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自分の悪いところは思ってるよりも見つめにくいもの

少し時間は跳んで、高校3年生。まもなく夏の長期休みに差し掛かろうという土曜日、定期の買い物デートの帰り道、柚津の家のすぐそばまで送ってきている。

今日は一日柚津の機嫌が良くなかった。そろそろなにか文句を言われる頃だろうか。そうボンヤリしていると、柚津がいつもの明るい声とは違う少し低い声で話しかけてくる。


「ねぇ、りっくん。最近なんか冷たくない?」


柚津はこの数年の内に呼び方を「神夏磯くん」から「りっくん」にクラスチェンジしていた。「梨樹人りきと」からとったあだ名だ。

「神夏磯」という珍しい名字を持つ梨樹人はそもそも下の名前で呼ばれること自体少なく、まして「りっくん」などと呼ぶのは柚津だけだ。


「それは......ごめんな?柚津が寂しがってるのはわかってるんだけどさ。でも、そろそろ部活も大詰めだし、大学入試の勉強が慌ただしくなってきてさ......」


無論、梨樹人からの呼び方も変わっており、「夏海」から「柚津」へとチェンジ。

そんな呼び方の仲の2人の関係には今にも日々が入りそうな空気だ。


「またそうやって言い訳するんだ」


「うっ。ごめん」


「友達の舞ちゃんのカレシは毎日電話してくれて、毎週遊びに行ってくれるんだってさ。それに対してりっくんはどうかなぁ?」


そんながんばってるやつと比べられると返す言葉がない。

なにも言えず黙っている梨樹人に「もうりっくんが柚津のこと好きなのかわからないよ!」と追い打ちをかけ、家の方に駆けていく。日が暮れて暗い道の中で、自宅に入っていく柚津の表情は見えなかったが、梨樹人には彼女を引き止めることはできなかった。


これまでは多少の喧嘩もあったが、少なくとも梨樹人はある程度うまくいってると思っていた。

これまでの喧嘩の原因はいつも梨樹人の側で、どれも「冷たくなった」とか「会う時間が減った」だとか「連絡を返すのが遅い」とか。

そういったことを追求されて梨樹人が言い訳をして慰めて仲直り、というのがいつものパターンだった。


しかし、その言い訳のやり取りはお互いにしこりを残して積み重ねていることに、今の今まで気づいてはいなかった。

梨樹人は自分がどのような対応をしても「また言い訳するんだ」と言われるのではないか、そんな強迫観念にとらわれて、何も言えないまま、悲しみの中で駆けていく彼女の腕を掴んで呼び止めることもできなかった。


その日の夜は梨樹人から『ごめんな』とメッセージが送られただけだった。






翌日、日曜日の朝、起きてすぐ何も連絡のないスマホを確認した梨樹人は、改めて柚津に謝罪しようとメッセージを送ろうとする。だがしかし、どういうことか送信できない。


ネットの回線の問題か?


そう考えて場所や高さを変えながら何回か試してみるが、試み虚しく送信が完了することはない。


これはもしかしてブロックされてる?電話ならでるだろうか。


焦りのために早鐘を打つ心臓を無視しつつ、柚津の携帯番号に電話を掛ける。


『おかけになった電話番号への通話は、お繋ぎできません。』


音声案内だけが虚しく返ってくる。着信拒否が設定されているときの案内だ。


やばい、これまで喧嘩してもブロックとか着拒はなかったのに!連絡が取れないのは困る。そうだ、家の電話なら流石に出てくれるだろ。


一縷の望みに賭けて家電にかける。


数回のコールの後、聞き慣れた、でも普段と違って冷たく低い声が聞こえる。


『............はい』


『もしもし、俺だけど、梨樹人だけど』


『............なに』


今でも幼さの残る風貌の柚津からは想像もできない、どこからでてるんだって感じの拒絶が込められた声が響く。


『その......昨日は......ごめん。俺が悪かった。だから、さ、ちょっとでいいんだ、話をさせてもらえないか?』


『むり、もう話すこととか無いから。じゃあね、いままでありがと。もう私に関わらないでね』


そう冷たく言い放つと、ガシャンと勢いよく電話が来られ、ツーツーという通話の終了音だけが虚しく鳴り響く。


な......なんでだ......こんないきなり......。


これまで喧嘩をしてもここまでになることはなかっただけに、梨樹人の脳内を混乱の色が占領していく。

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