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炎が奪ったもの

あれからすっかり陽が暮れて、リーサの母さんが用意してくれた夕食を食べ終えても兄さん達はまだ戻らない。

他の地区で災害救助の手伝いをしているのかな。

それとも、まさか何かあったとか。

―――スズラン亭の外では、暗くなっても沢山の獣人たちが声を掛け合いながら動き回っている。

落ち着かなくて手伝いに行こうとしたら、セレスに止められた。


「君に何かあったらいけない、気持ちは分かるが、リューさんからもここで待つよう言われただろ?」

「でも」

「ハルちゃん―――そうだな、キツイことを言うけど、素人じゃ足手まといになるだけだ」

「そうだよ、それにアタシら女の子なんだから、こういうのは大人に任せとこ、ね?」

「うん」

「アタシもシアンのこと気になるし、今夜は三人で一緒に寝ようよ、そしたら不安じゃなくなるって」

「そうだね」


肩でモコがピッて鳴く。

リーサが「そうだった、アンタも一緒だったね」って笑ってモコの羽を撫でる。


「ねえ、この子ってさ、オスなの? それともメス?」

「どうだろ」

「ちょっと見てもいい?」


尾羽を摘ままれそうになったモコは、悲鳴みたいな声で鳴いてセレスの頭の上へ逃げた。

恥ずかしかったのかな。


「うーん、まあどっちでも小鳥だし、別にいいか」

「あはは」

「ねえ、とりあえず四人でお湯使おう、アンタたちちょっとスス臭いし、なんか色々汚れてるから」

「あ、うん、そうだね」

「えッ」


セレス?

じりじりと後退りするセレスに、リーサもにじり寄っていく。


「今日という今日は逃がさないよ、女同士の裸の付き合い、きっちり腹割って話そうじゃないの!」

「い、いや、君は別にいいが、ハルちゃんとはッ」

「ハルだっていいでしょ、たいして違わないんだから、ほら行くよ、ハルもおいで!」

「うん」

「は、ハルちゃんッ!」


私も、女の子のセレスなら気にならないってずっと言ってる。

それにしても、モコって男の子なのかな、それとも、女の子なのかな。

人の姿になれたら分かるだろうけど、今の感じだといつになるか分からないよね。

早くモコもロゼみたいに人の姿になれたらいいのにね。


こんな状況で、それでもお湯を使わせてもらえて、本当に感謝だ。

綺麗になって部屋に戻ってから、二台あるベッドをくっつけて大きい一台のベッドにした。

リーサが毛布を抱えて持ってきてくれる。

ベッドの上に積み上げて、それぞれ包まるとなんだか大きな鳥の巣みたい。


「ちょっと楽しいかも」

「そうだね」

「アタシも昼に限界来て寝てたんだけどさ、オヤジと母さんはずっと片付けとか手伝ってたらしい」

「そうなんだ」

「明日になったらシアンもまた来るって言ってたし、アタシも明日は手伝うつもり、アンタたちのおかげでウチだけ無事だったからね、こういう時は助け合わないと」

「私も手伝おうかな」

「気ィ遣わなくていいって、それよりハルのアニキたち、まだ帰ってこないみたいだけど」

「うん」

「心配いらないさ、お二人はとてもお強いんだ、きっと今頃、災害救助を手伝っておられるんだろう」

「そう思う、シェフのアニキ、板打ち付けた窓をバーンって殴って穴開けたんだよ、物凄い力強いよね、あの時は驚いたぁ!」

「兄さん昔から力自慢だから」

「大人だし逞しいし、シアンがいなかったらアタシ立候補したんだけど、惜しいことしたなぁ」

「えっ、リーサ、君!」

「あッはッは、冗談だって、でもさぁ、単純に強いって獣人的にかなりぐっとくるポイントなんだよね、シェフのアニキはマジでいい物件だよ、うん」

「人をモノみたいに言うなよ」


ランプの明かりが部屋を照らしている。

笑っていたリーサが、不意に声の調子を落とした。


「あのね、明日、片付けついでに友達の様子を見に行くつもり」


伏し目がちに話すリーサを見詰める。


「何となく想像ついてるけど、そうじゃないかもしれないし、まあ家とかは燃えたかもしれないけど、でも無事なら、うん、無事でいてくれたなら、それでいいんだ」

「リーサ」

「ゴメン、アンタたちにする話じゃないよね、もう寝よっか」

「そうだね、明日は早起きしないとだからね」

「そっ、早く起きて、やることいっぱいあるからさ」

「ああ」

「ってなワケでおやすみ、話してくれてアリガト、ちょっと元気出た」


リーサは毛布をかぶって丸くなる。

もしかしたら毛布の中で泣いているかもしれない。

だから隣にくっついて、私も毛布をかぶって目を瞑る。

部屋がフッと暗くなって、戻ってきたセレスもリーサの隣で横になった。


たくさん、たくさん失くなってしまった。

外からはまだ大勢の声や物音が聞こえてくる。

―――私にも何か出来たらいいのに。


――――――――――

―――――

―――


朝だ。

毛布を畳んで、ベッドを元の位置に戻してから、セレスとリーサと一緒に身支度を整えた。

一階へ降りて厨房でリーサの母さんを手伝っていると、シアンがひょこっと顔を覗かせる。


「シアン!」

「リーサおはよう、おばさんもおはようございます」

「おはようシアン! アンタ家はどうだったの?」

「はい、家族は無事でした、でも家は半壊して、今は避難所に身を寄せています」


シアンは私とセレスにも「おはようございます」と挨拶してくれる。


「おはよう、もしかして、昨日の火事で延焼したのか?」

「いえ、暴動に巻き込まれて破壊されたそうです、家族も危ういところでした、少し怪我をしていて」

「だッ、大丈夫なのそれ!」

「大丈夫だよ、でも、そういう事情で僕もすぐ戻らないといけないんだ、だからごめんリーサ、傍にいられないけど」

「いいよ! 気にしなくていい、こっちは平気だから!」

「シアン、戻る前にちょっと待ちな、今お弁当を用意するからね、家族と食べるんだよ、アンタはちゃんと休んだのかい?」

「大丈夫です、昨日はずっと寝ていたようなものだし」


リーサの母さんは慌てて弁当を作り始める。

その間に、シアンが私とセレスを手招きして厨房から呼び出した。リーサもついてくる。


「あの、こんな時になんですが、ハルさん」

「はい」

「あの時のこと、詳しく教えていただけませんか?」

「あの時のことって?」


首を傾げるリーサに、シアンは少し困ったような顔をする。


「その、遺跡のことだよ」

「何にも無かったんでしょ、昨日聞いたよ?」

「えッ」

「そう、なんです、ごめんなさい」


急いで頭を下げた。

本当のことは言えない、だからって、真剣なシアンを適当な嘘で誤魔化すようなこともしたくない。


「ハルさん」


暫く黙り込んでいたシアンは、不意に首を振って「いいえ」と残念そうに笑う。


「それならいいです、壁画や古代文字の類は写し取ってありますし、シェーラの森に確かに遺跡はあった、その事実だけで十分です」

「シアン、あの遺跡は」

「単なる遺跡じゃないことは僕にも分かります、きっと選ばれた方のみが辿り着ける場所なんでしょう」

「そう、だな」

「はい、僕は持論が正しかったと証明できればそれで、こんな機会が無ければそれさえ叶いませんでしたから」


ごめん。

あれだけ熱意を持っていたことを諦めるなんて、きっとすごく辛い。

受け入れてくれたシアンは強くて優しい人だ。

それに前向きだな。

本当に有難う。

隣でリーサもうんうんと頷いている。事情は分かっていないだろうけど、シアンの想いを肯定しているんだ。リーサも優しいね。


「シアン、待たせたね、お弁当だよ、ほら持っておいき!」

「有難うございます、それじゃ皆さん、リーサ、また後で」

「うんっ、シアン、手伝えることがあったら言ってね、私なんだってするよ!」

「ありがとうリーサ、君は無理しないで、それじゃ!」


リーサの母さんから弁当を受け取って、シアンは家族のところへ戻っていった。

無事は何よりだけど、半壊した家にはもう住めないだろう。

早速リーサとリーサの母さんが、シアンと家族をこの宿へ呼ぼうって話し合っている。

こうして支えてくれる人がいるから、シアンもきっと大丈夫だね。

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