表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
413/555

増えた学びの友

午前の授業が終わって、昼だ。

伝言を頼んでおいた待ち合わせ場所へ行くと、もうシフォノがいる!


「シフォノ!」


呼び掛けると肩をビクッと震わせて、振り返った勢いのまま腰を直角に曲げながら挨拶してくる。


「殿下! 叔父上! そ、そそっ、そしてティッ、ティリーア嬢ッ!」

「待たせたようだな、すまない」

「おおおおおおおお気遣いなくッ!」


セレスが振り返って肩を竦めた。

やっぱり面白い人だ。

ティーネまでクスクス笑ってるよ。


「ほ、本日は、昼食にお誘いいただき光栄に存じますッ!」

「うん、こちらこそ来てくれて有難う」

「恐れ入ります!」

「さてハル、今日の昼はどこでいただこうか」

「殿下、恐れながら、本日は西棟のテラスで召し上がっては如何でしょう」


西棟のテラス?

ティーネの提案にセレスも「いいな」って頷いた。

どこかさっぱり分からないからそれでいいよ。

案内してもらって、シフォノも一緒に、その西棟のテラスへ向かう。


城の西側、辿り着いたテラスの正面には大きな池がある!

わあ、噴水だ!

池の縁に近付いて覗き込むと、中で水草が揺れている。

肩の辺りから「うつくし」って小さく嬉しそうな声が聞こえた。

そうだね、モコ、本当に綺麗だ。ここも素敵な場所だね!


「お気に召して頂けたようですわね、殿下」

「うん! 連れてきてくれて有難う、ティーネ」

「恐れ入ります」


ティーネって本当に私のことがよく分かってる。

テラスの席に着くと、すぐ給仕が食事を運んで来てくれた。

あ、この人もいつも昼食を用意してくれる人だ。


「あの」

「はい、なんでしょう殿下」


昨日と同じように名前を訊いたら、給仕もメアリみたいに驚いてから教えてくれた。

カールだね、憶えておこう。


「殿下、何故給仕に名を尋ねられたのです?」

「ええと、身の回りの世話をしてくれる人たちのこと、なるべく知っておきたいと思って」

「まあ、それはよい心掛けですわ」


ティーネに褒められた。

そんな大したことでもないけど、ちょっと照れる。


「彼らは城で働く使用人の一人に過ぎませんが、それぞれに名があり、個を持っております、そういった部分への配慮は大切なことと存じます」

「ああ、広義の話をすれば国も結局は個の集まりだからな、全体を見るだけが統治ではない、民一人一人を思って政を執り行わねば、国を導くとはそういうことだ」

「セレス様の仰るとおりですわ」


う、なんでそんな話に持っていくの。

二人とも私がそこまで考えていないって分かってるよね?

それともシフォノがいるから? それっぽく振舞っているのかな。

私もそうするべきなんだろうか。

うう、ガラじゃないよ、統治とか導くとか話が大事過ぎる。


「殿下、流石です!」


シフォノが目をキラキラさせている。

そ、尊敬のまなざしは、やめて。


「いずれ王となられるお方は器が違う、お見逸れいたしました!」

「あ、はい」

「そうだぞシフォノ、ハルルーフェ殿下からは学ぶことが多い、お前もよく倣うように」

「はい! 学ばせていただきます、今後もよろしくお願い致します、殿下!」


やめてよセレス。

ちょっと笑ってない? 意地悪だ、もう!


「しかしシフォノ、久方ぶりに会うが、立派になったな」

「きょ、恐縮です、叔父上のようになりたくて、日々鍛錬を積んでまいりました」

「では後ほど手合わせしようか」

「はい! お相手願えるなんて光栄です、何卒ご指導よろしくお願い致します!」


シフォノって、セレスを尊敬しているんだ。

セレスもシフォノを可愛がってる。

なんだかいいね。私まで嬉しくなってくるよ。


そういえば―――リューは都合が合わなくて一緒に食事を取られなかった。

人伝に連絡が来たんだ、今日は兵舎へ視察に行くことになったって。

もしかしてサネウ様のことを調べているのかな。

それなら私も手伝いたい、あとでロゼを呼んで訊いてみよう。


「とッ、ととッ、ところでそのッ、ティッ、ティッ、ティリーア嬢ッ!」


シフォノが真っ赤な顔でティーネに話しかける。

だけど視線は全然ティーネに向かない、あちこちをうろうろ彷徨っている。


「はい、なんでしょう、シフォノ様」

「ぐぅッ! あッ、そのだなッ、ティリーア嬢は、そのッ、ふ、普段はッ、ど、どどッ、どんッ、どんなッ、どんッ、どッ」

「普段どう過ごしているか、でしょうか?」

「ぐぁッ! べッ別に僕はッ! ききッ、君が普段何をして過ごしているかだとかッ、どういう趣味があるかなんてことッ、とッ、ととッ、特にッ、知りたいだなんて思っていない!」

「そうですわね、殿下のお世話以外では、よく本を読みます」

「本か! そッ、それは、どんッ、どッ」

「詩集を」

「詩集!」


叫んでシフォノは手で顔を覆う。

そんなに驚くことかな。

息も上がっているみたいだけど、大丈夫?


「か、可憐だ」

「はい?」

「ななななななななななんでないッ! 詩集を嗜む君の横顔はきっと美しいだろうなッ! なんてことは少しも思っていないぞッ! 僕はッ、そんなことは、思ってッ、いない!」

「ふふ」

「わッ、笑ッ?」


口元に手を当ててクスクス笑うティーネに、シフォノは釘付けになっている。

分かりやすいなぁ。

さっきから全部口に出てるし、ちょっとティーネも面白がっている雰囲気だよ。


「シフォノ様はお時間がある時何をなさっておられるのですか?」

「ぼッ、僕のことを知りたいのか!」

「はい」

「うッ! 嬉しいッ、なななんて思っていないからなッ!」


セレスがこっちを見て軽く肩を竦める。

これはシフォノのためにも二人にしてあげた方がいいかもしれない。

ティーネは大丈夫かな。

ちょっと顔を窺うと、ティーネも気付いて私にだけ伝わるくらい小さく頷いた。


「シフォノ、ティーネ、私はセレスと噴水を見に行ってくるね、席を外してもいいかな?」

「まあどうぞ殿下、お構いなく」

「うん」

「では二人とも失礼する、歓談を続けてくれ」


セレスも話を合わせてくれた。

席から立って池へ向かおうとする間、シフォノは急におろおろして、ティーネはニッコリ笑いながら見送ってくれる。

頑張れシフォノ。

後はよろしく、ティーネ。


池の傍まで来て、セレスと一緒に噴水を見上げた。

綺麗だなあ。

―――あの時のことをちょっと思い出すみたいだ。


「懐かしいな」

「え?」

「君とレースに出ただろう? そのことを思い出していた」


同じこと考えていたんだね。

あれは白熱したレースだった。

景品もいいものだったし、セレスのおかげで勝てたんだ。


「あの時の君の勢いは凄かったな」

「だって景品がテーペを呼べるオイルだよ、絶対に欲しいよ」

「結局その謳い文句は偽りなしだったのか?」

「そこは微妙かな、でも凄くいいものに違いはなかったよ、そもそもオーダーって呼びたい精霊を呼べる魔法じゃないから」

「確かにそうか」


まあ、最近は呼びたい精霊を呼べるけど。

たくさん加護を授かって、エノア様から種子も託されたお陰かなあ。

私のオーダーの腕が上がったって説も推したい。

旅の間に何度も実戦を経験したからね、前よりは実力がついているはずだ。


「あのレース、セレスのおかげで勝てたよね」

「君と二人で掴んだ勝利さ、そうだろ?」

「うん!」


楽しかったな。

兄さん達も参加していたけど、二人共背が高いから、リューを抱えたロゼは塔みたいに大きかった。

レースに勝って、賞品をいただいて。

そして―――ベルテナが現れた。

あの子は、最期はあんなことになってしまったけれど、一緒にいたセレスの元お付きの人はどうなったんだろう。

少し気になる。だけどセレスには訊きづらい。

いつか機会があれば誰かに訊いてみよう。


暫く池のほとりでセレスと話して、テラスへ戻る。

気付いたティーネが手を振ってくれた。でもシフォノはカチカチに固まっている。


「で、殿下!」

「何?」

「あああああああ厚かましいことは承知の上でッ、おッ、おねッ、おねッ、お願いがッ、おッ!」

「シフォノ様も私達と共に学ばれたいそうですわ、殿下、如何致しましょう?」


別に構わないよ、一緒に勉強する人が増えるのは大歓迎だ。

ティーネにそう伝えて、シフォノにも同じことを言う。

途端にシフォノは椅子からバネみたいに立ち上がると「有難うございます!」ってまた腰を直角に曲げて頭を下げた。


「殿下と共に学べるなど光栄の至り! 誠心誠意励まさせていただきます! よろしくお願いします!」

「うん、でも私もまだまだだから、一緒に頑張ろうね」

「はい! 恐縮です! 全身全霊を懸けて学びます!」


そこまで頑張らなくていいと思う。

だけどこれからシフォノも一緒なら、勉強が出来なくて情けない姿を見せられないってことか。

まさかと思うけど、そういう目的でティーネから誘ったなんてことないよね?

チラッとティーネを見る。

ティーネはニコニコ笑ってる。

うう、なんだかそんな気がしてきた、もしかして了解したのって迂闊だった?


「それでは、本日午後の授業から早速」

「ふぁッ!」

「よろしいですわね、殿下」

「う、うん」

「はいッ、頑張ります!」


や、やられた。

ティーネってこういうところがある。

昔からだ、リューもだけど、容赦がないんだ。

でもシフォノはすっかりやる気だし、私も気合を入れなおそう。

勉強するのはいいことだからね。


だけど一緒に授業を受ける仲間が増えたのはちょっと嬉しい。

シフォノともっと仲良くなれそうでワクワクしている。

頑張ろうね、シフォノ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ