表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
210/555

西へ(前)

※今回長くなり過ぎたので、前、後篇に分けています。

「ハル!」

「ハルちゃん!」


ロゼに抱えられて戻ると、リューとセレスが慌てて声をかけてきた。

小鳥の姿のモコも私の胸の辺りにとまって「はるぅ」って心配そうに覗き込んでくる。ごめんね、大丈夫だよ。


「お前、さっきポータスを咲かせたな」

「うん」

「君ってやっぱりすごいな、花が降ったら街の人たちの表情が少し明るくなったんだ、ほら!」


セレスの言うとおり、さっきより少しだけ辺りが活気づいたように感じる。

力になれたなら嬉しいよ。


「けど、皆オルト様に感謝を捧げているよ」

「それでもいい、元気になってくれたなら、それで十分」

「ハルちゃん」


リューが「彼らにポータスは見えていないようだ、俺たちには見えたが」と教えてくれる。


「知らないからなのかな?」

「恐らくはそうだろうね、エノアから賜った花だ、神の力に触れた者でなければ認識できないのだろう」


そういうものか。

不意に大きな手で頭を撫でられて、リューに「あまり無茶をしてくれるな」って心配される。


「ごめんなさい」

「謝らなくていいが、自分を大切にしてくれ」

「うん」


でも、誰かのためにって無茶をするのは、リューだって同じだよ。

リューにも自分を大事にして欲しい。

だけどそんなリューを、誰かのために戦える兄さん達を、私は誇らしく思う。


ロゼから受け取った私をミドリの鞍に乗せて、リューも後ろに跨る。

クロの鞍にはロゼと、後ろにセレス。

カイとメルはどうするんだろう。


「ここから俺達は別行動だ」

「えッ」

「お前達と一緒だと目立つからな、悪いが、こっちは別の経路で砂漠へ向かう」

「砂漠の手前に町があるの、そこで落ち合いましょう」

「先に着いた方が連絡をよこす、それでいいか?」

「ああ、分かった」


リューが頷く。

そうだね、私達と一緒だと、カイとメルを余計な騒動に巻き込むかもしれない。

だけどまた暫く会えないんだ、寂しいな。


「おいハル」


呼ばれて、カイが何か投げてきた。

慌てて受け取ると「やる」って言われる。


「綺麗」


巻いた形の小さな貝だ、青くてキラキラしている。

この青、カイの目と同じ色、あの青い海の色だ。


「耳にあててみろ」

「え?」


貝を耳にそっと近づけると、何か聞こえる。

波の音?


「その道具は、叩きつけて割ると一度だけ、どこでも津波が起こせる」

「津波?」

「ハーヴィーが数年かけて作る道具だ、いざって時に使え」

「こんな貴重な物を貰ってもいいの?」

「やるって言っただろ、じゃあな」


背中を向けて歩きだすカイに「有難う!」って礼を伝える。

そのまま手だけ振り返すカイの隣で、メルが肩越しに「またね」とにっこり笑った。

うん、またね。

砂漠の手前の町、そこでまたカイとメルに会える。

ここでお別れじゃないんだ、嬉しいな。

二人を見送って、手綱を揺らし、ミドリを歩き始めさせたリューにも貝の音を聞かせてあげる。


「不思議だな、中に彼の魔力が詰まっているのか」

「そんな感じがするね」

「いいものを貰ったな、ハル」

「えへへ」


ミドリの背中に揺られながら、遠く離れていくディシメアーの街を見る。

ここにもきっといつかまた来よう。

今度はたくさん泳いで、皆と会って、楽しい思い出をたくさん作ろう。

ヴァニレーク、バニクード、神殿の神官たち、サロキン、そして、オルト様。

―――見守っていてください、カルーパ様。

貴方に花を贈りに、またこの海に来ます。


私達はこれから西へ向かう。

商業連合にいる、カイの妹ルルを助け出すために。


「ここから砂漠の手前辺りまで、およそひと月ほどの距離だ、砂漠自体を越えるのに大体一週間強、十日前後といったところか」

「遠いんだね」

「それなりにな、砂漠を越えるとヴァーリーバレーという深い谷があって、その辺りから商業連合国内だ、国境は谷の少し先にある」

「砂漠はベティアスの国土なの?」

「いや、砂漠はベティアスにも商業連合にも属さない、魔物がはびこる不毛の地で、エルグラート内における魔境だ」


そんな恐ろしい場所だから、誰も遠回りしてでも安全な道を選ぶんだ。


「だが敢えて砂漠を征く者たちもいる」

「どうして?」

「自己研鑽、力試し、魔物を狩るため、色々だな、砂漠は周囲を海と深い谷、そして岩山に囲まれている、その様子をして『試練の砂海』と呼ばれることもある」

「今度は砂の海か」


また海、でも今度の海は少し怖くて不安だ。

どこまでも広がる砂の景色って、あのディシメアーの海全部を砂にした感じなのかな。上手く想像できない。


「ところでハル、砂漠にはデグラブってカニに似た魔獣がいるそうなんだが、そいつの肉は美味いらしい」

「そうなの?」

「その話は僕も以前聞いたよ、是非味わってみたいものだ」

「ぼく、かにもすき! でぐらぶたべたい!」

「ははッ、モコちゃんは相変わらず食いしん坊だな」


デグラブの肉か。

私も気になる、砂漠に少しだけ楽しみが出来た、リューのおかげだ。


それから砂漠まで、また野宿の日々が始まった。

ベルテナを警戒しているのもあるけど、宿にのんびり泊っていられないって理由の方が大きい。

遅れたら、きっとカイは待たない。

約束したんだ、ルルを助けるって。ようやく恩返しできるんだ。


移動中、たまに海を見かけると、少しだけ切なくなる。

ベティアスに来て色々なことがあったな。

最初に立ち寄ってレースに参加したシーリク、リーサとシアンと友達になった獣人特区オニックス、そしてカルーパ様が命懸けで守ったディシメアー

ほんの数か月の間の出来事なのに、なんだか懐かしい。

商業連合はどんなところなんだろう。

また、誰かと知り合って、友達になったり、敵対したりすることもあるのかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ