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キレイでカッコいいお姉さんキャラってイイよね

「冬城さん、いまちょっといいですか?」


「あら神夏磯くん、いいわよ?どうしたの?」


冬城ふゆき うた。現在学部4年生。1年浪人しているため年齢は梨樹人の2つ上に当たる女性だ。

肩あたりまで伸びた輝くような黒髪を強めに内に巻くようなボブにした大人らしい魅力をたたえたその女性は、作業中の手元を休めて振り返り、梨樹人の目を見ながら優しく訪ね返した。


「えっと、冬城さんもご存知だと思うのですが、今、研究テーマを考えるのに行き詰まっているんですよね。それで吉田先生から先輩の話を聞いてみたら良いんじゃないかってアドバイスをいただいたので、良ければ冬城さんにお話を聞かせてもらえないかと思いまして」


「なるほど!そういうことならもちろんいいよ!」


肩口から少し髪を掬って耳にかけながら、笑顔で答えるその姿に、一瞬見惚れて言葉を失ってしまう梨樹人。

数瞬の沈黙の後、詩から話を進める助け舟が出される。


「それで、何をお話すればいいのかな?」


やべぇ、見惚れてた。


「あ、えーっとですね。そのー」


フィラーを繰り返す梨樹人を見て、詩がまた笑う。

口元を手で少し隠しながら肩を震わせてクスッと笑う姿はさながら深窓の令嬢とでも言うべきか。


その姿に梨樹人はさらに言葉を紡げなくなっていると、話は詩の方から始めてくれた。


「まずは私がどんな研究してて、どういう経緯でそのテーマ設定に至ったかをお話するっていう感じでいいかな?」


キレイで研究もしっかりできている優しい年上のお姉さんからの提案は、梨樹人が期待することそのものであり、もちろん断る理由はなかった。



***



「...っといった感じかなぁ」


一通り詩の研究内容とその経緯を教わった。

詩の話方はとてもわかりやすく、梨樹人への配慮に満ちていた。


わかりにくい専門用語は極力避けつつも、梨樹人の勉強のためにもキーワードは散りばめた解説。


「ありがとうございます。すごくわかりやすかったです。ちなみにさっき説明してくださったこの部分って〜〜〜〜〜」



梨樹人の質問に対してもわかりやすい回答をしてくれる。

それに研究に対する熱量も責任感もある姿勢が伝わってくる。





それから2時間程度、雑談も交えて分野に関するいろいろな話をした。



「今日は長い時間拘束しちゃってすみませんでした。いろいろわかりやすく説明してくださってありがとうございました」


「そんなの全然気にしないでいいのよ。後輩に研究の話をするのなんて先輩の義務だし、私も研究の話ができて楽しかったしね」


うーん、色気がある美人っていうのはこういう人のことを言うんだろうなぁ〜。


「それにしても冬城さんはすごいですね」


「え?なにが?」


「なんていうか、知識の多さとか深さとか、すごく楽しそうに話してくださるところとか。」


「そんなの、好きだからやってるだけよ」



微笑みながらそういう彼女。


詩は普段から誰に対しても、いつでも細やかな気遣いを欠かさない人である。

たった1ヶ月程度しか一緒にいない梨樹人にもそれがわかる程度には、普段の会話や飲み会、研究室でのあらゆる生活の中でその片鱗を見せてくれている。


こうした実績があることも後押しして、本心から言ってることも、自分に気を使わせないようにそういう表現をしてくれていることも想像できる。


この人、いろいろ凄いし、いい人すぎるよなぁ。

素直に感動していたところ、これまでの議論で頭が少し疲弊したこともあってか、言わなくても良いことが口を衝いて出てしまう。


「それにしても、美人で研究もできて、才色兼備って冬城さんのためにあるような言葉ですよねぇ」


「なにー?私のこと口説いてるのー?」



しまった、確かにこんなの完全に口説いてるじゃん。研究室の先輩を口説くとか気まずいわ!



「い、いえ!すみません、そうじゃなくて!ただ思ったことが口をついて出てしまったっていうか...」


「ふふっ、まだ口説き続けるの?」



コロコロと鈴を転がすような声で笑いながらからかってくる詩に、梨樹人のテンパりボルテージは高まる。



「そういうつもりじゃないんですって!」


焦って否定している梨樹人の様子が面白いのか、クツクツと楽しそうに、優雅に笑いをこぼす。

ひとしきり笑った後、はぁ〜っと一息ついたあと、ニコニコしながら離し始める。


「ごめんなさいね。あなたの慌て具合があまりに面白いものだったから」


「いえ、こちらこそ、ホントにすみません」


恥ずかしさのあまり顔の温度が上がってるのが分かる。

心のなかで「マジで何やってるんだ俺は。男の赤面とか需要ねぇだろ!」とかセルフツッコミをかますが、羞恥心は継続する。


「褒めてくれてありがとうね。神夏磯くんも、とても素敵よ?」



なんだこの人、女神か?

いやいや、待て待て。こんなの社交辞令に決まってるだろ、なにマジに受け取ってんだよ。


落ち着こうと自省しても安定状態にならず、上昇を続ける顔の温度。


「とにかくっ!今日はいろいろありがとうございました!俺はそろそろ帰りますね!お先に失礼します!」


これ以上醜態を晒し続けたくないので、ここは急いで退却を選択。




今日は研究テーマの検討も進んだし、冬城さんと話せて楽しかったし、有意義な時間を過ごせたな。

それにしても冬城さんは高嶺の花って感じだよなぁ〜。

さすがに研究室の先輩だし、恋愛とかそういうのはないだろうけどさ。

そういえば彼氏はいるんだろうか。

まぁそのうち聞いてみるか。

そのときは今日みたいに口説いてると思われないような聞き方をしようかな。



自宅の布団に入ってこの一日のことをぼんやりと考えながら、梨樹人は眠りに落ちた。

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