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ノブレスオブリージュ 2

見上げるほど大きな、数十メートルはあるだろう巨大なミゼデュースが三体。

そして同時に発生した数えきれないほどのミゼデュースが一斉に襲い掛かってくる!


「そりゃあああああああッ!」


先陣を切ったのはラーヴァだ。

空から巨大なミゼデュースめがけて両手足の爪を繰り出す!

巨大なミゼデュースは無数の管を伸ばしてラーヴァを襲うけど、まとめて払い除けつつ吐いた炎が巨人を炙る!

巨人の体のあちこちで爆発が起きた。

ッ臭い?

これ、毒かもしれない、防護を!


「風の精霊よ、我が希う声に応じて来たれ、汝の力をもって我が欲する望みを叶えよ、ディクチャー・ヴェンティ・レガート・ストウム!」


さっき唱えたエレメントをもう一度全員へ重ね掛け。

これで多少は防げるはずだよ、でも効果は少しずつ薄れるから、適宜重ね掛けしないと。


「それでは、僕はあの大きいのを相手してこようか」


そう言ってロゼは「未熟者!」とモコを呼んだ。


「はい、ししょー!」

「ハルを守れ」

「わかった!」


ポンッと羊の姿になったモコが駆けてくる。


「はる、のって!」

「うんッ」


地上はあっという間に混戦模様だ。

リューもセレスもカイも押し寄せてくるミゼデュースを捌くのに手いっぱいで、他を構う余裕は無さそう。私がいたらきっと足手まといになる。

それに、空からの方がエレメントを唱えやすい。

モコが攻撃を避けてくれるおかげで詠唱に集中できるよ、有難う、モコ!


「風の精霊よ、我が希う声に応じて来たれ、汝の力をもって我が欲する望みを叶えよ! ヴェンティ・フィン・ルーフェム!」


塊になってセレスとカイを襲っていたミゼデュース達が、風の精霊ヴェンティの起こす風でバラバラに吹き飛ばされ切り刻まれる。

こんな悪臭の強い場所じゃオーダーは使えない。

だからエレメント一択!

―――それと、状況によっては、エノア様の花を咲かせよう。


「わあっ」

「うわッ!」


不意にモコが体勢を崩しっ、危なかった!

巨大なミゼデュースから飛んできた何かを避けようとしたんだ。

また飛んでくる何かと伸びてくるたくさんの管を、横から太い光線がまとめて薙いで焼き払う!


「なにをしている!」

「ししょー!」


ロゼ兄さんだ!


「ハルを守れと告げただろう、それとも、お前では役不足か!」

「だいじょぶ! ぼく、やるっ!」


答えたモコは口をキュッと結ぶ。

頑張って。

私はモコを信じるよ、一緒に戦おう!


「はる、ぜったいおとさないよ、ぼく、がんばる!」

「うんッ」

「まもるよ、ぼく、はるのだから!」


モコにしがみついて、また詠唱に入る。

皆それぞれ戦っているんだ、私も、皆を支えないと!


「土の精霊よ、我が希う声に応じて来たれ、汝の力をもって我が欲する望みを叶えよ、ソロウ・ソル・レクリームッ」


巨大なミゼデュースの足元が土の精霊ソロウの力で裂ける。

その裂け目へ片足が落ちて体勢が崩れたところへ、ラーヴァが強烈な蹴りを繰り出す!


「よいぞハル! 見事な手腕じゃ、惚れ惚れするのう!」

「気をつけてラーヴァ! 右!」

「おっとと!」


右から伸びてきた腕を避けると、ラーヴァはまた火を吐く。

腕が爆発して欠片が地上へ降り注いだ。


「ッあぶねえ!」


下にカイがいた!


「おい竜! 気をつけろ!」

「なんじゃあ? 自分の身くらい自分で守らんか! 巻き添えを喰ろうても我は知らん! ワハハ!」

「こッんのクソ竜がぁッ!」


怒鳴りながら放った三又の槍の一撃でミゼデュースが大量に跳ね飛ばされる!

浮いたミゼデュースをまとめてセレスが一刀両断した、すごい!


「おいハル! 槍に効果付与できるか! こいつの剣にもだ!」

「まかせて!」


二人の傍へモコが向かう。

その背中から、二人の槍と剣、あと少し離れた場所で戦ってるリューの殴打武具へも併せて!


「氷の精霊よ、我が希う声に応じて来たれ、汝の力をもって我が欲する望みを叶えよ、ディクチャー・ガラシエ・ヴェーレ・コンペトラ!」


氷の精霊ガラシエの力を与えられた武器は、攻撃した対象を即座に凍り付かせる!

向こうでリューが「助かる!」って突き上げた拳を振り返してくれた。

セレスとカイも凍り付いて動きの止まったミゼデュースを次々破壊していく。


ラーヴァとロゼは、一緒に戦いはしないけど、巨大なミゼデュースを相手にそれぞれ一歩も引けを取らない。

むしろ圧倒している。

すごいな。

戦う姿が空を舞っているみたいで綺麗だ。こんな状況なのについ見惚れそうになるよ。


「石の精霊よ、我が希う声に応じて来たれ、汝の力をもって我が欲する望みを叶えよ、ルッビス・レミューイ・ラングス!」


大群へ向けて石の精霊ルッビスの礫を放つ。

倒しても倒してもミゼデュースは一向に減らない。

こんなゴミだらけの場所じゃ幾らだって発生するだろうし、復活も早いから、終わりが見えてこないよ。

大元を叩かないと。

この状況を生み出している元凶だ。

そういえば―――ノヴェルはどこに行ったんだろう。

いつの間にか姿が見えない。

辺りを見渡しても、どこにも見つけられない。


「ねえモコ、ノヴェルがどこにいるか分かる?」

「うん、あっ」


急にモコの体がビクッと震えた。

どうしたの?


「はる、こわいのだ」

「えッ」

「まじんだよ、いるよ、のヴぇるのとこ、いる!」


急旋回して逃げるように羽ばたくモコの後ろの方を見る。

魔人?

どこ―――いた!

ノヴェルだ!

そして、その傍に立っているのは、あれは。


「みなさぁん!」


大きな声を出していないのに聞こえるのは、魔力を乗せて話しているんだ。

―――カルーサ。

前はベルテナの付き人をしていた、魔人。


「こんなむさくるしい場所へお呼びだてしてスイマセぇン、なにせ会長が拘るもんでねぇ、ボクもこんな場所来たくなかったんですが」


手をヒラヒラ振って、隣でどこか唖然としているノヴェルの肩に腕を乗せる。


「さて会長、このままでは貴方の理想も理念も叶いませんよ? これまでのことぜーんぶ無駄ですわ、だって! なんといってもアチラには、ほら! まさかの! ラタミル様がついていらっしゃる!」

「ラタ、ミル」


そうか、ノヴェルはロゼとモコに驚いているんだ。

でもそれにしては何だか様子がおかしい?


「そうです! 天の御使いラタミル! 純白の翼持つ、正しいことと善きことの守護者!」

「バカな、何故」

「何故でしょねぇ? うふふ―――そうだ! きっと竜が買収したに違いありません!」

「は? ラタミルを、か? そんなまさか」

「きっとあくどい手を使い、それっぽーく気を引いたんでしょ、奴らは欲のためなら何だってする、それは会長さんもよーくご存じでいらっしゃいましょ?」

「だ、だが、ラタミルだぞ? そんな」

「ラタミルをも騙すのがあくどい竜のやり口ですよ」

「そんなッ、なんてことだ、奴らはどこまでッ、くッ!」


変な話をしてる。

竜がラタミルの気を引く? 出来ないと思うけど。

それにしてもカルーサだけじゃなくどうしてノヴェルの声まで聞こえるんだろう。

―――私達に聞かせているの? どうして?


「わ、私がッ、この私がラタミル様の目を覚まして差し上げなければ」

「そうです」

「私の理想こそが、私の行いこそが正しいのだと、知らしめなければ!」

「仰るとおり!」

「そうだ正しいのだ! 私は絶対的に正しいことをしている!」

「はい勿論!」

「持てるものは与えなければ、その崇高な理念を持つ私こそが御三家筆頭に相応しい!」

「すんばらしい! 我らも支持しております、ノヴェル殿!」

「わ、わた、私はッ、わたし、わたしは、わたしはぁッ!」

「さあ今こそ理想を形にする時です、会長! ご決断を!」


「やめろ!」とリューが怒鳴る。


「貴様だったのか、彼らを甘言で誑かし操っていたのは! 目的は何だ!」

「嫌だなあ」


カルーサはカラカラ笑う。

なのに笑っているように見えない。

見せかけだけの『フリ』だ、今話していたことも全部きっと嘘だ。


「操るだなんてぇ、そんな御大層な真似、ワタシにできるわけないでしょ?」

「ほざくなよ魔人ッ、ロゼ!」


リューの声と同時にカルーサの立っている場所へ魔力の一撃がさく裂する!


「おっと、あぶない!」


ノヴェルを抱えて逃げながらカルーサはまた笑う。


「こちらのカイチョーさんまで黒焦げにするおつもりですかぁ? いやはや見境ありませんなあ!」


また一撃、一撃と、繰り出されるロゼの攻撃をひょいひょい避けながら、カルーサは何かをノヴェルに囁いている。

魔力の干渉を止めたんだ、今度は内容が聞こえない。

巨大なミゼデュースが二体揃ってロゼに襲い掛かる!

ロゼがカルーサへの攻撃を止めてそっちを相手し始めると、また声が響く。


「叶えたいでしょう? 示したいでしょう? 優秀な貴方こそが商業連合を導くに相応しいと」


竜などではなく。

重なって聞こえた声は誰の声だったのか、カルーサが抱えたノヴェルを覗き込む。


「さあ」

「やめろ!」

「始まりますよ、ノヴェル会長、いや、もうとっくに始まってはいたんですがネ」


リューが叫ぶ。

魔人とノヴェルの姿が重なっていく。


何が、起きてる?

私は前にもあの光景を―――ディシメアーだ、カルーパ様だ!

ラクスに体を乗っ取られた。

でもあの時、カルーパ様は自らラクスに乗っ取らせて、魔人諸共命を落とす覚悟でおられた。


ノヴェルが人でなくなっていく。

他の商人達と同じように。

―――これでご破算、これでおしまい。


「あはッ、あははははッ、あはははははははははははははは!」


ゴミ山に笑い声が響き渡った。

急に辺りの魔力が更に淀んでズンッと重くなる。

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