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イイ恋の前の薫る絶望

俺、神夏磯(かみがそ) 梨樹人(りきと)は今、地味な恥ずかしさと襲いくる脱力感、それと大きいのか小さいのか自分でも計量しかねる「もやもや」に近い怒りに苛まれている。


「りっくんがあんまり相手してくれなくて寂しくさせたり、不安にさせたのが悪いんだよ!?

そのせいでつい...でも、本当に大事なのはりっくんだけだから!

これからまた柚津のことちゃんと構ってくれたら元通りになれるから!」


そう騒いでる女は、夏海 (なつみ) 柚津(ゆず)

今まさに絶賛どういう別れの言葉を紡ごうか迷っている最中ではあるんだけど、まだ一応、かろうじて、ぎりぎり、俺の彼女ということになっている相手だ。


「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。もういいよ。何回目だ?しかもお前今回はさぁ...まぁもういいよ。いい加減疲れたわ。じゃあな」


そう言って駅に向かおうとする俺を、柚津の声が引き止める。


「待ってよ!え......?なんで?帰ろうとしてるの......?」


「いや、こんなところで喧嘩してるとか恥ずかしいから。って、俺がこんなとこで言い出したのが悪いんだけどさ」


なにせここは駅を出てすぐそこ、人通りの多い少し広めの鉄橋の上である。

楽しそうに行き交うカップルや親子連れ、その他大勢の人たちに見守られながら、鉄橋の下を行き交う車の音をBGMにして喧嘩をする2人がそこにいた。


「もう話す気力もないからさ。うん、じゃあ改めて、ばいばい」


何が悲しくてこんなとこで、見世物にされながら長々話に付き合わなさせられなければならないのか。


「待って待って待って!いつもならここで仲直りじゃない!いつものりっくんなら『今度からもうちょっと時間作るよ』って言ってくれてさ!それだけでいいんだよ?」


彼女は慌てて俺に駆け寄ってシャツの裾を掴みながら、梨樹人の行動が予想外とばかりに異を唱える。

しかし、その言葉が俺のモヤモヤした怒気をはっきりしたものへと変貌させる。


くっそ、本当に何でこいつは、悪びれもせずそういうこと言うとこが一番ムカつくってことがわからないんだ!?


とはいえ、寂しい思いさせてたのなら、俺も漢としてかっこ悪いし、あんまり強くは言えないよなぁ。


「いや、俺も悪いところがあったのは申し訳ないと思うよ?確かに研究が忙しくて、あんまり構えてなかったかもしれないしさ」


俺は今、大学院博士前期課程に属している。いわゆる修士課程というやつの1年生だ。

最近は特に、研究が楽しくて熱中するあまり週末もそちらにかかりきりになり、彼女と遊びに行くのは月に2回ほどなっており、そこに罪悪感を感じている部分もある。


「うん、ほったらかし気味になってたことはごめん。俺が悪かったわ。けどもう、まじで無理だから。じゃあな」


非を認める気持ちと謝りたくない気持ちのせめぎ合いの中、なんとか絞り出した謝罪と別れの言葉。


「ふざけないでよ!もう知らないんだから!あとで連絡してきてもしばらく口聞かないからね!」


そんな背後からの喚き声を聞き流して、いや、聞き流しきれなくて怒りのボルテージは上がっているんだけど、その声の主を置いて駅に向い、家路を急ぐ。


いやふざけんなよって、俺のセリフだから!

いやでも俺も悪いとこあるし。


てか、連絡なんて絶対しねぇよ。なんで俺から連絡する未来があるみたいに言ってんだよ。

そういうとこなんだよ!!!!


はぁ〜。つれぇなぁ〜。もう何がつらいのかもよくわからないけど、つらいなぁ。


あぁ、考えてたら気持ち悪くなってきた。

うぅ、はきそー。早く帰りてぇ。


===


俺は自宅に帰るなり手洗いに駆け込む。


「おぇっ。うっぷ!......はぁはぁはぁ......ふー」


俺は今何が辛くて吐いてんだー。


そういう取り留めもない疑問と、これまでの柚津との楽しかった思い出がフラッシュバックして、胃液を無限に押し出してくる。


「あぁ、やっぱ俺は柚津が好きだったんだよなぁ。すげぇもったいないことしたかもなぁ。けど俺も色々我慢したり頑張ってたのに、浮気しておいてあの態度はねぇだろ!」


そう、今回の喧嘩は柚津の浮気の発覚に端を発している。


「はぁ〜あぁ〜。初めて付き合ったころは可愛くて素直な良い子だと思ってたんだけどなぁぁぁ」

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