ドレスアップ 前編
今回は長くなったので前後編にてお届けします。
「できたぁ!」
うーん、まだ完璧とまでは言えないけれど、かなり満足の行く仕上がり。
この香りでどんな精霊が来てくれるだろう。
虹の精霊? 玉石の精霊? 黄金の精霊かな、それとも、もしかして陽光や灯火の精霊が呼べたりして!
ワクワクする、早く試してみたい。
それと、香水も仕上がった。
基本の組み合わせは同じだけど、少しずつ印象を変えてある。
これがロゼ、これがリュー、こっちがモコで、これは私。気に入って貰えるかな?
そろそろ朝食会場が開く頃だろう。
道具を片付けてから、恐る恐る部屋を出る。
「こらハル」
すぐ呼び止められた。
そうだよね、分かっていたよ、どっちにしたって一緒に朝食をとりに行くし、観念するしかない。
「さっきの気配はなんだ」
「ごめんなさい」
「ロゼに話を聞いたが、お前からもちゃんと説明しろ」
「はい」
リューが座っている長椅子の向かい側に腰を下ろす。
隣にモコもピョンと腰掛けた。
反対側から、先に座っていたセレスが心配そうに窺ってくる。
「あのね―――」
腕組みするリューに訳を説明した。
実際に危なかったし、ちゃんと反省はしている。
ロゼが来てくれなかったらどうなっていたか、だけどまさか、あんな事になるなんて思ってなかったんだ。
「なるほど」
話し終わると、リューは頷いて「ハル」と私を呼ぶ。
「はい」
「お前の好奇心は否定はしない、実際なかなか有意義な試みだ、俺も結果に興味が湧いた」
「うん」
「だが危機管理を怠ったことに関しては注意させてもらう」
「はい」
「以前と今では状況が違う、それにお前、憶えていないのか?」
「何を?」
「母さんがオーダーのオイルを作っている時も、よく似たような状態になっていただろう」
そういえば―――そうだ。
母さんがオーダーのオイルを調香していると、精霊がたくさん集まってきた。
それを見て母さんは「綺麗ね」って笑っていた。
いつも凄いな、素敵だなって、憧れていたんだ。
「お前も母さんに近付いてきたのかもしれないな」
リューがしみじみと呟く。
それなら嬉しいけれど、でも、今の私は少し違うような気がする。
何かおかしいんだ。
オーダーで呼びたい精霊が呼べること。
ずっと制御できなかった『大きいの』が呼べるオーダーを唱えられるようになったこと。
単純に喜べない。
エノア様の種子のことだってそうだ。
どうして私なんだろう。
この国をお造りになられた貴い存在が、どうして私に種子を授けられるんだろう。
竜に名付けて、授かった種子から咲く花は、私の中の何かを消費する。
最初は力が入らなくなった。
次に声を出せなくなった。
今度は凄く寒くなった。
次は何を消費して花が咲くんだろう。
残りあと二つある種子、中央のエルグラートと、北のファルモベルで私を待っているとオルト様は仰っていた。
そして―――魔人はエノア様の花を嫌う。
今巻き込まれている粉の一件と、この花と、もしかしたらオーダーも、全部繋がっているんだろうか。
あともう一つ。
『パナーシア』を唱えられる意味も、まだ知らない。
兄さん達から聞いていない。
「ハル」
呼ばれて、いつの間にか俯いていた顔を上げると、リューと目が合う。
綺麗な青葉色の瞳、夏の盛りに生い茂る葉の色だ。
見つめ合っていると段々気持ちが落ち着いて、安心する。
大丈夫だって気持ちになれるよ。
兄さん達が傍にいてくれたら、きっと全部大丈夫だ。
「調香の腕が上がったことはいいことだ、誇っていい」
「うん」
「それはそれとして、お前も母さんに近付いた自覚を持つように」
「そうなのかな?」
「ああ、凄いことだ、俺も自慢だよ」
褒められて嬉しい。
もっと叱られるかと思ったけれど、もしかして気持ちを汲んでくれたのかな。
「さて、そろそろ食事をとりに行こう」
「うん!」
「ぼくおなかへったぁ」
「ねえ、ロゼ兄さんは?」
「部屋に籠ってる、だから俺達だけで行くぞ、拗ねるといけないから持ち帰りに何か包んでもらおう」
「そうだね」
今頃私達の服を仕立てているんだ。
若草色のワンピース、どんな感じだろう、楽しみだな。
食事会場へ四人で行って、美味しい朝食をお腹いっぱいいただいた。
ここのパンって、フワフワで仄かに甘くて、本当に美味しいんだよね。
ジャムも種類が豊富、リンゴのジャムだけで数種類もあってすごく嬉しい!
今日食べた中で一番美味しかったのは、鶏肉のリンゴのコンポート添えだな。
旨味をギュッと閉じ込めて焼いた鶏肉に、甘くてシャキシャキした角切りリンゴのコンポートが添えてあって、何度もおかわりした。
ロゼの持ち帰りも勿論これ。
「お前の持ち帰りじゃないんだぞ」ってリューに笑われたけれど、ロゼも絶対気に入るよ。
他にもいくつか肉料理を包んでもらって部屋へ戻る。
「おおい、戻ったぞロゼ、お前に土産を」
「ししょー!」
「師匠、お食事を」
「わあ!」
広い部屋の長椅子の上に並べられた服と、その隣にやり遂げた顔で佇んでいるロゼ。
「どうだい?」ってニッコリ訊かれた。
すごい! もう仕上がったんだ、本当に凄いね、さすが兄さんだよ!
「改めて感心するというか、呆れるな」
「それは褒めているのだろう、そう受け取らせてもらうよ、僕ならば容易いことさ」
「はわッ、はわわわわ、はわわわわッ!」
「すごーい、ししょーすごいねえ!」
「うん、凄い!」
どれが誰の、なんて訊かなくても分かる。
若草色のワンピース、これは私の服だ!
その隣に並べられた空色のワンピースと、オレンジ色のドレス。
「おそろい!」
ふふ、そうだね。
私のワンピースよりふんわりした形だけど、ちゃんとお揃いだ。
モコが嬉しそうにピョンピョン跳ねる。
「あ、ありがどう、ございまずッ」
セレスはまた泣いてる。
すぐ泣くんだから、よしよし、セレスもよかったね。
「は、はるぢゃんッ、う、うれじいッ」
「よかったね、セレスによく似合いそうな素敵なドレスだね」
「うんッ」
あっちの白と黒のスーツはロゼとリューのだ。
対の意匠で格好いい、お洒落だな。
「早速袖を通してみるか、着心地を確かめないとな」
「僕が仕立てた服だ、採寸に些かの狂いもないよ」
「疑ってるわけじゃない、具合を試しておきたい」
「ふむ、なるほど」
「ほらお前たちも、向こうの部屋で着替えてこい、他に要る物もあるかもしれないからな」
そうだね、早く着てみたい!
セレスとモコと一緒に服を持って寝室へ行く。
早速着替えてみた。
―――わあ、改めて可愛い!
このワンピース、袖がふんわりとして、胸の少し下辺りからスカートになっている。
クルッと回ると裾が広がって花が咲いたみたい。
モコのワンピースも私とお揃いだけど、こっちの印象は雲みたい。
二人で一緒にクルクル回ってスカートが広がるのを楽しんだ。
セレスのドレスは大人っぽいな。
胸を強調するように、胸のすぐ下に布のベルトがあって、そこから体の線に沿ってくるぶしまで細かいプリーツのスカートが流れ落ちる。
胸元も大胆に開いていてすごく色気があるけれど、全体的な印象は上品だ。
「流石は師匠、この形状、色、どれも最新の流行をふんだんに取り入れておられる」
「そうなの?」
「ああ、城の仕立て屋が見たら嫉妬で狂いそうだよ、素晴らしいな、やはり尊敬する」
「セレスの服を仕立ててくれた方だね」
「そう、この呪われた服を」
ゴホン、ゴホンと咳払いして、セレスは言い直す。
「もとい、私専用の服を仕立てた者だ」
「どんな方なの?」
「劇場の支配人の弟だよ」
えッ!
レイの弟は王宮で専属の仕立て屋をしているの?
凄い兄弟だ。
「その繋がりで支配人は私のことを知っていたんだ」
「そうなんだ」
「王族の地位を笠に着て推し活なんて格好悪いからな、本音としてはあまり関わらないで欲しいんだが、兄弟揃って何かと構ってくる、何なんだ一体」
それはきっと、セレスがすごく美人だからだよ。
男の人の時は格好いいし、どうしたって目を惹くから。
サクヤのライブに出演する話が出た時も、真っ先に飛びついてきたのはそういう理由じゃないかな。
「ハルちゃん」
「なに?」
「君の服も可愛いね」
「有難う」
「勿論服だけじゃないが、君を一層引き立てている、似合っているよ」
褒められて嬉しい、改めてロゼにお礼を言わないと。
モコが「ぼくは? せれす、ぼくは?」ってピョンピョン跳ねる。
「モコちゃんも可愛、美しいよ」
「ぼく、うつくしー?」
「ああ」
「うれし! ねえはる、ぼくうつくし?」
「うん、美しいよ、モコ」
「わーい!」
ラタミルは美しさが無上の価値だからね。
でも、やっぱりモコは美しいっていうより、可愛いよ。
喜んでいるからいいか。




