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産業廃棄物処理場 1

パヌウラが運転する車に乗って、どれくらい移動しただろう。

陽が空の一番高い場所から少し西へ傾く頃、開けた場所に建つ大きな施設に到着した。

辺りには何もない、木や草さえほとんど生えていない。

ぐるっと囲む壁を越えた先に四角い建物があって、大きな煙突からはもくもくと煙が昇っている。

なんとなく居心地悪いな。

それに変な臭い、すえたような刺激臭。嗅ぎ慣れない臭いだ。

建物には大きな車が何台も出たり入ったりしている。あの奥に処理場があるんだろうか。


パヌウラは、その大きな建物の脇にある小さな小屋の傍で車を停めた。

中へ声を掛けると、首からあのネックレスを下げた獣人が出てきて、ここの職員だと挨拶される。

車に残るパヌウラに見送られながら、私とロゼとモコ、三人だけで案内されて小屋へ入った。


小屋の奥には扉があって、その先は通路で、隣の大きな建物、産業廃棄物処理場と繋がっているそうだ。

危険なゴミを扱い、ミゼデュースまで発生するような場所で働くのって大変だろう。

きっとこういう人達が商業連合の発展を支えているんだね。


「皆さま、産業廃棄物についてはご存じですか?」

「いえ、普通のゴミとは違うって聞いてますが、詳しいことは分かりません」

「ではご説明差し上げます、設備をご案内しながらお話ししましょう」


職員は施設内を順に案内して、都度説明してくれる。

簡単にまとめると、産業廃棄物っていうのは、家庭から出るゴミ以外の法で指定された数十種類に分類されるゴミのこと、らしい。

その中には爆発の危険があったり、触れると怪我をしたり、毒性のあるものも含まれていて、定められた方法での処理が必要になる。

だからこの処理場でゴミごとに適切な処理を行い、安全に廃棄しているそうだ。

産業廃棄物はその分類に分けられる物であれば量は関係ない。だから全てのゴミがここへ集められてくる。

一般の家庭ゴミを処理する処理場より、この処理場では毎日多くのゴミの処理が行われている。


「他にも同様の廃棄場はありますが、ここが一番大きいんですよ」

「へえ」

「さて、着きました、こちらが一時集積場―――ミゼデュースが最も頻繁に発生する場所でもあります」


ガラス越しに見下ろした空間では、大勢の人や獣人たちが作業にあたっている。

ゴミ、ゴミ、ゴミ、見渡す限りゴミの山だ。

ここで分類したゴミをそれぞれ処理場へ運んで、廃棄のための処理をするらしい。


「他の場所でも稀に発生しますが、殆どの場合がこちらです、なのでここには厳重に結界を張り、外部へ被害が及ばないよう、武装処理班も常時控えて監視を行っております」

「最近被害が増えているって聞きました」

「はい、魔力払いしても何故かすぐ魔力が淀むので、その影響を受けてミゼデュースの発生率が上がっているようなのです」


職員はすっかり困っているようだ。

そうだよね、何故かってことは、分からない原因があるかもしれないって思っているんだろう。


「処理場内部のことでしたら、今申しあげたとおり万全の備えであたっているのでどうにかなります、問題は不法投棄されたゴミから発生するミゼデュースです」

「不法投棄?」

「ええ、産業廃棄物に限らず、ゴミの処理には手間も費用もかかります、それらを惜しんで人目につかない場所へゴミを捨てていく者たちがいるんです」

「そのゴミからもミゼデュースが発生するんですか?」

「はい、なにせ人目につかない場所ですからね、ミゼデュースの発生に連動性があることはご存じですか?」

「はい」

「誰にも気付かれず発生したミゼデュースが被害を起こす、それが今一番我々の頭を悩ませることなのです」


なるほど、そういうことか。

どこかで起きたミゼデュースの被害を収めても、発生場所の魔力払いをしない限り、またミゼデュースが発生してしまう。

だからその場所を探す必要があるだろうし、見つけるのはきっとすごく手間だ。だって人目につかない場所だから。

そして、その間も思いがけず襲われて酷い目に遭う人は出るだろう。

竜たちの依頼の本当の目的は、どうして処理場でミゼデュースが頻繁に発生するようになったか突き止めて、その原因を駆除して欲しいってことだったんだ。

ミゼデュースは発生に連動性があって、発生場所の魔力払いを行うと他の場所に関しても発生が減るんだよね。


「それで、ミゼデュースの駆除に関してですが」


職員が説明してくれようとした時、不意に声がした。


「やあ、こんにちは」


思いがけず振り返ると、職員が「これは、ノヴェル代表」って丁寧にお辞儀する。

誰だろう?

なんだか特徴のない男の人だ。

ニコニコしながら傍まで来て「施設見学の方ですか?」と訊かれた。


「皆様、こちらはカナカ商会の代表、ノヴェル様でいらっしゃいます」


カナカ商会代表!

こんな場所で会うなんて。

カナカは、商業連合を実質的に統治している『御三家』って呼ばれる商会の一つ、だよね。

そこの代表、一番偉い人か。


「初めまして、私は、ハルといいます」

「ハルさんですか」

「こちらは兄のロゼ、そして妹のモコです」

「こんにちは!」


モコは元気に挨拶するけど、ロゼはだんまりだ。

ノヴェルは笑って「はい、こんにちは」と気にした様子もない。

うう、リューかセレスがいてくれたらよかったのに。


「ノヴェル様、こちらは旅行客の方でして、当施設に興味を持ってお越しになられたそうです」

「そうですか、ここ商業連合は他国と異なる廃棄物問題を抱えております、そこに興味をお持ちになるとは、環境問題に興味がおありですか?」

「はい、あの、私、オーダーを使うので」

「オーダー! それは凄い、どこかの学生さんでいらっしゃるのですか?」

「い、いえ、ノイクスでその、興味があって独学で学んでいます」

「それはなんとも勤勉なことだ、素晴らしい、商業連合にはよい学校が沢山あります、そちらへ一時留学されるのも良いかもしれませんね」

「はい、検討しようと思います」


誤魔化すのって苦手だな。

職員はどうして本当のことをノヴェルに言わなかったんだろう。

もしかしてパヌウラに頼まれたのかな、この依頼自体が秘密なのかもしれない。


「私も、この商業連合が抱えるゴミ問題には、日々憂いを覚えております」


言いながらノヴェルはガラス越しに集積場を見下ろす。


「我が国は資源に乏しい、それを魔術や科学、技術などで補い、今日に至る発展を遂げました」

「はい」

「その反面、こうした問題が発生する、これは我が国の未来に影を落とす大事です、早急にどうにかせねばなりません」

「そうですね」


ふう、と息を吐いて、ノヴェルは私にニコッと笑いかけてくる。


「しっかり見学なさってください、願わくば、貴方がここで学んだことをノイクスで活かしてくださるよう」

「有難うございます」

「それでは私はこれで、失礼します」


お付きの人と一緒に歩いて行く。

ノヴェルの後ろ姿が扉の向こうに見えなくなって、職員がため息交じりに肩を下ろした。


「代表は近頃よくこちらへ視察に来られるのです、まさか鉢合わせするとは」

「あの、どうして私たちのこと、あんな風に言ったんですか?」

「オルムの顧問様より直々に口止めされております、誰にも言うなと」


理由は職員も聞かされていないそうだ。

エレに尋ねるべきかな、でもまずはリューに報告しておこう。


今度は下へ降りて、実際に集積場内へ入ってみることになった。

いよいよ現場だ、気を引き締めないと。

緊張して歩いていると、不意にロゼに頭を撫でられる。


「なに?」

「ふふ、君の可愛らしい顔がずいぶん強ばって見えたのでね」

「あ、うん」

「大丈夫だよ、ハル、君の傍にいるのは誰だい? 何も心配はいらないよ」

「はる、ぼくもいるよ!」

「そうだね、兄さん、モコ、有難う」


一人じゃないんだ、少し気負い過ぎていたかも。

よし、改めて、二人にも助けてもらって調査を頑張ろう。

後でリューにしっかり報告するぞ。


集積場へ入る前に、服に臭いが付くからって所員が作業着を貸してくれた。

防護服でもあるんだって、分厚くてガサガサした服で、ロゼもモコも嫌そうにしてる。


「必要ないが」

「ぼくも」

「ダメ、ちゃんと着て、お願い」

「むぅ」

「はるのおねがいなら、ぼく、これきる」


こんなに色々な臭いのする場所じゃ、オーダーは使えない。

呼べても精霊がおかしくなるかもしれないし、畳んだ服と一緒に道具も置いていこう。

着替えを済ませて、集積場へ続く扉の前に集まる。

職員が分厚い扉を開くと―――凄い臭いが漂ってきた!

ううっ、くさい!


「酷い臭いだ」

「はい、こちらにあるものは全てゴミですので」


顔を顰めたロゼに、職員が答える。

だから顔にまで防護のマスクをつけるんだね。

この中で作業を続けるのは大変だろう、本当にここで働いている人たちには頭が下がるよ。


村では、ゴミは大抵燃やすか埋めるかしていた。

私が知らないだけで、ノイクスやベティアスにもこういう処理場はあるんだろう。

人が生活すると、どうしてもゴミが出る。

それは誰かがどうにかして処理しなければいけない。安全な暮らしを続けるために絶対必要なことだ。


「すごい場所ですね」

「ええ」

「でも、重要な場所ですね」

「そうです、なので、最近のミゼデュース発生増加は非常に悩ましい問題なのです」


危険なゴミから危険なミゼデュースが生まれる。

命がけの仕事だ、出来れば何か力になりたい。

なるべく早く解決しよう。


不意に大きな音が鳴り響いて、あちこちで赤や黄色の光が目まぐるしく輝きだす!


「出たぞーッ!」と声が響いた。

一斉に走り出す職員たちと、入れ替わりで飛び込んでくる武装した集団!

私達を案内してくれていた職員も「は、早く非難を!」と促してくる。


「はる」

「構えなさい、ハル、現れたよ」


現れたって、まさか。

思った直後―――


ゴミ山の上に、何とも形容しがたい、ゴミの塊のような姿が現れた。

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