表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
214/555

試練の砂海 2

翌日の早朝。

いよいよ砂漠だ、果てが見えないほど広いこの砂の海を渡って行くんだ。

一歩踏み出すたび足を砂に取られて歩きづらい。

そして、遮るものが何もない空から強い日差しが燦々と降り注いでくる。


「暑い」


日焼けと防塵対策で頭から布を巻いて目元だけ出しているけど、内側に熱がこもって暑いし息苦しい。

リューとセレス、カイも、私と同じようにしている。

ロゼとモコとメルは普段通りのままだ、いいな、日焼けや暑さ対策をしなくても平気なんて。

本当にラタミルが羨ましいよ。


「ふむ」


ロゼが不意に足を止める。


「来るぞ、どうやら様子見は終わりのようだ」


そう呟いた直後、辺りの砂から数えきれないほどのカニが湧きだした!


「うわぁッ、こ、こいつらもしやッ」

「デグラブか、そうだな、ロゼ!」

「ああ、早速お出ましだ、今日の昼は期待するとしよう」

「それなら捕まえるのを手伝えッ」

「ああ勿論、任せるといい!」


「おい!」今度はカイが叫ぶ。


「サンバイソンだッ、くそ、ブラグザードまでいるぞ!」

「あら、団体様でお越しなの? 嫌ね!」


今度は砂の中からずるりと鎌首をもたげる大きなヘビ!

そして体じゅうから棘を生やした、こっちも巨体を誇るトカゲは、全身が黒光りする硬そうな鱗で覆われている。


「先手必勝だッ、うおおおおッ」


セレスが大剣を携えて駆け出していく。


「ハル、お前は下がって援護だ!」

「はい兄さん!」


素早く迫るサンバイソンの牙をセレスの剣が砕く。

その脇から顎の付け根辺りを狙ってカイが槍の穂を繰り出した!

ブラグザードの鼻面をリューの剣が切り裂き、その背中へメルが何本も矢を打ち込む。


私は詠唱!

寄ってきたもう一匹のサンバイソンをモコが「がらしえ・ぺんとらーれ・はーさー!」と無詠唱で呼び出した氷の槍で貫く!

―――ロゼから教わったばかりのアレを試してみよう。

「火の精霊よ、我が希う声に応じて来たれ、汝の力をもって我が欲する望みを叶えよ!」

エレメントの詠唱、ここまではいつも通り、だけど。

―――感覚を繋げて、呼び出した精霊と魔力を共鳴させて周囲へ広げていく、対象はここにいる全員!

「ディクチャー・イグニ・コンペトラ・ストウム!」

炎の精霊イグニの加護が私を中心に皆へ行き渡る。

や、やった、複数対象への効果拡大、本当に出来た!


「ハル!」


振り返るとロゼが目をキラキラさせてこっちを見ている。


「素晴らしい! 成長し続ける君の美しさに僕は感嘆するばかりだ! よくできたね、見事だったよ!」

「おいロゼッ、ハルの気を散らさせるな! それとお前ももう少し手を貸せッ」


全員に、炎の精霊イグニが加護を与えてくれた。

攻撃されると炎で反撃するエレメントだ。


「す、すごい、ハルちゃん!」

「お前も気を取られてんなアホッ、だが効果の範囲拡大? とんでもねえぞ、おいハルッ、重ね掛けはできるか!」

「やッ、やってみる!」


もう一度同じエレメント?

ううん、違うよね、相性を考えるならこれだ!


「風の精霊よ、我が希う声に応じて来たれ、汝の力をもって我が欲する望みを叶えよッ」


足元に集まってきたデグラブをモコが次々踏み潰す。

それを見てロゼが「カニは捕らえろ、後の馳走だ!」なんて言う。兄さん気が抜けるよ。


「バカッ、ハルの気を散らすなと言っているだろう! 後で覚えていろ、ロゼ!」

「半人前が気を利かせないからだ、あれは僕らの昼食だろう!」

「ししょーっ、ぼく、はるまもるよッ」

「当たり前だ、その上で踏み潰すなと言っている、これしき出来て当然だろう!」

「ううっ、ししょーのいじわるっ」


あまりモコに無茶を言わないであげて。

よし、行くぞッ!


「ディクチャー・ヴェンティ・デリュース・コンペトラ!」


今度は風の精霊ヴェンティの反撃が付与された防護のエレメント。

炎と風、二つの属性の重ね掛けで、攻撃してくる魔獣は炎を孕んだ風の刃に切り裂かれる。


「素晴らしい!」


またロゼに褒められて嬉しいけど、今は戦いの最中、気を引き締めないと!

巨大な魔獣たちが暴れまわるせいで、辺りは濛々と砂煙が立ち込める。

それをロゼが羽ばたいて吹き飛ばしてくれる。

すぐ傍に砂で出来た檻みたいなものがあって、中にデグラブがたくさん入っているけど、まさかあれ全部食べるつもりなのかな。

モコも頑張ってなるべくデグラブを潰さないように、ハサミや足をもいで動けないようにだけしている。

もう、兄さんは。

私も後でリューと一緒にちょっと怒っておこう。


向こうでクロとミドリも戦っている。

二頭も騎獣だから自分の身を護るくらいはできる。それでも捌ききれない魔獣はロゼが倒してくれているみたい。


不意に、また見たことのない魔獣が砂の間から現れた。

黒光りする大きな甲虫と、砂漠の保護色をした昆虫。甲虫の方は確か図鑑に載っていた、鋼より硬い外殻を持つダイグラベだ!


「おいッ、砂色の魔獣はメアルビーだッ、ケツから高温のガスを吹くぞ!」


カイが叫ぶ間にメアルビーがリューにガスを吹きつける!


「兄さんッ」


間際で躱したリューは、剣を鞘に戻して突っ込んできたダイグラベに殴りかかり、その間にカイがメアルビーの頭の関節辺りを狙って槍の穂を打ち込む!

そこへ襲い掛かるサンバイソンの首をセレスが切り飛ばした直後、背後で大きく口を開いたブラグザードの口腔内へメルが無数に矢を射った。

殺到するブラグザードをセレスが剣で薙ぎ払う!

巨体をうねらせるサンバイソンにメルが放った矢が刺さり、カイが槍で喉を突いて血飛沫を迸らせた!


「はるっ」


モコは傍でずっと私を守ってくれている。

思いがけない身のこなしで体術を繰っているけど、いつの間に覚えたの?

きっとロゼから教わったんだろう。

そのロゼは、空で羽ばたきながら戦況を伺い、時々少しだけ手助けしてくれる。


「風の精霊よ、我が希う声に応じて来たれ、汝の力をもって我が欲する望みを叶えよ!」

私も詠唱! そして唱える!

「ヴェンティ・フィン・ルーフェム!」

風の刃よ、敵を切り裂け!

砂を孕んで巻き起こった風が近くにいる魔獣全てを切り裂く!

うっ、痛!

目に砂が入った。

ギュッと瞼を瞑った直後、誰かに抱えられ運ばれる。


「ハルちゃんッ」


セレス?

うっすら開いた視界にセレスが映る。


「大丈夫か?」

「目に砂が入った」

「そうか、痛むか?」

「ちょっとだけ、でも平気、よくなってきた」

「よしッ」


もしかして魔獣の攻撃から助けてくれたのかな?

セレスは辺りを見渡して「しかしキリがないな」と呟く。


「どんどん増えているぞ、騒ぎを聞きつけて集まってきたのか」

「セレス」

「心配いらない、君だけは何があっても私が守る!」


セレスはまた魔獣へ斬りかかっていく。

空でロゼは様子を見ているだけだし、皆大変そうだ。


私も、頼ってばかりじゃいられないよね!


「フルーベリーソ、咲いて広がれ、おいで、おいで、私の声に応えておくれ!」


取り出した香炉を揺らしながら唱える。

この砂の海で応えてくれる精霊は―――来てくれた!

風の精霊ヴェンティと、雷の精霊トートス!


「風よ吹け! 雷よ轟け!」


両手を掲げて叫ぶ。

私の周りでゴウゴウと風が渦を巻き、雷光がバチバチと弾け飛ぶ。

内側で膨らんだ魔力で息が苦しいくらい、よしッ、行くぞ!


「ヴェンティ! トートス! ここにいる全ての魔獣に制裁を!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ