試練の砂海 3
竜巻が起こる。
同時に無数の雷が落ちて、魔獣たちを切り裂き、貫く。
―――我ながらすごい。
今まで、オーダーでここまで出来たことはなかった。
きっとオルト様の加護のおかげだ。
唖然と見ていたら、不意に抱えられて空へ連れていかれた。
モコ?
気付いた私に「あぶないよ」って言う。危ないって、何が?
「庭が開くぞ!」
リューの大声が響く。
直後にセレス、カイ、そしてリューも、散り散りになって魔獣たちの間を縫うように駆け出していく。
メルは翼を羽ばたかせて舞い上がり、それぞれを襲おうとした魔獣たちは―――突然起こった砂の流れに巻き込まれて体勢を崩した。
「えッ」
流れる砂の中央に穴が開く。
数十メートルはありそうな大穴だ。
その穴へ向かって魔獣たちは流され、呑み込まれていく。
穴の中から何か覗いた。
飛び出してくる、大きな頭、鋭い牙を生やした、あれは、アリジゴク!
だけど、その姿は昆虫とトカゲ類の間のような、本で見た竜に似た形をしている。
目は無くて、顔の殆どが口、その口周辺で無数の触角が蠢く。
口の中にもびっしり生えた牙が並んで、詰め込んだ魔獣を一度にグシャッと咀嚼した。
顔の横から大きなハサミのついた前肢が現れる。
その前肢がザーッと砂の上を滑り、必死に抵抗する魔獣をまとめてさらっていく。
「ああっ!」
ロゼの声だ、何?
「昼食にする予定の! リューに腕を振るってもらうための食材を、貴様よくも!」
あッ、デグラブが入った砂の檻まで持っていかれる!
「許さん!」
ロゼは羽ばたきながら片腕を高く上げ、勢いよく振り下ろす。
同時に光がアリジゴクめがけてドンっと落ちた。
瞬間視界が真っ白に染まり、津波のように立ち上がった砂がザアッと流れる。
辺りに立ち込めた砂ぼこりが収まってくると―――焼け焦げた大きな跡だけ残されていた。
あれだけいた魔獣、勿論アリジゴクも、一匹も、どこにもいない。
「ししょー、すごい!」
モコ、大興奮してる。
兄さんってやっぱり規格外だ、あれも自作魔法かな。
凄かった。
雷みたいに見えたけど、圧縮した魔力を叩きつけたって感じがした。
「ハルちゃん!」
砂の上に降りるとセレスが駆け寄ってくる。
同時に「ロゼぇッ!」ってリューの声が響いた。
わッ、あれは久々にかなり怒ってるよ!
「怪我はないか? 大丈夫?」
「あ、うん、セレスの方が傷だらけだよ」
「これくらいどうってことないさ」
笑うセレスに治癒魔法を唱えて傷を癒す。
カイとメルは自分で唱えられるから大丈夫だね、モコも少し怪我しているから癒しておこう。
三人で兄さん達の方を見ると、揉めてる。
リューがカンカンだ。
「さっきのとんでもないのはなんだ! 俺たちまで巻き込まれでもしたらどうするつもりだ!」
「あり得ないよ、僕は決して君を傷つけたりしない」
「大体お前! デグラブばかりに気を取られやがって、そんなに飯の種が大切か!」
「リュー、その言葉は使い方が違う、それに僕はいずれアレが現れると分かっていたのさ、放っておいてもどのみち片は付いた」
「だったら! 教えておけ! 気付かず俺たちまで食われたかもしれないんだぞ!」
「君とハルなら大丈夫さ、このお兄ちゃんがついているからね、他の奴らは知らないが」
あ、グーで叩いた。
ロゼが「どうして叩く!」って頭を押さえてる、痛そう。
「師匠」
「セレス、平気だよ、いつものことだし」
「あ、ああ、そうだな―――しかしこれが『試練の砂海』と称される所以か」
そうだね。
あの大きさの魔獣に囲まれたのも初めてだけど、最後に全部を呑み込んだアリジゴク。
砂漠にはまだたくさんいるんだ、気が抜けないな。
辺りを見渡すと、クロとミドリも無事だ。
呼んだら戻ってきて顔をペロペロ嘗め回される。くすぐったいよ。
沢山褒めて、水をたっぷり飲ませてあげた。
私も、セレスとモコと水筒の水を回し飲みする。
その間にカイとメルが来て、遅れてリューと、ロゼもしょんぼりしながら歩いてきた。
「無事だな、早速とんでもない目に遭ったな」
「この先も用心して進まないといけませんね」
「そうだな、ロゼ、警戒頼む、次はもっと早く教えてくれ」
「僕でなくとも、未熟者にでもやらせたらいい、それは目が利く」
リューがモコを見て「頼めるか?」って訊く。
モコは「いーよ」と両手を上げてピョンピョン跳ねる。
「でもぼく、みえるけど、けはい、ちょっとわかんないかも」
「なら俺が補佐してやるぜ、お前も手伝え」
「ああ、分かった」
カイとセレスも手伝うんだね。
三人とも頼もしいな。
「はあ、昼の楽しみを奪われ、おまけに可愛い弟からは理不尽に殴られて、僕はもう何もやる気が湧かない」
ロゼ、元気ないな。
確かに私もデグラブを食べてみたかった。
「お前なあ」
呆れ顔のリューもやっぱり少し気になるみたいだ。
―――あ、そうだ、閃いたよ!
「ねえロゼ兄さん」
「なんだい、僕の可愛いハル」
「少しだけお願い聞いてもらえるかな?」
「いいとも」って頷いてくれたロゼに頼んで、空へ運んでもらう。
香炉を取り出し、ゆっくり揺らしながら「フルーベリーソ、咲いて広がれ、おいで、おいで、私の声に応えておくれ」とオーダーを唱えた。
海底白樹の香りに惹かれて現れたのは、水の精霊アクエ。
砂漠に来てくれて有難う、アクエは輝く尾を引きながら周りをくるくる飛び回って、私の鼻の頭にツンっと触れた。
「アクエ、あの辺りの砂を湿らせて欲しいんだ、お願いできるかな?」
チカチカと瞬いたアクエは、砂漠に大きな池を作ってくれる。
その水が砂にぐんぐんと吸い込まれていく間に、辺りからデグラブが湧いて集まってきた!
「デグラブだ!」
「よし、捕まえるぞッ」
「俺に任せろ!」
カイが湿った砂に片手をついて、一瞬で凍り付かせる。
突然の冷気に襲われて動きの鈍ったデグラブを、リューとセレスが次々殴って気絶させていく。
「ロゼ兄さん、ほら、大量だよ!」
「ハルッ、なんてことだ、ああッ、僕の妹がこんなにも愛しい!」
ふふ、そんなに頬ずりしないで、くすぐったいよ。
大喜びのロゼは私を抱えてリューの傍へ降りる。
振り返ったリューは、笑って頭を撫でてくれた。
「やったな、お前の食い意地も大したもんだ」
「えへへ、私も食べてみたかったんだ」
捕まえたデグラブを縛り上げながら、セレスがその習性を教えてくれる。
水に惹かれるんだって。
知らなかった、でも、もしかしてって試してよかったよ。
ロゼが軽く地面を踏みつけると、そこから大きな岩が生えた。
影に入ると少し涼しい。
魔物もいなくなったし、ここで暫く休めそうだ。
「では、早速昼食にしようか!」
クロとミドリも岩の傍に座り込んで寛ぎ始める。
「やれやれ、だったらまずは火の準備だ、ロゼ、任せるぞ」
「いいとも!」
「ハルは俺を手伝ってくれ、セレスと、カイも手を貸してくれると助かる」
「はい!」
「構わねえが、何すりゃいいんだ?」
二人にデグラブを捌いて欲しいと頼んで、メルには水の用意をお願いする。
モコは、リューを手伝う私の、更に手伝いだ。
「鮮度がいいから刺身でいけるだろう、軽く湯通ししてタレで食べよう」
「身に香草を挟んで焼いても美味しそうだね」
「煮込んで鍋も作るぞ、蒸し焼きも作る、こうなったらカニ尽くしだ」
「やった!」
「わーい、ぼくいっぱいたべるー!」
リューを手伝う私のすぐ近くで、デグラブの関節を切り離しながらカイがぼやく。
「ハルも大概だが、あの兄貴も相当だな」
「そうか?」
「俺はラタミルをぶん殴る奴を初めて見た、実はアイツが一番ヤバいかもしれねえ」
「ハハッ、あれはリュゲルさんの手荒い愛情表現さ、お二人は深く信頼し合っておられるからな」
「はぁ、そういやお前もアホだったか」
「なんだと!」
水を用意してくれたメルがクスクス笑ってる。
すごく大変だったけど、これはそのご褒美だね。
砂漠の旅は想像以上に困難だ、きっとまた同じような目に遭う。
だからこそ、こういう楽しみはしっかり味わわないと。
よーし、私もたくさん食べるぞ!




