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送迎および食事つき

今日の練習はおしまい!

サクヤ達と別れて劇場を後にした。

明日からは毎日、朝からここへ来てサクヤと一緒に歌と踊りの練習だ。

ライブに出演するって知ったら、カイとメルビックリするだろうな。

前に誘った時は一緒に行けないって言われたけど、少しでいいから見に来て欲しい。

目的はともかく、せっかくだからね。


またホテルの食事会場で夕食を頂いて、その後は大浴場でゆっくり湯に浸かる。

部屋へ戻って少し喋って寛いでから、少し早いけど明日に備えてベッドに潜り込んだ。


「私とセレスは明日からライブまでずっと練習だけど、モコはどうする?」

「はるといっしょ!」

「ふふ、分かった」

「師匠とリュゲルさんは引き続き依頼の調査をされるそうだな」

「うん」

「私達も、貿易商を調べる切欠を作るため、何よりサクヤちゃんの好意に応えるために頑張るぞ」

「そうだね、頑張ろう」

「ぼく、おーえんするっ」

「有難うモコ」


この事を母さんやティーネが知ったらどう思うだろう。

ずっと連絡していないから、心配しているよね。

よし、ライブが成功したら今度こそ二人へ絵ハガキを書こう。きっと驚くぞ。


薄暗い部屋の、フカフカなベッドの中。

モコの柔らかな髪に顔を埋めてウトウトしていたら、囁くようなセレスの声が聞こえた。


「ハルちゃん」

「なに?」

「私はこれまで、君からたくさんの贈り物を貰った」

「そうだっけ?」

「貰ったよ、君にそのつもりはなかったかもしれないけれど」

「うん」

「だから私は、これからも君の傍にいて、君を護る」

「ふふッ、嬉しい」

「あと数か月で君の誕生日だな」

「そうだね」

「十六歳か」


段々意識が遠のく。

眠い。

ダメだ、ごめんセレス、まだ何か言っているけれどよく聞き取れない。

おやすみ、また、あし、た。


――――――――――

―――――

―――


「おきてはる、おーきーてー!」

「ほらハルちゃん、劇場へ行くぞ、頑張って目を開けるんだ」

「んん、うーん」


もう朝? ふぁ、まだ眠い。

起き上がって、伸びをしながら欠伸して、モコにくっつかれたまま寝室を出る。

フラフラ歩いて洗面所へ向かう途中、外の廊下へ出る扉を叩く音が聞こえた。

誰だろう?

リューが対応しに行くのを見送りながら、脱衣所に併設されている洗面台の前に立った。

栓を開いて水が流れ出す音に交じって、知らない人の声が聞こえてくる。


「早朝から大変失礼いたします」

「どちら様だ」

「私はバイスー商会の使いの者です」


バイスー商会?

水を止めて、行儀が悪いと思いつつ聞き耳を立てる。

こんなに朝早くから何の用?


「要件を伺おうか」

「当商会の会長よりお言付けです、会談の場を設けますので、是非ともご参席されたし、とのことです」

「会談?」

「オルム商会会長と、相談役もご参加予定でいらっしゃいます」


エレとラーヴァも?

思い当たるのは『粉』の件、竜たちの依頼だけど、どんな話をするんだろう。

御三家のうち二つの商店の会長が参加するなら、政治的な会談かもしれない。

でもそれだと私達が呼ばれる理由が分からないし、うーん。


「本日昼より開始予定ですが、ご都合は如何でしょうか?」

「場所は」

「ご参加の折、改めてお迎えに伺いますので、その時に」


少し間があって、「分かった」と答えるリューの声が聞こえた。


「俺と兄が参加しよう、そのように伝えてくれ」

「かしこまりました、貴重なお時間を割いていただきますこと、深く感謝いたします」


扉の締まる音が聞こえる。

使者は帰ったのかな。

とにかく顔を洗って、髪を梳かそう。

洗面台を離れて、寝室へ戻って服を着替えて、手持ちする荷物の中身を確認、よし。


「お待たせ!」


広い部屋で兄さん達と一緒に待っていたセレスのところへ行く。


「もう出られるか?」

「うん、ちょっと遅くなった、ごめん」

「いいさ」

「だが朝飯を食べている時間は無さそうだ、取り敢えず劇場へ向かおう」


ううっ、そうだよね。

リューが「後で何か差し入れるから、ひとまず水でも飲んでおけ」って水が入ったグラスを手渡してくれる。

美味しい、でもお腹空いた。

朝だしセレスも空腹だよね、明日は頑張ってちゃんと起きよう。


部屋を出てホテルの一階まで下りる。

外へ出ると近くに停まっていた車がすうっと近づいてきて、私達の前でまた停車した。

開いた扉から颯爽と降りてきたのは―――


「おっはようございまぁす! 麗しき星の輝きを宿せし乙女たち~ッ!」

「うッ支配人」

「はぁい、セレス様、今朝も眩いばかりの煌めきッ、ハルさんも全く愛くるしい!」

「何をしに来た」

「ご挨拶ですねえお寝坊さん達、麗しのお嬢様方をお迎え上がったのですよッ」


レイだ。

朝から凄く元気だ。

ポカンとしていると、後ろに回って「さあさあ、さあさあさあ!」って車に乗るよう促される。


「ぼくもいっしょ!」

「勿論ですよ、愛くるしいおチビさんッ、どうぞどうぞ、ワタクシの車の乗り心地はなかなかのものですとも!」

「お、おい」


私達が車に乗り込んだところで、今度はクルッと振り返って兄さん達に最敬礼した。


「それでは! お兄様方、貴方がたの大切な妹君と貴きご友人、そして愛くるしいおチビさんは、ワタクシが責任をもってお預かりさせていただきます」

「そうか、それはその、よろしく頼む」

「ハイ! 無論お帰りの際もお部屋までしっかり送らせていただきますのでご安心をッ」

「そうしてもらえると助かる」

「当然ですッ、この世の何より尊き乙女たち、そのお世話をさせていただける僥倖にこの身は打ち震えるばかり!」

「そ、そうか」

「必要でしたら一時間毎にご様子をお伝えいたしますが?」

「いや、それはいい、貴方を信用しよう」

「なんと有難きお言葉! そのご期待に必ずお応えいたしましょう、ではお兄様方も善い一日を、アデュウ~ッ!」


レイは踊るような足取りで運転席へ乗り込んで車を発進させる。

見送る兄さん達の姿が遠ざかっていく。

二人は昼にバイスー商会の会長が主催する会談に参加するんだよね、頑張って。


「ところでお嬢様方、今朝の食事は済んでおられますかな?」

「あ、いえ」

「んーふふ、でしょうな、ですが大丈夫! はいこちらをどうぞ!」


運転席の隣の席から何かを取って渡してくる。

紙袋、中身は具を挟んだパンだ。


「朝食はしっかりと! 体力づくりの基本です、さあ召し上がれ」

「有難うございます」

「なんの、お飲み物をご用意できず申し訳ありません、ですがワタクシの愛情がたっぷり詰まっておりますので、美味しいですよ」


手作りなんだ。

恐る恐るパクッと一口かぶりついてみる。

あ、本当だ、酢漬けの野菜と茹でた鶏肉、優しい味がする。


「はる、これおいし」

「そうだね」

「意外にいける」


運転席から「そうでしょう、そうでしょうとも」って嬉しそうな声が聞こえた。


「明日からもお迎えに上がりますよ、今頃の時刻に伺いますのでどうぞ合わせてお仕度ください」

「そうか、まあ、助かる」

「はあーっ、朝からセレス様より感謝のお言葉を賜る歓び、まこと支配人冥利に尽きます」

「ああそう」


セレス、もう疲れた顔してる。

私もパンだけじゃなくお腹いっぱいだけど、練習頑張るぞ。


劇場に着いて建物内へ入ると、そこでレイは「ではワタクシは支配人として働いてまいりますので、ご機嫌よう!」と行ってしまった。

早速練習室へ向かおう。


「おはよう、ハル、セレス、それからモコちゃんも!」

「おはようサクヤ」

「サクヤちゃんおはよう、今朝も可愛いね」

「おはよー!」


朝からサクヤも元気いっぱいだ。

笑顔が眩しい。


「キョウは?」

「演出関係の打ち合わせだって、後で様子を見に来るって言ってたよ」

「そう」

「さて、それじゃ着替えて、今日も特訓だよ!」

「はい」

「すまないなサクヤちゃん、君は自分の練習だってあるのに」


セレスがそう言って今更気付く。

そうだ、サクヤは自分の練習もあるのに、私達に付き合ってくれているんだ。


「そんなの気にしないで」


サクヤはニッコリ笑う。


「私ね、今度のライブはいつも以上にすっごく楽しみなんだ、今から待ちきれないくらい!」

「ああ」

「新しいポスターも発注してるんだよ、早速ソルジャーの皆にも伝えちゃった、私の妹分がデビューしますって」


ポスター?

それにソルジャーって、もしかして前に聞いた『コノハナソルジャー』のこと?


「妹の面倒を見るのは姉として当然、だから、皆で一緒に頑張ろう! ねっ?」

「サクヤちゃん」

「さあ、お喋りはおしまい、時間がもったいないよ、練習練習!」

「そうだな、ハルちゃん、モコちゃんも、着替えるとしよう」

「はーい!」


改めて緊張するな、本当にサクヤのライブに共演するんだ。

昨日と同じ色と大きさの練習着に着替えて、さあいよいよ練習開始!


「ねえ、そういえばハル」

「うん?」


―――沢山動いて汗を掻いて、水を飲んでいると、サクヤに胸の辺りを指された。


「そのネックレス」

「あ、うん」


前の誕生日に母さんから贈られたネックレス。

いつも身に着けておくように言われているから、今も首から下げている。

だけど練習着の中に入れておいても動いているうちに段々出てくるんだよね。


「エルグラートからこっちへ出発しても今からじゃ間に合わないけれど、お母さんにも見て欲しかったよね」

「ふふ、仕方ないよ」


だけど絵ハガキを書くよ。

気にしてくれて有難う。


「そうだ、よければキョウに頼もうか?」

「え?」

「キョウはメガネのツクモノだから、レンズとか水晶とか、何かを映す物を使いこなせるんだ」

「そうなんだ、凄いね」

「確か映像を長期保存できる小型の記録水晶を持っていたはずだよ」


傍で聞いていたセレスが「それは本当か?」って驚いている。

記録水晶。

本で読んだことがある、映像を転送、再生、そして保存できる魔力水晶だ。

だけど一般にはあまり普及していない。

それは水晶の質が性能に影響するから、加えて、記録された映像は再生と同時に失われていって、最終的に記録水晶はただの水晶になってしまう。

つまりかかる費用や手間の割に性能がよくないそうだ。

他の映像を記録して保存する方法も研究されているらしいけど、実用化は当分先だろうって前にロゼが話していた。


「本当だよ、だけどキョウしか扱えないの、後で借りられるか訊いてみよう?」

「うん!」


母さんに映像を届けられるならすごく嬉しい!

ますますやる気が湧いてきた、それならなおさら頑張って練習しないとね。

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