そう仰られているとランペーテ様は話を締めくくった。


「茶番だな」


隣でリューがぽつんと呟く。

私は王族として、兄さんとセレスと一緒に、ランペーテ様の近くに控えて立っている。

隣でセレスも小さく頷いた。


「これから他の協力者の洗い出しと事後処理か」

「そうですね」

「サネウ一派の造反ということにしてしまえば始末がいい、後は宰相の思うがままだ」

「ですが、現状は周りの目が厳しいかと思われますが」

「既に手筈が整っているんだろう、後は機を見て仕掛けるだけだ」

「今回の騒動が完全に収拾する前にですか」

「そうだ、それこそ―――ハルの承認の儀に」


私の承認の儀。

そういえば、まだ詳しい内容を知らない。

儀を執り行う担当の官から、詳しいことは舞踏会の後で説明するって言われているけど、何をするんだろう。


―――昨日の夜遅く。

部屋に戻って、ティーネと一緒に不安なまま過ごしていたら、リューが戻ってきた。

状況を報告しに来てくれたんだ。

城下の騒動もどうにか収めたけれど、被害はそれなりで、死者も複数出てしまった。

またすぐ城下へ救援活動に向かおうとするから、私も一緒に行こうとしたけど、リューとティーネに止められた。


その時はクタクタだったから。

仕方なく諦めて、久々にティーネも一緒に、モコと三人でベッドに潜り込んだ。


そして夢を見た。

とても悲しい夢だった。

目が覚めた時、内容は覚えていなかったけれど、暫く涙が止まらなかった。


サネウ様はどうしてあんなことになってしまったんだろう。

ベティアスのガナフも、商業連合の商人達やノヴェルも、そして、ベルテナも。

姿を怪物に変えられて壮絶な最期を遂げた。

確かに酷いことをした人たちだ、大勢を苦しめて命を奪った。その罪は消せない。

でも、あんな惨い死に方をする必要があったのかな。


ずっと何か引っかかっていることがある。

でもその正体がハッキリしない。

魔人は何を目的に、皆を怪物へ変えたんだろう。


城内はまだ昨日の余韻を引き摺っていて、じっとりと落ち着かない雰囲気だ。

大広間に集まった来賓の方々も早く引き上げたいと囁き合っている。

状況が落ち着いたら送迎の馬車を用意するそうだけど、それまで待っていられないと訴える声も聞こえた。


「今回のことで、現体制の威信は地に落ちたな」


ランペーテ様の話が済んで、集まっていた方々はそれぞれ大広間から出て行く。

その様子を見送っていたリューがまた呟いた。


「権力争いの御家騒動、だが、外部に甚大な被害が出てしまった、最早収拾をつけられないだろう」

「ええ、陛下は―――姉上は、苦しい状況に立たされておられるでしょう」

「それは俺達も同じだ、王族だからな、責任逃れは叶わない」

「では?」

「ああ」


リューとセレスがこっちを見る。

何?


「いや、俺達も手を尽くそう、それにまだ全てに片がついたわけじゃない」

「はい」


よくない予感がする。

承認の儀が済んで、正式に継承権を認められたら、私はどうなるんだろう。


ある程度来賓の方々がいなくなってから大広間を出て、途中で用事のあるリューと別れて、セレスと二人で私の部屋へ行く。

今日、ティーネはシフォノに付き添っている。

サネウ様の息子として取り調べを受けることになったシフォノに同行したんだ。

もしかしたら宰相側に都合のいい証言を強要されるかもしれないから、それを牽制するために。

シフォノは「気遣い無用だ」って断ろうとしていたけれど、半ば強引についていったのは、きっと心配だったからだよね。


一晩経ってもシフォノは落ち込んでいた。

セレスもまだ元気がない。


「ねえ、カイやラーヴァ達はどうしているかな」

「あいつらは騒動が収まってからそれぞれ宿泊している部屋へ戻ったって聞いている、特に怪我も無いそうだ」

「そう、よかった」

「王族として、後で礼を告げないとな」

「うん」


王族か。

責任ある立場で、この国を導く存在でも、個人的な感情で道を踏み外すんだ。


「―――今際にサネウ兄上は泣いておられたな」


戻ってきた部屋の長椅子に掛けて、俯くセレスの口からそんな言葉が零れた。


「俺と変わらなかったわけか、全然気付けなかった」

「セレス」

「兄上方はどちらもご立派であられるから、俺と違って悩みも苦しみも無いだろうと思っていたんだ」

「うん」

「もっと話せばよかった、まあ、鬱陶しがられただけだろうが」


君は本当に優しいね。

報われたいって前を向いて必死に努力を続けたセレスと、周りを巻き込んで傷つけたサネウ様。

正しいとか、違うとか、そんな話じゃない。

ただ悲しい。

あの時サネウ様は何を思われたんだろう。


そっとセレスの手に手を重ねると、振り返ったセレスは体を寄せてくる。

今はまだいいよ、悲しいままで。

シフォノも、無理に乗り越えようとしなくていいんだ。

冬の寒さで凍り付いた地面から、季節が変わって新しい芽が吹くように、いつか傷は癒えるはずだから。


それから何日か経って、城内が少し落ち着いてきた頃、送迎のための馬車が用意され始めた。

足止めされていた来賓の方々は待ちかねたように帰っていく。

もう少しも城にいたくない様子だ。

それはそうだろう、あんな目に遭って、巻き込まれて亡くなった来賓の方もいるし。


私は出歩くなって言われて、大人しく部屋にいる。

時間があるのにオーダーのオイルを調香する気にもなれない。

不安で、落ち着かなくて、このまま承認の儀まで過ごすことになるのかな。


「はーる」

「ん、モコ」


―――今日もティーネはいない。

東国ノイクス代表の名代として会議に参加するらしい。

セレスは軍部を統括なさっていたサネウ様の一時代理を引き受けて、近衛兵団長のヴィクターと事後処理に走り回っている。

その手伝いをシフォノもしているそうだ。

リューは城下で炊き出しや復旧作業の手伝いをしている。


陛下も忙しくされているだろう。

ランペーテ様や、母さんだってきっとそうだ。


「たいくつ?」

「違うけど、やることがなくて」

「そと、いく?」

「ううん、今は皆忙しいから、こうして部屋にいないと迷惑が掛かるんだ、だから外へはいけないよ」

「そっか」


今は私の護衛に人手を割けないからね。

部屋にいてくれるのが一番安心だって言われたら、こうしているより他にないよ。


「そうだ、モコ、本を読んであげようか?」

「ほん!」

「リューがね、退屈だろうってたくさん置いていってくれたんだ、童話がいいかな」

「ぼく、はるのこえすき! ほん、よんで! よんで!」

「ふふッ、いいよ、どれを読もうか」

「えーっとね、えーっとね」


可愛いな、モコ。

君がいてくれるから、独りにならずに済んでいるよ。

今みたいに考え過ぎずにもいられる。有難う。


モコに本を読んだり、軽食をいただいたりしているうちに日が暮れる。

外がすっかり暗くなった頃、ティーネが部屋に来てくれた。


「ハル、退屈していたでしょう?」

「ううん、モコに読み聞かせしてたよ」

「はる、いっぱいこえ、きかせてくれた、うれし!」

「まあ、それは読み聞かせなのかしら? だけど楽しかったようね、よかったわね、モコ」

「うん!」


暫くするとセレスも来てくれた。

二人ともお疲れさま。


「軍内の派閥が割れて面倒なことになっている、誰が責任を取るか、どう責任を取るか、そんな話ばかりだ」

「厄介ですわね」

「君の方はどうだ、ティーネ嬢」

「取り急ぎ、今回の件に関して陛下に責任は問わないことを三国一致で取り決めました、けれど何らかの形で賠償を請求いたします」

「そうか、身内が起こしたことだからな、特にベティアスと商業連合に関しては被害が甚大だ、国として事を構えずにいて貰えるだけでも有難い」

「そこは殿下のお人柄あってのことですわよ、私達は殿下に恩義がございますので、ベティアスの議会も、商業連合の御三家も、殿下が次期王となられることを踏まえての判断ですわ」


次の国王。

ティーネの言葉が重く圧し掛かってくる。


「ノイクスはどうなんだ」

「多少は荒れておりますわ、けれど急ぎ判断を下すべきではないとのことから、ひとまずは様子見の構えです」

「現状では分かりやすく大きな被害は出ていないからな」

「ええ」


ネイドア湖やサマダスノームでの一件は、国としてのノイクスに影響を与えていないからだよね。

どっちも大事件だったけど、被害は最小限に抑えられたし。


「まあ、とにかく暫くバタつきそうだ、ハルちゃんの承認の儀まで日が無いし、このままなだれ込む形になるだろうな」

「そうですわね」

「ハルちゃん」


セレスが私の手をギュッと握って、目を覗き込んでくる。


「必ず、君を守る」

「セレス」

「だから今は不便だろうが耐えてくれ、俺もあまり傍にはいられないが」

「大丈夫だよ」


だけど私も王族だ。

こうして一人だけ部屋に籠っているなんて、きっとよくない。

私にもできることって何かないんだろうか。

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