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繁華街の騒動

すっかり夜になって、リューが作ってくれた夕食を食べて、お湯を頂いて体を綺麗にしてから、セレスと一緒のベッドに潜り込んだ。


「す、少し狭いか?」

「平気だよ」

「こうして君と一緒のベッドで眠るのは久々だな」

「そうだね、ふふッ」

「なんだい?」


セレスにくっついて、肩口に顔を埋める。

柔らかくていい匂い。

フフ、落ち着くな。


「は、ハルちゃん?」

「ねえセレス、ここへ来てから、いつも波の音が聞こえるね」

「そっ、そうだな」

「なんだか不思議、窓のすぐ外は海で、海はずっとずーっと広くて、渡った先は外国なんだよね」

「そうだな」

「いつか一緒に行こうね」

「ああ」

「ぼくもいっしょ、ぼくもはるとせれすと、がいこくいく!」


小鳥の姿のモコが羽を摺り寄せてくる。

そうだね、モコも一緒に行こうね。

今日乗った海賊船よりもっと大きな船に乗って、海を越えて、全然知らない場所へ行くんだ。

それってなんだか夢みたい。

段々眠くなってくる。


「おやすみ、セレス」

「おやすみハルちゃん、また明日」

「はる、せれす、おやすみ」


また聞こえる、波の音だ。

明日も晴れるかな。

海へ行って、オルト様を目覚めさせる方法を探さないと。

カルーパ様が、ヴァニレークやラビクードたちが、海を大切に想う皆が待っているから―――


――――――――――

―――――

―――


翌朝。

今日も空も海も青い、開いた窓から心地いい潮風が吹き込んでくる。

身支度を済ませて、兄さん達のところへ行って、厨房兼食堂で神官たちと一緒に朝食をとった。

今朝の献立は海鮮たっぷりの酸っぱくて辛いスープと、蒸らしたイモを練って作ったモチモチのパン、甘く煮た豆に、新鮮な果物。

皆で手伝って作ったけど、モチモチのパンは私とセレス、モコの自信作だ。

リューもロゼも美味しいって褒めてくれた。


食事が済んで、ロゼが小鳥の姿のモコを片手でギュッと捕まえる。

驚いて「ピイッ」と鳴いたモコに、お構いなしに「夕方頃まで出かけてくる、何かあったら僕を呼ぶんだよ」って、そのままどこかへ行ってしまった。

リューもロゼがどこへ行くか聞いてないらしい、モコ、大丈夫かな。


そして私はリューに―――今日は海へ近付かないよう言われた。

オルト様を目覚めさせる方法を探そうと思っていたけど、それはリューがするって、ついでに他の調べものもあるらしい。


「もっと情報が欲しい、調べている間にお前に何かあったら困る」

「でも兄さん」

「せっかくディシメアーまで来たんだ、泳ぎを教えてやれないのはすまないが、セレスと一緒に街を観光してくるといい」

「いいの?」

「ああ、今日くらいはゆっくり過ごしたって問題ないさ、セレス、ハルを頼むぞ」

「はい、お任せください!」


リューも出掛けたから、それならってセレスと繁華街へ行くことにした。

観光できるのは嬉しいけれど、本当にいいのかな。

なんだか後ろめたい、私にはやらなくちゃならないことがあるのに。


「ハルちゃん、今日だけは気にせず楽しもう、リュゲルさんの仰るとおりせっかくディシメアーに来たんだ、まだ見てないものが沢山あるだろ?」

「うん」

「今日は私が案内しよう、繁華街の方にも面白い場所や店が沢山あるぞ、さあ行こう!」


寝泊まりしている建物を出て、まずはオルト様の神殿でご挨拶に祈りを捧げる。

ここへ来てから毎日こうして祈っているけど、眠っているオルト様に届いているかな。


神殿から潮風が吹く海沿いの道を歩いて、街の反対側にある繁華街へ。

途中でガナフがまた演説していた。

この人の話を聞くとうんざりする、でも繁華街が近づくと他の色々な音に紛れて声は聞こえなくなった。差別まみれの演説より、街の雑踏の音の方がよっぽどいいよ。

今日も朝から賑わってるな、人も沢山、活気があって居るだけで楽しくなってくる。


「前に湯を使わせてくれる施設があるって話したの覚えてる?」

「うん」

「実はそこに大きな風呂があるんだ、温泉じゃないが気持ちいいよ」

「えッ」

「この辺を少し歩いて、後でそこへ行くのはどうかな?」

「行きたい、行こう!」

「よし! そこの風呂は混浴だから湯に浸かるには水着の着用が必須なんだ」

「えっ、でも私、水着なんて持ってこなかったよ」

「大丈夫、私が持ってる」


セレス、荷物が多いと思っていたけど、そうだったのか。

楽しみができてもっとワクワクしてきた。

そうだよね、せっかくだし楽しまないとだよね!


「まずは何から見ようか、あっ、ハルちゃんあの店、店頭に可愛い小物が並んでるぞ!」

「本当だ、すごく可愛い、行こうセレス!」

「ああ!」


二人で繁華街のあちこちの店を見て回る。

小物、服、家具や雑貨を扱うお洒落な店。

残念ながらオーダーの専門店はなかったけど、ハーブをたくさん扱っている店を見つけた。

香辛料も種類が豊富だ、リューにお土産を買おうかな。

ポーションもある、ピアポーション八千七百ラピ、ルプスポーション二万ラピ、こんな値段で売られているんだ。


「ここは宝石店だな」


セレスと一緒に入ったその店は、ガラスケースの中にたくさんの宝飾品が並べられていた。

どれも綺麗な石ばかり、珍しい石もある。


「あっ、この石、セレスの目と同じ色だよ」

「そうだな、こっちの石はハルちゃんの目の色と同じだ」

「これはリュー兄さんの目の色だね、こっちは夜のロゼ兄さん」

「美しい赤だ、心を奪われるよ」


モコの目と同じ空色の石もある。

それからこれは、カイの目の色と同じ青い石。


「どれも綺麗だね」

「そうだな、ハルちゃんはどの石が一番気に入った?」

「私は、ええと、これかな」


白くて艶々した丸い石。

これって石なの?

セレスと一緒に見ていたら、店員が「そちら、真珠ですね」って教えてくれた。


「真珠って、確か貝の中で作られる石だよね?」

「ああ、そうだよ」

「真っ白くて綺麗、他の石は森でも見たことあるけど、これだけは初めて見る」

「これが気に入ったのか」

「うん」

「そうか、憶えておくよ」

「え?」


そろそろ店を出ようって、セレスに誘われてまた通りへ戻る。

いつの間にか随分陽が高い、もう昼だね。


「食事はどうしようか、よければおすすめの店が―――」

「よう、そこのキミたち!」

「なーにしてんの? ねえねえ、ちょうど昼だし、オレたちとメシでも食いにいかない?」


知らない男の人達が声を掛けてきた。

なんだか、ちょっと嫌だな。

ニヤニヤして私とセレスを遠慮なくジロジロと見る。


「奢ってあげるからさ、ついてきなよ」

「オレらいい店知ってんだ、あっ大丈夫大丈夫、一緒にメシ食うだけだから」

「うおっ、こっちの子胸デケぇ、やっべ美味そッ」

「こっちも可愛い顔してるぜ、お嬢様って感じ」

「なに? 旅行? 二人でディシメアーに来たの?」

「お話ししようぜ、どこ泊ってんの?」

「うっはケツもデケぇ、いいケツしてんぜ」

「オイこら、怖がらせちゃダメだろ、ごめんねぇ今のジョーダンだから、それより早く行こうぜ、なッ?」

「ほらほらっ、なにボンヤリしてんの、歩いて歩いて!」


私に触ろうとした男の人の手を、セレスがパンと叩き落す。

驚いた男の人は急に怖い目付きでセレスを睨んだ。


「なにすんの、今の、痛かったよ?」

「美人で気ぃ強いなんてタイプゥ~ッ、泣かせてぇ~ッ」

「なあ、怖いの嫌だろ? 大人しくついてこいよ」


凄む男の人に、セレスも「三下が、出直せよ」と睨み返す。


「おい、このアマ!」

「ッざけてんじゃねえぞ、調子のりやがって!」


勢いよく振り下ろされた拳を、セレスは私を背中に庇いつつ片手で受け止めた。

そのまま腕をひねって男の人を投げ飛ばし、反対側から掴みかかってきた男の人の顔面を殴りつけると、襲ってきたもう一人も蹴り倒す。

すごい、セレスはほとんど動いてないのに、足元には三人の男の人達が転がって呻いている。


「痛ッ」

「おいアンタ、連れがどうなってもいいのか?」


しまった、気付かなかった。

いつの間にか傍に来ていた男の人に腕捩じりあげられた。

痛いッ、でも、私だって戦える。

詠唱無しのエレメントなら大丈夫だよね、でも威力を押さえるようにしないと、唱えるのは何がいいかな、風の精霊ヴェンティ辺りが―――


「ハルちゃん!」


セレスが私を捕まえている男の人につかみかかろうとした直後、男の人は別の誰かに殴られて倒れた。


「誰だてめぇッ」


怒鳴ったあと一人のみぞおちにセレスが拳をめり込ませて、その人はゲェゲェ吐きながらうずくまる。

殴られて倒れた男の人の巻き添えになりかけた私を助けてくれたのは、カイだ!


「お前ら何してる」

「見たままだ、可愛いから身の程知らずどもにナンパされていたんだよ!」

「はぁ、自分で言ってりゃ世話ねえな、おい逃げるぞ」

「なんでッ」


カイが「ん」と指した方、いつの間にか周りに人だかりができている。


「誰か通報したんだろ、治安部の奴らが来るぞ、こんな奴らの巻き添え喰らって面倒事なんてご免だろ」

「そうだな、ハルちゃん、大丈夫か?」

「うん」

「行くぞ、こっちだ、ついてこい」


さっさと歩きだすカイの姿をセレスと一緒に追いかける。

昨日、あんな形で別れたからずっと気になっていたんだ―――また会えてよかったって、少しホッとした。

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