賑やかな浜辺
「そうだハルちゃん、昨日の浜へ行こう」
不意にセレスが言う。
昨日の浜って、もしかしてカイが連れていってくれた、あの禁足地?
「ここから離れているし、人も来ないって話だ、都合いいだろ」
「でも、いいのかな?」
「なんだ、どこかにいい浜辺があるのか」
リューとロゼに説明する。
ロゼはハハっと笑って「なるほど、それは都合がいい、ではそこへ行こう」って歩き出した。
「こちらです、師匠」
「おいいいのか、禁足地なんかで騒いだら、地元の人が様子を見に来るんじゃないか」
「その辺りは僕がどうとでもできる、心配いらないよ、これでハルにゆっくり泳ぎを教えられそうだ」
「お前なあ」
「流石です師匠、尊敬します!」
うーん、いつもながらのロゼだ。
でも兄さん達が一緒ならラヴィー族も現れないだろうし、いいや、気にしないでおこう。
カイも入っていいって言ってたからね。
浜に着いて、モコがポフッと人の姿になる。
さっきの場所からこの浜まで結構距離があって、流石に演説の声も聞こえてこない。
兄さん達はさっさと服を脱ぎ始めた。服の下に水着を着てきたんだ。
「ハル、君は少し待ちなさい」
そう言ってロゼが地面を数回踏み鳴らすと、岩が生えて小さな小部屋ができた。
「この中で着替えるといい、不届き者は僕が見張っておこう」
「ありがとうロゼ兄さん」
「なんの、さ、お入り」
セレスも一緒にって手を取ったら、セレスは大慌てして「大丈夫だからハルちゃん!」っていきなり服を脱いだ。
セレスも下に水着を着てきたんだ。
私も着てくればよかった。
「ほらッ、大丈夫、だからモコちゃんと二人で着替えてくるといいよ!」
「分かった、モコ、水着に着替えようね」
「はーい」
石の小部屋で、服を脱いで水着に着替える。
結構肌が出るな、少し恥ずかしいけど、でも、新鮮で楽しい。
水着を着たモコの髪を簡単に結ってあげた。
モコ、すごく可愛い。水着がよく似合ってる。
「はる、ぼく、きれい?」
「うん、綺麗だしすっごく可愛いよ」
「やったー! はるもきれい、はるもかわい!」
「有難う、モコ」
石の小部屋を出る。
外で待っていた兄さん達と、セレスが振り返った。
「どうかな?」
昨日選んでもらった花柄の水着、ワンピース型で裾がスカートみたいにヒラヒラしている。
肩にフリル、胸元にはリボン、もうちょっと胸があれば格好良かったのかもしれないけど、でも、我ながら悪くないと思う。
ロゼは、昨日リューが選んだ青いビキニパンツ姿。
改めてすごい筋肉、肌は白くて傷一つない、まるで彫像みたいだ。やっぱり綺麗だな。
長い髪を一つに結んでいるだけだから、後で三つ編みにしてあげよう。その方が邪魔にならないよね。
リューは黒い水着、ひざ丈のズボンって感じで、あまり水着には見えない。
でも似合っていて格好いい。
目を細くして私を見て、ニッコリ笑ってくれた。褒められたみたいで嬉しい。
それからセレス、やっぱり可愛い!
胸が大きくて、腰はくびれていて、お尻は引き締まっているから、ビキニがすごくよく似合ってる!
同じ柄なのに私よりずっと大人っぽくて色っぽい。いいなあ、羨ましいな。
セレスっておへその形も綺麗なんだよね。
いつもは高い位置で一つに括っているだけの長い髪を、今はくるっと結い上げている。
うなじも綺麗、私も髪を結っておこうかな。
「は、ハルちゃんッ」
「おお、ハル、なんて愛らしい、水着もとても似合っているよ!」
「そうだな、いいじゃないか、可愛いぞ、ハル」
「女神だ、なんて可憐なんだッ―――はうッ」
「ありがと、ねえ見て、モコも可愛いでしょ?」
ニコニコするモコに、リューが頷いて「モコも綺麗だよ、ハルとお揃いの水着だな、よく似合ってる」って声を掛ける。
「ああ、モコちゃんもなんて可愛らしいッ、まさしく浜辺の女神たちッ」
「セレスも水着、似合ってるよ」
「ぐあッ、そッ、そうかな、でもハルちゃんの方がずっと可愛いし最高に可愛い、本当、すごく可愛い、可憐すぎる女神だ、最高だよッ」
「う、うん、有難う」
大丈夫かなセレス、いつもより様子がおかしい。
そんなセレスを睨んでいるロゼに、髪結ぼうかって声を掛ける。
「僕の髪を結ってくれるのかい? 嬉しいな、お願いするよ」
ロゼは砂の上に腰を下ろす。
私も砂に膝をついて髪を三つ編みに編んでいく。
その間にリューがモコとセレスを呼んで、三人は早速波打ち際で足を水に浸し始めた。
「きゃーっ、りゅー、せれす、つめたいよ、うみ、つめたい!」
「ハハッ、そのうち平気になるよモコちゃん、まずは少しずつ体を水に慣らすんだ」
「ああ、何にでも手順ってものがある、まずは感覚から掴んでいくぞ」
「はーい、よろしくおねがいします、りゅー、せれす」
楽しそう。
私もロゼの髪を編み終わった、よし、いよいよ海に入るぞ!
「リュー兄さん、セレス、モコ!」
砂浜を駆ける。
目の前はもう海だ!
「来たなハル」
「ハルちゃん!」
「はるぅ!」
私も水に飛び込んだ。
うわッ、冷たい、それに本当にしょっぱい!
「すごいね、海だ!」
「ああ、そうだな、海だ」
「ハルちゃん、どうだ、気持ちいい?」
「うんッ、すっごく気持ちいい、楽しい!」
「ハハッ、私も楽しいよ!」
「ぼくもーっ」
波が引くたび、足の下の砂が攫われて変な感じ!
水の中ってやっぱり動きにくいけど、服を着たまま入るより、水着はずっと動きやすいな。
川では溺れかけたし、あんなのはもう二度と体験したくないよ。
「ねえ、泳ぎを教えて」
「いいぞ」
「じゃあハルちゃん、私が」
「僕が教えよう、ハル、おいで」
どうしよう、誰から教わろう。
迷っていたら、リューがふっと息を吐いて、ロゼとセレスに言う。
「俺が審判をしてやるから、お前達は泳いで勝負しろ、勝った方がハルに泳ぎを教える」
「え、えッ」
「何故僕がこいつと勝負しなければならない」
「ハルが困ってるだろ、いいからやるぞ、あそこに見える岩、甲羅岩っていうらしいな、そこまで泳いで戻ってこい、先に浜に着いた方が勝ちだ」
「おいリュー、僕はやらないぞ」
「ならお前の負けだな」
「なッ」
「セレスはどうする? 棄権するならお前達二人とも負けだ、俺がハルに泳ぎを教える」
「くッ、リュー、君ってやつは!」
「分かりました、リュゲルさん、師匠と勝負します!」
「よし、じゃあ二人とも浜へ上がれ」
リューは浜に上がって、近くに落ちていた棒で砂の上に線を引くと、手前にロゼとセレスを並ばせる。
そして片手に握った棒を高く掲げた。
「よーい」
「師匠、また勝たせてもらいます、これだけは絶対に引けません」
「自惚れるな、あの時はリューがハルに花を持たせた、断じて貴様の実力などではない」
「それでも私は師匠に勝ちます、ハルちゃんのためにッ」
「ならば僕はお兄ちゃんとして貴様を叩き折ってやる、覚悟しろ」
「はじめッ」
木の棒が振り下ろされるのと同時に、ロゼとセレスは駆け出しそのまま海へ飛び込んで、勢いよく泳ぎ始める。
すごい、早い!
興奮しながら眺めていたら、リューが私の肩にポンと手を置いた。
「兄さん?」
「うるさいのがいないうちに泳ぎの練習をしよう、まったくあいつら、いちいち世話が焼ける」
えっと、勝った方に教わるんじゃないの?
まあいいか、リューに教えて貰おう。
モコと一緒に砂浜で準備運動をして、改めて海へ入る。
冷たいけど気持ちいい。
本当に体が少し浮く。
「まず顔を付けて水に慣れろ、順番に俺と手を繋いで浮く練習だ、動きを習う前に感覚を身に付けると呑み込みも早い」
「はい」
「ごぼごぼ、しょっぱい!」
リューは教え方が上手だ。
小さい頃から、体を動かしてすることは殆どリューに教えて貰った。
手を繋いで体を浮かせて、顔だけ上げながら足をバタバタさせる。
「泳ぐときに肝心なのは息継ぎだ、慌てなくていい、力を抜けば体は勝手に浮く、手足で水を掻くのは推進力を得るためだ、落ち着いて水に慣れろ」
「はい!」
「りゅー、ぼく、うみのなかでぐるんってできるようになった!」
「お前は息継ぎ要らないからな、ロゼに教わった方がよさそうだ―――ああ、二人が戻ってきた」
水に浸かったまま立って振り返ると、甲羅岩へ向かった時と同じくらいの速度で二人が浜へ泳いで戻ってくる。
ロゼは勿論凄いけど、セレスも凄い、泳ぐ速さがロゼとほとんど同じだ。
「ぬおおおおおおッ、師匠に勝つッ、勝ってハルちゃんに泳ぎを教えるんだあああああッ」
「させるか!」
リューが「あいつら何だかんだ似てるよな」ってちょっと呆れて呟く。
私もそう思う。
モコは「すごい、すごい!」ってはしゃいでる。
飛沫を上げて海から飛び出した二人は殆ど同時に浜に着いた。
近付いていったリューに「どっちの勝ちだッ?」って尋ねる。
「どっちも勝ちだよ、おめでとう」
「なッ」
「それより、ハルはずいぶん泳げるようになったぞ、モコはお前が教える方がよさそうだから見てやってくれ、ロゼ」
「リューッ?」
「セレス、君の泳ぎは綺麗だな、俺にも教えてくれないか」
「へあッ? あ、はい、私でよければ」
「ハルも一緒に習おう、ロゼ、モコのことよろしく頼むぞ」
「ぐうううううッ、リューッ、リューッ! 君ってやつは、君ってやつはあああああ!」
ロゼ兄さん、可哀想かもしれない。
セレスもなんだか気の抜けた顔で「それじゃまず、少し泳いで見せてくれますか?」ってリューに泳ぎを教え始めている。
ええと、これでいい、のかな?
―――いいか。
私ももう少し泳げるように練習しよう、海って楽しい。




