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ドニッシス到着

「それじゃ、私達はそろそろ部屋に戻るね」

「またねハル、セレス、モコちゃんも! 時間があったらライブの前にも劇場に遊びに来て、待ってる!」

「我々の関係者として劇場に話を通しておきます」

「うん!」


名残惜しいけど、列車が駅に着く前に部屋に戻らないと。

サクヤと、キョウと、握手を交わして別れた。


―――それにしても、こんなことになるなんて思ってもみなかった。

初めての寝台列車の旅。

それが二人のおかげで色々な意味で思い出深い体験になった。

怖い目にも遭ったけれど、友達が出来て、ライブのチケットまでもらえた!


「ねえ、セレス、モコ」

「ん?」

「なーに、はる?」

「サクヤのライブ、楽しみだね!」


二人も嬉しそうに頷き返してくる。

後で兄さん達と、カイとメルにも教えよう。

サクヤの応援に皆で行くからね、サイリュームだってめいっぱい振るよ!


部屋に戻って暫くすると、窓の外の景色が段々変わり始めた。

道を走る車や、人や獣人の姿も増えて、飛行船が空を飛んでる!

大きな建物が沢山立ち並ぶこんな風景、他に国では殆ど見なかった。

ドキドキする。

ドニッシスへは大切な目的があってきたけど、楽しい気持ちは抑えられないよ!


「おっ、駅だ、二人とも、駅が見えてきたぞ!」

「わぁ!」

「えき!」


出発したラノッテの駅よりずっと大きい。

列車は速度を落としながらホームへゆっくり入っていく。

これが首都ドニッシスの駅。

外にいる大勢の人や獣人たちの喧騒が車内にまで伝わってくる。

列車が完全に停止して、降りる準備をしていると扉が叩かれた。

返事したらリューが部屋を覗き込む。


「お前たち、支度は済んだか?」

「うん!」

「はい、問題なく」

「りゅーっ、えきだね、どにっしす!」


抱きついたモコの頭を「そうだな」って撫でて、リューは私とセレスに「それじゃ、行くぞ」と声を掛ける。

よし、行こう。

通路に出ると、ロゼが待っていた。

昇降口へ向かう途中でサクヤ達の部屋の前を通る。

まだいるのかな、それとも、もう降りたのかな。

ライブの前にも会いに来てって言ってくれたから、きっと行くよ。

お互い頑張ろうね、サクヤ、キョウ。


昇降口で乗務員から「お疲れさまでした、ようこそドニッシスへ!」と声を掛けられる。

列車を降りて、何となく息を吸いこんだ。

さあ、いよいよだ!


「おおい、お前ら!」


向こうからカイとメルが歩いてくる。

先に降りていたんだね、全員集合だ。


「やっと着いたか、やれやれ、列車でまで厄介ごとに巻き込まれるなんてな」

「でも無事に着いてよかったわ」

「そうだな」


駅の中は大勢の人や獣人が行き交う。

その間を縫って、駅を出た直後―――すごい、これがドニッシス!


「わあ!」


目が眩みそう!

大きな建物、沢山の人や獣人たち、沢山の車に、空を飛ぶ飛行船!

こんな景色は今まで見たことないよ。

うるさいくらい賑やかで、活気にあふれて、何もかも眩しい。

街のあちこちに生えている木々も、人の手で植樹されたものばかりだ。

整えられた花壇に花が咲いているけれど、虫の姿はあまりない。

綺麗な街だな。

でも、何となく物足りなく感じる。

立ち尽くしていたら手を握られた。

見上げたセレスがこっちを見ながらクスクス笑う。


「可愛い」

「えッ」

「あ、いや、ここからは手を繋ごう、ハルちゃんはこういうところにあまり慣れていないだろ?」

「うッ、うん」

「迷子になるといけないからな、こうしていれば安心だ」


少し恥ずかしい。

でも、慣れてないのは本当だし、セレスの申し出も有難いから、手を繋いでおこう。

フンと鼻を鳴らしたロゼがセレスをじろりと睨む。

そのロゼの背中をポンポン叩いて、リューが「さて、おすすめの宿に案内してもらえるか?」ってセレスに話しかけた。


「はい、こちらです、行こうハルちゃん」

「うん!」


反対側の腕に「はーる」ってモコが抱きついてきた。

ちょっと歩きづらいけど、まあいいか。


「ねーはる、すごいね、ひと、いっぱい! あのいえ、おっきい!」

「え、あれ家なのかな?」

「家だよ、集合住宅ってやつだ、下の階は店舗になっているな、ほら、階ごとに窓が並んで見えるだろ」

「うん」

「アレの幾つかが一室の窓で、それぞれ人が住んでいたり、事務所になっていたりするんだ」

「そうなんだ」

「それからあっちが百貨店だよ、ハルちゃん」

「百貨店!」


あの、オーダーやチョコレートの専門店があるって聞いた、百貨店?

想像の何倍も大きい建物だ。

外壁に彫刻が施されて、金色に輝く像まで飾られている。上の方には大きな時計、凄い、凄すぎる。


「この辺りにあるほとんどは商業施設だな、住宅区はここから少し離れた場所にある」

「そうなんだ」

「駅に近い場所は住むにはあまり適さないからな、人が多くてうるさいし、土地の値も高い」

「どうして土地が高いの?」

「住む場所としては向いていないが、人が多いと商売向きだろ? 単純に来店する客数が増える」

「そういうことか」

「だが土地単価の高い場所は高級住宅地としても人気が出る、分かりやすく見栄を張れるからな、ドニッシスに邸宅を構えることは一定の資産を所有しているという誇示になる」

「自慢するの?」

「そういうこと」


それの何がいいんだろう。

理屈は理解できても、興味も共感も湧かない話だ。


「あ、セレス、あの人車輪に乗って走ってるよ!」

「あれは自転車だよ、ハルちゃん」

「ジテンシャ!」


ドニッシスの人ってバランス感覚に優れているんだろうか。

ちょっと面白そうだ、私も練習したら乗れるかな。


「あの百貨店近くのホテルが私のお勧めです、駅に近くて交通の便がいい、受付で車を呼ぶこともできます」

「ちょっと待て、そこは高いんじゃねえか?」


カイが唸った。

振り返ったセレスは「そうだが?」ってニヤリと笑い返す。


「アホかよ」

「お前は昨日臨時収入があっただろう?」

「おい、まさかの意趣返しか、いい性格してるじゃねえか」

「それ程でもないさ」

「くそったれ、お前らは構わねえのか?」


尋ねられてリューが苦笑する。


「ドニッシスへ向かう地点で、ある程度の出費は織り込み済みだったからな」

「マジか、くそ、宿なんて屋根があって寝られりゃどこでもいいだろうが」

「あのホテルの部屋は階によって料金が違うから、節約したいなら下層の部屋を取ればいいさ」

「バカにしやがって、ホンッと腹立つなお前!」


うーん、口を挟みづらい話題だ。

うちはリューがしっかりやり繰りしてくれるから、私も金に関して気にすることってあまり無いんだよね。

そういう意味でも兄さんには本当に感謝してる。


「まあ、足りなければ幾らか出そう」

「そういう恩は受けねえ」

「だがここへは着いたばかりで土地勘も薄い、ひとまずそのホテルに泊まって、改めて別の宿を探すのはどうだ?」

「そうね、そうしましょうよカイ、私、ホテルって泊まったことがないから興味あるわ」

「お前はそういうとこだよな、ったく」


一応、カイも納得してくれたみたい。

セレスに案内されて大勢が行き交う道を進んでいく。

―――その途中で、あの数字が刻印されたネックレスを下げた姿を何人も見かけた。

店頭で働いている殆どが奴隷だ。

荷物をたくさん持って人の後をついていく奴隷もいた、車を運転している奴隷、道端で掃除している奴隷、子供の世話をしている奴隷。

ドニッシスは今まで立ち寄った場所の中で一番奴隷が多いかもしれない。

街はこんなに華やかで、誰も楽しそうで、活気と笑顔に溢れているのに。


―――あれ?


隣でセレスも立ち止まる。

振り返ると兄さん達、カイとメルも足を止めて、辺りの様子を窺っている。

何だろう?

モコが「だれ?」と呟いた。


あの建物の影。

小さな影がちょろっと覗いて、すぐ引っ込む。


「いたな」

「あれだ、様子が気になる、行こう」


リューが先に向かう。

後を皆でついていく。

脇道に入り、ちょろちょろと見え隠れする影を追い続けると、不意に人気のない広い道に出る。


「ここは」


裏通り?

様子を窺っていると、あちこちから小さな姿が、一つ、二つ、三つ、四つ!

たくさんピョコピョコ飛び出した!

フワフワな体に服を着て、つぶらな瞳を向けながら鼻をヒコヒコ動かす。


「恩人様方プーイ!」

「ご足労いただき恐縮ですプイッ、改めまして、お初にお目にかかりますプイ、我らはモルモフ、ご覧のとおり妖精プイッ」

「お会いできて嬉しいプイ、ようこそドニッシスへ!」

「プーイプーイ! 歓迎いたしますプイ!」


ええと、なんだっけ?

モルモットかな、可愛くて賢いネズミの一種だ。

モルモフたちはそのモルモットに似ている、というか、多分モルモットだと思う。

ニャモニャやラヴィー、ワウルフたちよりひと回りくらい小さいけど、同じようにモフモフで柔らかそうだ。


「なんだって妖精がこんな街中に」

「―――それはの、こ奴らが我の営む商会の従業員じゃからよ!」


思いがけず響き渡った声に、驚いて振り返ると。

赤く、長い髪の毛が、炎のようにフワリとなびいた。


小柄な女の人だ。

真っ赤な髪、赤い瞳。

ニイッと笑った口元から白くて長い牙のような歯が覗く。


「よくぞ参られた! 我はずっとずっと、ずーっと待っておったんじゃぞ、ダーリン!」

「は?」


女の人が突然こっちへ駆けてきた!

両腕を大きく広げながら、満面の笑みで!


「はあああああんッ、ああッ、ダーリイイイイイイインンンンンッ!」


直前で踏み込んでバッと飛び上がる。

な、何、誰?


―――ロゼめがけて落ちていく!

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