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006

「…………っ、ハッ!?」

(あ、ルルさんが起きましたよ御猫様)


 エルフさんたちがぐっすりお寝んねして一〇分程度でしょうか。ルルさんは意識を取り戻して勢いよく体を起こしました。それまでネコさんの群れは幸い何もしてくることはなく、残念ながら閃きが訪れることもなく、攻め込まれることもなく、暇を持て余した僕たちにやっと朗報が届きましたね。


「ホントね。あ、三つ揃ったわ」

(ホントですね。三連勝を阻止されてしまいました)


 脳死状態でやっていた暇つぶしの〇×で二試合ぶりの敗北をしたところで、状況が呑み込めていないルルさんは周囲を見回したあと、立ち会がって僕たちに近づいてきてから訊ねてきます。


「どういう状況なのか、説明してもらっていいだろうか?」

「打開策が見つからず、体感時間にして一〇分ぐらいずっと〇×してたのよ。知ってるかしら〇×? ルール説明必要?」

「そうじゃない! この巨大な壁はなんなんだ!? どうして全員が閉じ込められている!?」

「閉じ込められてるんじゃなくて、閉じこもってるのよ。ネコの群れに発見されて、コイツが咄嗟に能力使って危機回避したの」

「…………そうだ! 奴らはなぜか私たちの力が効かず、直後に急に意識が遠のいて……」

「思い出したようで助かるわ。主に説明の手間が省けて」


 正直なのは美徳ですね。御猫様の更生が順調そうで何よりです。

 そんなことを思っていたら、ルルさんは紫色の光で片手剣を作り出しました。


(振るとブォン! とか鳴りそうですね)

「ボケる前にコイツが光の剣を作れるところにツッコミなさいよ。エルフは戦闘向きの能力は使えないはずでしょ?」

「それは私が他の皆とは違うからだな」


 まあ、言われるまでもなく明らかにルルさんだけ見た目が違いますよね。合計で一二人いるエルフさんたちですけど、褐色の肌をしているのはルルさんだけです。

 ここから導き出せる唯一の答えを僕は伝えます。


(日サロ通いが過ぎるあたりですかね)

「ヒサロ?」

(ヒに半濁点を着けると魔王になります)

「魔剣士でも可」

「何の話をしているんだ?」

「アンタを無駄に殺さないための時間稼ぎかしらね」

(ここで自ら言っていくスタイルは逆効果だと思いますよ?)

「コイツにはそうでもないと思うわよ。物わかりはいい方でしょ? それともプライドに任せてネコどものクソに早変わりしたいのなら止めないわよ」


 挑発になってしまう危険性もありますけど、話していてルルさんは理知的な方だというのはわかっていますし、無駄話で足止めするのが目的だと打ち明けるのもナシよりのアリではあります。

 それでも激おこぷんぷん丸になる危険性も否めませんし、傷つける言い方なのは変わりないのでヒゲを引き抜こうか悩んでいると、ルルさんは微笑を僕たちに向けてきます。


「二人に心労をかけることはしないさ。ちょっと試したいことがあるんだ。外の様子を確認することはできるだろうか?」

(はい、数ヶ所に外の様子を見るための隙間を作っています。そこから覗き込めば確認できますよ)

「そうか。では――フッ!」


 僕の答えを聞くやいなやルルさんはライトなセイバーを上空高く放り投げると、隙間の空いた箇所に走り出しました。

 その直後、ライトなセイバーは上空で弾け、一〇本のライトなダガーになって一〇方向に飛び散りました。


「たーまやー」


 御猫様が花火には定番の掛け声を言ったので、僕もそれに続く言葉を心の中で叫びます。


(かーぎやー)


 こうして一発だけの花火大会は終了すると、ルルさんは隙間すべてを覗き込んでから僕たちに駆け寄ってきました。


「すべて避けられたよ。印もあったし、やはりネコたちは何者かに操られている」


 どうやらあの花火は相手の反応をうかがうためのものだったようですね。僕たちにはできないアクションですし、情報を得てくれたのは何より喜ばしいことです。


(モンスターテイマーとかそういう類の能力ですかね。印というのはテイムされている証みたいなものという認識で正解ですか?)


 得てくれた情報からそう推測すると、ルルさんはうなづいてくれます。


「その認識で問題ない。額に浮かんでいた小さなアレだ」

「ああ、言われてみればあったわね。模様って言い張るには苦しい感じの印」


 思い出したように言う御猫様と僕も同じ気持ちです。たしかにネコさんたちの様子を見たときに、全員が同じように額の所に保護色を打ち消すような模様がありました。

 全員にあったので、そういう模様なのかなと思っていたんですが、アレが印だったんですね。となるとテイムされていることが確定しましたし、いまの状況も腑に落ちます。


(つまり、ネコさんが無暗に壁を攻撃したり昇ってきたりしないのもテイマーさんが指示しているからということですね)

「野生でもこんなもんが急に反り立ってきたら警戒して近寄らないと思うわよ」

「いや、ネコは気性が荒い。餌が目の前にあれば、どんなことがあろうとも突っ込んでくるような動物だ。そんな奴らがこの壁を警戒しているというのなら、それは異常と言える」

「へぇー」

(御猫様って知識が中途半端ですよね。田舎町にある大図書館って呼んでいいです?)

「失明したければいいわよ」


 率直な感想を述べただけでバ〇スされるのはごめんなので、僕は話題を変えるためにネコさんの情報が出たことで生まれた疑問をルルさんにぶつけます。


(襲ってこないネコさんって情報だけでもモンスターテイマーの存在は確信できそうなものですけど、さっきの攻撃は何のためだったんです?)

「テイマーの力量を測るためだ。一〇体同時に攻撃したが、見事にすべて回避されてしまった。ネコは基本的に向かってきたモノは回避せずに迎え撃とうとする習性がある。それを抑え込んで回避の命令を同時に一〇体ものネコに出したからな。相当な手練れだろう」

「……ねえ、確認のために聞きたいのだけど、この世界のネコって『気性が荒くて、向かってきたモノはとりあえず攻撃する気性の荒い肉食獣』ってことでいいのかしら?」


 斜め下の質問ですね御猫様。今更な気もしますし、本筋とは無関係なのは僕の言えた義理ではないので言いませんけど、何が言いたいのか甚だ疑問です。

 けれどルルさんは良い人なので律儀に答えてくれます。


「それと基本的に腹を空かせてるな。餌になりそうな動物を見つけると一目散に向かってくるぞ。そして殺したあとは、食事のことしか頭にないな。ヤマネコの場合は食欲の呪縛からは解放されているが、代わりに破壊欲求でも芽生えるのか口の中にある器官でなんでもかんでも壊そうとする」

「器官!? アレを肉体の一部だと!? 器官だけに器官銃って言いたいわけ!?」

(うまい)

「ありがとう。そして、そんな奴らと一緒の名前の生物になった自分にドンマイ……」

(これからどうしましょうか?)


 自分で質問して落ち込むという結局何がしたかったんだ? と疑問符を付けずにはいられないことをした御猫様は無視して僕は質問すると、神の速さで復帰してきた御猫様が答えてくれます。


「裏にテイマーがいるって情報は得られたけど、手詰まりなことに変わりないわ。持久戦になれば不利なのは当然こっちだっていうのに」

(……ルルさん、あなたは普通のエルフさんではないと言いましたけど、具体的にはどういう意味なのでしょうか?)


 日サロ通いは誰もがわかるところとして、あの含みのある言い方は他にも何かしらあると踏んでいいと思ったので訊いてみると、ルルさんは今更な質問に嫌な顔せず答えてくれます。


「ああ、見てのとおりな部分もあるが、私はダークエルフだ。特徴としてこの肌の色と戦闘に不向きと言われるエルフの中で唯一戦闘向きな力が使える変異種だよ」

(では何匹のネコ同時に戦っても勝てますか?)

「……テイマーのことを考えると、一体ずつで戦わなければ負けるだろうな。恥ずかしいことだが、戦闘向きな力が使えるだけで、私はそこまで強くない」

「強かったら盗賊に捕まったりしないものね」

「面目ない……」

「それでもあのバケモノに一匹ずつなら勝てる戦闘力はすごいと思うわよ」

(落として上げる手法ですね。詐欺でよくあります)

「アンタは私を貶さないと息できない病気にでもかかってるのかしら!?」


 ルルさんが騙されないよう事実を言っただけで文句を言われる世の中が僕は悲しいです。


(よし、やりましょうか)


 というわけで、この間に思いついたことを実行するべく僕は立ち上がります。


「やるって、何するのよ? 何か打開策でも見つけたのかしら?」

(ええ、完璧なゴリ押しを!)

「ゴリ押しを打開策って言う奴は犬死を無念の死って惜しむ奴っていうのはワタシの中で有名な話よ!」

(微妙にニュアンス違いませんか?)

「……ケチャップを野菜って言い張る奴ってのはどうかしら?」

(いい例えですね!)


 的を射た比喩表現にサムズアップすると、呼応するかのように頭上からけたたましい咆哮が響いてきました。

 おのずと視線は上を向き、捉えたのは真っ黒な何かでした。

 この距離なので正確なことは把握できず、とはいえあの咆哮からして獣であることは間違いなのですけど、なんなのでしょう? 近づかないとわかりませんね――という御猫様の言うところのフラグを立てる前に真っ黒な何かは壁を猛スピードで滑り降りてきました!

 段々と鮮明になる『黒い何か』は『真っ赤な目をした黒く長い体毛に覆われた巨大なゴリラ』へと僕たちの認識を変更させます。


「何よアレ! ネコじゃないじゃない! キングコ〇グじゃ……まさか、あそこのフラグ回収!?」

(タイムリーですね! 僕もさっきフラグについて少し考えたんですよ!)

「アンタのせいか! フラグは匂わせるだけで成立するものもあるのよ!」

(それはさすがに考えすぎですけど、マズイことに変わりありませんね。完全に僕たちを殺しに来ています)

「グラード・ベードだ。ネコより強くはないが、少しだけ知恵が回る奴だな)


 冷静に解説してくれるルルさんは続けて先ほどのライトなセイバーを両手に作り出すと、一本をグラード・ベードさんに投げつけ、ちょっとした間を置いてもう一本を少しズレた位置に投擲しました。

 するとどうでしょう! グラード・ベードさんは壁を蹴って最初のライトなセイバーを回避しましたけど、少し間を置いて投げた方のライトなセイバーに貫かれ、壁に縫い付けられたではありませんか! しかも的確に急所を穿ったようでピクリともせず絶命してしまっていますね。


「とはいえ、この程度の誘導に引っかかる程度には間抜けだ」


 手慣れた様子のルルさん。ライトさんほどではないにせよ、彼女を弱いというのはお門違いのようですね。


「まあ一番問題なのは、こいつが死んだ後に出す腐臭なんだがな」


 先ほどの余裕が消えるほど身構えるルルさんの様子から察するに、問題はいまからというわけですか。たしかにもう腐臭が漂ってきていますね。とはいえ耐えられないほどじゃありませんし、となると問題は――


「たしかにくっさいけど、耐えられないほどじゃないわよ?」

「臭さはさほど問題ではないんだ。問題なのは――この臭いに反応する特定の獣がいるということだ」


 予想的中です。耐えられないほどの激臭じゃないということは、この臭いに釣られてやってくる何かだとは思いましたけど、当たって欲しくない予想でした。

 こんなにうれしくない予想的中は生まれて初めてで少し肩を落としていたのですが、不意に砂をかき分けるというか砂を切るような音が聞こえてきたのです。


「来たか。いつもどおり早いな」


 緊張感を増すルルさんですけど、僕たちは何が来たのかもわからないので、音のする方にある隙間へ行って覗き込んでみると、そこには僕たちの想像を超越した生命体がこちらへと向かってきていました!


「(……ナニアレ)」


 僕と御猫様の心がシンクロニシティした瞬間、その生命体は――()()()()()

 ええ、跳ねたのです。ここは森を目の前にした平地です。どこにもしょっぺー水はありません。にもかかわらず、その生命体は跳ねたのです。砂をまき散らし、周囲にいるネコに嫌な顔をされながら跳ねたのです。水中から勢いをつけて跳ね上がるように、地中から跳ね上がったのです。

 しかもその方法もまた開いた口が塞がらない状態を僕と御猫様に付与してきました。なにせ後方に付いている二つの頭が口から砂を吐くことによって、地中を泳いでいるのです。斜め上にもほどがあります。

 そんな奴の学名をルルさんは叫びます。


「『ダブルヘッドツイングラウンドシャーク』だ!」

「どこのB級映画よおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 今回ばかりは御猫様が叫びたがるのも理解できます。

 前後に頭がふたつあり、背ビレも前後にふたつづつ。普通のサメにあるはずの尻尾などはなく、あるのは頭とヒレだけという異質な造形にもかかわらず、配色や顔の形などすべて普通のサメです。これには僕も頭を抱えたくなりましたけど、そんな暇を与えることなくダブルヘッドツイングラウンドシャーク――略してDHTGSさんは前方にある二頭が美ら壁を自慢のあごで砕き始めたのです!


「見た目バカげてるくせして洒落になってないあごの力ね! 何か対策はないの!?」

(臭いに釣られてきただけでテイムされてはいないでしょうから、少し驚かせれば逃げてくれそうじゃありません?)

「……天才じゃない?」

(でへへ~)


 珍しく真顔で褒めてくれた御猫様に僕はデレデレしてしまっていたのですが、ルルさんが首を横に振って否定してきます。


「無理だ。奴も既にテイムされている。その証拠に奴らの額にも印が浮かんでいるだろう」


 言われてみれば、たしかにネコさんたちの額にある印と同じものが浮かんでいますね。律儀に四つの頭にひとつずつ。


「テイマーの腕は尋常じゃないな。この数秒でダブルヘッドツイングラウンドシャークをテイムしていた。しかも方法がわからないどころかテイマー自身を視認できないままでだ」


 ルルさんは相手の力量を計れているようで嫌な汗をかいていますね。戦いに慣れている人はそういう第六感が養われると言いますし、すごい能力です。僕なんてこの状況でもいつもどおりのテンションから変動がありません。戦い慣れしていないとこうなるんですね。

 もしくは戦い慣れしていない枠であるもう一人のように騒ぎ出すかの二択のようです。


「どうすんのよ! ワタシ死にたくないのよ! どうにかしなさいよ!」

(どうにかな~れ☆)


 そう唱えながら僕は指先から対象を麻痺させるビームを放ち、隙間を通してDHTGSさんに命中しました。

 狙いどおり痺れてくれているようで、ガジガジする音は途絶えましたね――と、思ったら再度壁を噛み砕く音が響いてきました。


「効いてないじゃない! さっきのはなんだったのよ!」

(麻痺ビームが無効化されてしまい、ガジガジが再開されたようです)

「アンタの能力無効化できるヤツなんているの!?」


 リアクション芸を続けている御猫様はまだまだ元気そうで何よりですけど、状態異常に対策が施されているというのは問題ですね。僕の能力でも無効化されたということは、他の方法で拘束することはまず不可能でしょうし、これにはマジカルなポーズを取るしかありません。


(どうにかな~れ☆)

「……今度は何したのよ?」

(ポーズを決めました)

「……それだけ?」

(ザッツライ)

「こんな状況でふざけてる場合じゃないでしょ! 何か解決策を探しなさいよ!」

(もう能力を二回使ってしまいましたし、ポージング決めたら不思議なことが起こらないかなと)

「ポージングしただけで解決するわけないでしょ! それに窮地に陥ったときに都合よく不思議なことが起こるのは幼児向け番組だけよ!」

(最近は幼児向けアニメでも許されないかと)

「そんな悠長に話している場合じゃない! 来るぞッ!」


 いつもの調子な僕たちにルルさんが活を入れてくれた直後、DHTGSさんは美ら壁を突き破ってきて、その勢いのまま襲い掛かってきました。

 本当であれば拘束するだけにしたかったのですが、僕も殺されたくはありませんからね。

 僕は先ほど麻痺ビームを撃ったのと同じように今度は絶対倒すビームを放って難なく倒しました――が、DHTGSさんが空けた穴から見えた景色は絶望を告げきました。


(……アレは……アレですよね……)

「もはやバッドエンドしかないクソ映画じゃないッッ!」


 そこには一〇匹のネコさんと背ビレが四つほどある生命体の群れが地中を泳いでおり、そのすべてがテイムされていると判断していいでしょう。

 視認できる数で言えばネコさんと同じく一〇匹はいますね。他にも何匹か地中に潜っている可能性もあるので、僕たちはニ〇匹以上の獰猛な獣を相手にしないといけないわけですか。


(これはやっぱりゴリ押ししか道は残されていませんね)


 未だにルルさん以外は目を覚ます気配はありませんし、他に解決策も思いつきませんからね。


「この際、この状況を打開できるならなんでもいいけど、具体的にはどうするのよ!」


 御猫様の疑問はごもっともですけど、僕がするゴリ押しと言えば簡単に思いつくはずです。

 とはいえ、僕も確証は持てていないので、確認のために訊いておきましょう。


(御猫様の呪いで僕は能力を使いすぎると火傷が再発するんですよね?)

「そうよ! それがどうかしたの!?」

(つまり、一瞬にして死んでしまうわけではない、ということですよね?)

「そうね。じわじわと苦しめるために足先からゆっくりと焼け焦げるようにしてあるわ)

「悪趣味だな……」

(うっさいわね! コイツの顔が歪むところが何よりも酒の肴にな、る……って、やめなさいよ! 下手したらワタシも死んじゃうでしょ!」


 ルルさんに事実を言われて開き直っている途中で思い当たるとは、御猫様ってば僕の苦しむ姿をどれだけ心待ちにしていたんですか。さすがに少し引きますけど、止めたところで状況は変わりません。


(このままだと全員死んでしまいますよ?)

「そ、それはそうだけど……逃げれば問題ないじゃない! 寝てるコイツら餌にして――ギニャアアアアアアアアアアアア!」


 自分の命を大切にするのが間違いとは言いませんけど、最悪なことを言ったことに間違いはないので僕は御猫様のヒゲをむしり取りました。


(それは正真正銘クズの所業ですよ御猫様。もう道はこれしかありません)


 むしり取ったヒゲを捨てながら、同時に美ら壁も破壊し、その瓦礫を外へと弾き飛ばしました。

 何匹かにはヒットしてネコさん二匹に致命傷を与えることもでき、目的であった距離を取らせることにも成功しましたし、牽制攻撃としては上々の結果ですね。

 この隙に僕はルルさんに伝えます。


(ルルさん、僕が援護しますから皆さんを連れて行ってください)

「……八往復は必要だぞ? いけるのか?」

(心配してくれてありがとうございます。問題ありませんよ。さあ、行ってください)


 素早く自分の役割を遂行してくれるルルさんの状況判断能力に感謝ですね。軽そうな二人を担いですぐさま走り出してくれました。ちなみにその片割れはアルさんだったりするのですけど、いまはそんなこと気にする前にやることをやりましょう。

 走り出したルルさんに絶対防御のバリアと最大限の身体強化を付与します。一瞬で効果切れになるかもしれませんが、ないよりはマシですからね。

 そして、同時に最長効果時間である一〇分を正確に計れる能力を発動。この力があればカップ麺をお好みの状態で食べることができますね。


(……っ! いやはや、こんな便利な能力、このぐらいのデメリットがないと釣り合いが取れませんよ)


 カップ麺は麺硬めで食べたい僕には感動するほどの能力なのですけど、反動が大きすぎるのは考え物ですね。足先から段々と焼かれるときの独特の激痛と痺れが生じてきました。いま裸足になるとグロテスクな映像がお届けできることでしょうね。

 まあ、目の前の獣さんたちからすれば痛み程度で済むのだから我慢しろという感じでしょうね。なにせ自分の意志とは無関係に僕たちを狙い、その結果として殺されてしまうんですから。

 女神様に貰った力が完璧に使えることができれば、解放してあげることもできたのでしょうけど、いまの僕では何かしても先ほどの麻痺ビームのように無効化されてしまう可能性が高いですからね。

 それにもし、解放できたとしても獣さんたちがテイマーさんを狙ってくれる保証はないので、そこまでの賭けに出られるほど余裕がありませんから、先ほどのDHTGSさんのように殺すしか僕たちが生き残る術はないですね。

 ――そう結論付けたのと同時ぐらいに御猫様は僕の頭に乗っかると、真面目なトーンで言ってきました。


「申し訳ないなんて思うんじゃないわよ。いまのアンタには目の前の獣を救う手立てなんてない。だったら相手の土俵に上がるしかないの。弱肉強食が自然の摂理よ」

(クズ発言をしたかと思えば僕に配慮してくれたり、本当に御猫様は捻くれてますね)

「うっさいわね。もう後には引けないから覚悟決めたのよ。本当なら天界でアンタのこうなる姿を肴にビールをあおっていたはずなのに、まったくあのバカ姉め……」

(お姉さんのことを悪く言ってはいけませんよ。……あと、何時間ぐらいですかね?)

「正確にはわからないけれど、まだ日が出ているから少なくとも七時間はあるでしょうね。そして、能力を使う都度、ワタシの呪いは強さを増してアンタの体を蝕むわよ」

(まるで虫歯菌ですね)

「バイバイキンしたいのなら、七時間耐え続けることね」


 そのとおりです。僕が選んだ作戦と呼べたものではないゴリ押しの内容は、ただただ能力を最大限に使いまくって日付が変わるのを待つというもの。

 御猫様の呪いによって僕は女神様から与えられた能力を一日に四回以上使うと呪いによって火傷がゆっくりと再発して死に至るわけですけど、ゆっくりであるのなら能力による治癒は可能であり、一日に四回以上ということは日付が変われば回数はリセットされるというわけです。

 だったら能力を使って迫りくる獣さんたちを倒し続け、呪いによる火傷も能力によって治し続け、その間にルルさんがエルフの皆さんを目の前の目的地に運び終えることができれば、あとは逃げの一手で日付が変わるまで回復しながら待てば作戦は成功です。

 唯一の懸念点は僕が痛みに耐え続けられずに不覚を取ってしまう可能性があるという部分ですね。能力で最長一〇分は痛覚をなくすことも可能なはずですけど、


「それと、痛覚遮断はやめときなさい。効果が切れた瞬間に倍以上の痛みが全身を駆け巡る仕様になってるから。下手したら悶絶した挙句にショック死するわよ」

(……なして?)

「痛がらないと酒の肴にならないじゃない。文句があるなら、解呪できなかったクソ姉に言うことね」


 御猫様の性格からして、なんとなくそんな気はしていましたが、予想通り過ぎて涙が出そうです。

 まあ、最初から耐えられるところは耐えた方がいいと思ってましたし、痛みは危険信号の役割もありますから、回復するときの目安に使えるとポジティブに考えましょう。そうしないと最後の砦を失ったショックでメンタルへのダメージが甚大すぎますからね。

 それにもう四回以上能力を使って後戻りはできませんからね。四の五の言わずに頑張るしかありません……が、痛いものは痛いので、襲い掛かかってくる獣さんたちを各個撃破しながら、増していく痛みを少しでも紛らわすために僕は御猫様といつものような会話を始めます。


(……本当、体が焼ける痛みなんて一生味わいたくないものだっていうのが身に染みてわかりますね。コレを七時間とは訓練されたドMの人でも一瞬でセーフワードを連呼するレベルですよ)

「アンタは妙な部分詳しいわよね。なんでセーフワードって単語が簡単に出てくるのよ?」

(あの辺りは小学校のときに習う義務教育みたいなものなので。筆算を習うのと同じ時期に教頭先生から教えられますね)

「アンタは小学校の教頭に恨みでもあるの?」

(恨みはないですけど、真面になって欲しいなといまでも思ってますね。社会復帰を願って何度か手紙は書いたことがあります)

「マジモンの闇じゃない! 何やった教頭! いや、教えなくていいわ!」

(一言で言うのであれば、脳みその代わりにオムツが頭の中に入っているような人でしたね)

「連想できちゃう自分がイヤ! 芋ずる式にベビー用品が太ったおっさんにブレイブされていく!」

(最終的にファイブシンボルぐらいにはなりますね)

「完成形がマズイわ! モザイク必須!」

(……で、何時間ぐらい経ちましたか?)

「まだ一〇分も経ってないわよ。アホ会話に付き合ってあげるから絶対に保ちなさいよ。でないとワタシが死んじゃうから」


 いつもならここからさらに話題を広げることも容易なんですけどね。痛みあまり頭が回らないせいで、会話をぶった切って時間経過を聞いてしまいます。本当は正確に時間を計っている自分が一番よく知っているというのに、我ながらメンタルの弱いことです。

 それでも少しは同情して欲しいと思ってしまいますよ。別に火傷の再発は自分で選択したことなのでいいのですけど、一向に減ることのない獣さんたちに関しては泣き言のひとつも言いたくなるというものです。

 腐臭に釣られて継続的にやってくるDHTGSさんに、テイマーさんの能力なのかネコさんもいつの間にか増えてますから、俗に言う無限湧き状態です。

 この世界にレベルという概念があるのなら、僕は超絶レベルアップしていることでしょうね。まあ、たぶんないでしょうし、後には引けないので御猫様と四の五の言いながら獣さんを倒しつつ、一〇分経過すればルルさんを特定しバリアを付与。呪いが危険領域にまで達したら自分を完全回復するという作業を繰り返していたのですけど、呪いによる火傷の再発が発火へと変化し、噴き出してくる脂汗にも慣れてきて、日も沈みそうになった頃に事件は発生しました。


(――緊急事態です御猫様。非常にマズいです)

「なによ、まだ腰までしか火が来てないから、もう少し我慢しなさいよ」

(違います)

「じゃあ何よ?」

(……便通が、来ました)

「…………一大事!」


 御猫様もこの非常事態を理解してくれたようで目を見開きましたね。

 それでも生理現象は待ってくれることはなく、僕はとりあえずスポーツ選手がアップして体を慣らすように、便通を促すためのガスの噴射欲求が襲ってきました。


(ちょっと、とりあえずオナラはしていいですか? 一発ほどスタンバってるんです。もうクラウチングスタートで言うところのお尻を上げている状態なんです)

「オナラぐらい我慢しなさいよ! もしくは能力で解消しなさいよ!」

(オナラに能力使うのは嫌じゃないです?)

「緊急事態なんだから仕方ないわよ! マラソンランナーも大会途中でトイレに行ったりするの! 苦肉の策として能力で解消しなさい!」

(でも出せばいいだけじゃないですか。ブッと一発、スッキリ爽快すればいいだけじゃないですか)

「下半身燃えてんだからガス出したら火炎放射になるわよ! おケツからファイヤーした奴になりたいのかしら!?」

(脇から生まれる人もいるぐらいですし、ヒップファイヤーする人がいても大丈夫じゃないですかね?)

「唯我独尊してたアイツに謝りなさい! そしておケツから火炎放射をプロレスの技みたいに言うんじゃないわよ! 少しかっこよく思えちゃうから!」

(だったら大丈夫だって! やってやるって!)

「その伝わりづらいネタとオナラはやめなさい! もしかしたら後ろにいる連中に飛び火する可能性もあるから!」

(……それはたしかにそうですね。仕方ないので能力で消します。あと便も能力でどうにかしましょう)

「……言われてみれば便通そのものも能力でどうにでもできるじゃない! 問題なかったじゃない!」


 こうして事件は事なきを得たのですが、次に問題なのはルルさんの運ぶペースです。僕にできる限りの身体強化はしているんですけど、まだ残り八人も残っています。


「それにしてもルルはサボってるんじゃないでしょうね? まだ半分しか運べてないじゃない」


 言い方はアレですけど御猫様も同じ考えのようですね。せめて守る対象がいなくなれば気持ち的に余裕が生まれるんですけどね。邪魔が入ったなどの報告は受けていませんし、単純な運ぶスピードの問題でしょうから、こればかりは願うことしかできませんね。

 ――と、そのとき! というバラエティー番組でありがちなテロップを出したくなるほどのナイスタイミングでリルさんがゆっくりと体を起こしたのです!


(これは、朗報ですね)

「ナイスよ! さすが姉ね! 大事なところで来てくれるわ!」

(……ああ、お姉ちゃんが来――)


 御猫様の発言から連想したタイトルを口走りそうになった瞬間、背後からDHTGSさんが一匹ほど襲い掛かってきました!

 焦りつつも即死ビームで倒すことができましたけど、痛みのせいで頭の回転が落ちていることに気を付けろと言わんばかりのアタックでしたね。自分の軽率な行動を注意してくれたことに感謝すら覚えます。


「獣の方が著作権の重さについて理解してるようね」

(返す言葉もございません)


 御猫様からの追い打ちもあったことですし肝に銘じておくとして、現状を好転させるためのキーパーソンであるリルさんはというと、


「……ねむい」


 その一言を残して再度夢の国へと旅立ってしまいました。


「寝たあああああああああああああああ!? この状況で二度寝しやがったわよアイツ! ふざけるのも体外にし腐りやがりなさいよッ!」

(低血圧なんですかね)

「知ったこっちゃないわよ! この危機的状況で二度寝とかどんな神経してんのよッ!」

(まあ、低血圧なら仕方ないかと)

「低血圧のヤツに過保護すぎるのよアンタ! 普通なら戦場のド真ん中で意識取り戻したら緊張感でお目目なんてすぐさまガン開きするもんなのよ!」

「……っ、ぅぅんっ、――ッ!」

「そう! まさにあんな風に!」


 リルさんが眠るのと入れ替わるかたちで跳ね起きたシンさんを指さす御猫様。

 これでシンさんが低血圧であるのなら論破されたことになりますけど、違っていたのならやはり低血圧であるのなら仕方ないという結論に達すると思うんですよ。

 なので確認しようと思ったんですけど、その前に周りを見回して状況を迅速に把握したシンさんが問いを投げてきたのです。


「どうすればいい?」

(できる限り皆さんを目的地に連れて行ってください。他のことはすべて僕がやります)

「わかった!」


 低血圧の是非よりも遥かに重要なことを訊かれたので指示を出すと、シンさんはうなづいて傍らにいた二人をわきに抱えると目的地へと走り出しました。

 これには御猫様も大満足のご様子です。


「弟! 素晴らしいわ弟! 姉より優れた弟は実在したわ!」

(低血圧かどうかは確認できませんでしたけどね)

「もうどうだっていいでしょそれ! 事態が好転したってことだけ呑み込めばいいのよ!」

(…………真面目ですね。ボケなしですか?)

「なんでワタシが悪いみたいな言い方されなきゃいけないのよ!?」

(だってバリアも身体強化も二人分になったことによる呪いの悪化で痛みが増大したんですもん。話してないと意識飛びそうになるんですよ)

「燃え上がる速度も目に見えて早くなったわね。さすが私の呪い!」

(さすがの僕も激痛によって余裕がないときに誇られるとムカつくので、一緒に燃えますか?)

「すいませんごめんなさいゆるしてください」

(早口言葉に成功したら許してあげます。お題は『かえるぴょこぴょこ』です)

「かえるぴょこぴょこみぴょこぴょこ、あわせてぽっ……ぴょこぴょこむぴょこぴょこ」

(ぽぴょこ?)

「ぴょこの上位互換よ。むぴょこの一段階下に当たるわ。知らなかったのかしら?」

(ぴょこに段階があることにまず驚きなんですけど、目の前に出てきた彼の方がもっと驚きですね)


 救助員が一人増えたからか、はたまた僕の発火スピードが増したからなのか、テイマーさんは勝負を仕掛けてきたようで、ネコより一回りは大きい真っ白な見たこともない生命体を僕たちの目の前に召喚してきました。

 首部分から段々と肥大化したクチバシの付いた大きな頭部に真ん丸で小さな胴体。手足は少し曲がった針金と形容するのが適切であろうほど細長いですね。

 そして何より一番特徴的なのは目です。鉛筆でぐりぐりと塗りつぶしたような真っ黒な目。総じて言えることが、見た目は幼稚園生が考えつきそうなバケモノの絵と言ったところでしょうか。

 普通なら歩くことも不可能なはずの体のバランスをしていますけど、ホバー移動でゆっくりと近づいてきています。時速にすると三キロぐらいですかね。

 そんな巨大獣さんを目にして御猫様は言ってきます。


「合成獣ってやつでしょうね。こんな生命体、この世界でもいないはずでしょうから」

(テイマーさんのとっておきってところでしょうかね)

「そう判断して差し支えないと思うわよ。だから殺すんじゃなくて消しときなさい」

(そうですね。申し訳なく思いますけど、エルフの皆さんを守るためです)


 襲ってくる獣さんたちを倒すのと同じ流れで僕は合成獣さんにもビームを放ちます。

 そのビームは即死ビームの上位互換とも呼ぶべきものであり、回避することもなく直撃した合成獣さんを塵ひとつ残さず消滅させました。


「ギゼンビームって名前にしましょう。撃つ前の口上も含めてひとつの技ってことで」

(反論の余地ないですけど、恥ずかしいので却下します)

「苦節一日、やっと口論でワタシは勝利した!」


 ウィークポイントを貫かれたことにより白旗を上げると、御猫様は僕の頭上でガッツポーズを決められてしまった直後、作業のように撃っていた即死ビームが単なる飛んでいく斬撃のようなものに変わり、DHTGSさんを縦に真っ二つにしたのですが、まるで最初から二頭だったように生命活動を継続して襲ってきました!


「ここにきて新たなギミック出してきてんじゃないわよ! アンタもなに即死ビームじゃなくて普通にかまいたち飛ばしてんのよ!」

(すいません、ギゼンビームというネーミングがあまりにも的を射ていて、羞恥心を刺激されたせいで能力が狂いました)

「手元みたいに狂う能力じゃない――って、一匹が行ったわよ!」


 初めて背後を取られ、後ろで寝ているエルフさんたちに襲い掛かるダブルヘッドではなくなったツイングラウンドシャークさん!

 それと同時にもう片方のツイングラウンドシャークさんも僕を襲ってきており、僕は咄嗟に両手から同時に即死ビームを放ってしまいました!

 焦りが招いた最悪の事態! エルフさんの方はどうにか照準どおりに向かってくれましたが、僕に襲い掛かってきた方のツイングラウンドシャークさんには当たることなく、遠くにいた一匹のネコさんに直撃しました!

 このままでは食い殺されてしまう! その焦りが僕に機転を利かせる結果となり、咄嗟に口から即死ビームを発射して倒しました。俗に言うゲロビですね。

 難を逃れることができましたけど、ミスにより危機に瀕してしまったので、御猫様からは叱責が飛んできます。


「だから複数攻撃はランダムになるって言ったでしょう! 焦らずに少しだけずらして攻撃しなさい! そうすれば単体攻撃にカウントされるわ!」

(システムの穴を突いた運営が想定していない行動ですね! 下手するとBANされますよ!)

「付け入られる穴に気づけない運営がバカなのよ!……誰がバカよ!」


 自分で自分を馬鹿にしたことに自分で気付いて僕を肉球で叩く御猫様。パワハラというのはこういう構図で動いているのだろうと思いながら、また僕たちは長い無駄話を続けつつルルさんとシンさんの帰りを待っていました。

 ……ええ、それはもう長い時間待っていましたが、二人とも二時間もの時が過ぎても影すら見せず、それでも僕たちは待ち続けています。

 そんな二人にさすがに不信感を感じ始めていた頃、もう日の光などはなく月光と僕の体を燃やしている炎だけが明かりとして機能し、獣さんたちも夜目がきくようで日中と変わらず襲ってきているなか、久しぶりに一匹の獣さんがご登場してきました。


「同じ轍は二度踏まないと証明したかったんでしょうね」


 御猫様の言うように久しぶりのご登場である獣さん――合成獣さんは登場するなり周囲の獣さんたちに食い殺されてしまいました。

 有名な次鋒の方を彷彿とさせる即死ですけど、合成獣さんの場合はこの死んだあとからが真骨頂を発揮できるようで、グチャグチャになった亡骸から何やら夜でもわかるほど濃い赤色の霧が噴出してきました。


(見るからに当たるだけでも危険そうな色をしていますね。周りの獣さんたちも近づこうとしませんし、毒ガスだと判断して差し支えなさそうですよ)

「当初の予定では、倒したのを後悔させて精神的ダメージも与える予定だったんでしょうね。デカい、遅い、攻撃してこないの三拍子そろっていたから、最初からそんなことだろうとは思っていたけどね」

(ドジっ子属性ですね。似た者同士、思考はトレースしやすいんですかね)

「あとで八倒すから、目の前のPM2.5の濃度が高そうなアレを向こう側に吹き飛ばしなさい!」


 PM2.5というより黄砂の方が近いのではないかと思いつつ、僕は風を操作して赤い霧を獣さんたちのいる方へと吹き飛ばしました。

 その結果、あれだけ多くいた獣さんたちは霧に少しでも当たった直後、苦しんだ後に亡くなってしまいました。

 十中八九毒だと思っていた僕でもこの結果は想像以上だったので、何か申し訳なさが顔を覗かせてきて、御猫様に問いを投げてしまいます。


(……なんというか、良かったんですかね?)

「いいのよ。ひとつの事に固執する奴っていうのは、それが基本穴だらけな作戦だろうとも遂行したがるの。そのくせ失敗するとキレ散らかした挙句、また同じことを繰り返すわ」

(まるで自分を見ているようだわ)

「勝手にモノローグを付け加えるんじゃないわよ!」


 これだけ長い時間話しているのに御猫様ってば、まだまだツッコミのキレは衰えていませんね。この奮起にルルさんとシンさんも応えて欲しいという願いが届いたかどうかは定かではないですけど、やっと二人とも帰ってきてくれました!

 とはいえ、さすがに時間がかかりすぎているので、少しは叱責せざるを得ない……と、思っていたんですが、その後ろに続けて現れた二人を目にした瞬間、僕の脳裏に昨日の記憶が過りました。

 一人はいいのです。見るからにガタイが良く、力持ちそうな男性のエルフさん。きっと助っ人として呼んできてくれたのでしょう。彼だけであれば説得に時間がかかったのだなと思って叱責は免除するつもりだったのですけど、もう一人ほどその後ろから小さな人影が現れたのです。

 身長は一四〇センチ行くか行かないか程度で、近づいてくるにつれて顔も明確に視認できるようになり、服装などは変わっていて武装もしていますけど、見まごう事なきアルさんでした。


(……作戦成功直前に子供、もしくは恋人が介入っていうパターンって、そのあとどうなるか想像しやすいとは思いませんか、御猫様?)


 脳裏を過った昨日の記憶――御猫様が言っていたフラグについて。その講座を受けていた僕には嫌でもこの先の展開が予想できてしまっており、いちおう先生にもお伺いを立てたところ、大変お怒りのようでひとつの単語を叫びまくっていました。


「ファ×××! ×××キン! ×ァッ××!」

(御猫様、コンプラですよ、コンプラ)

「知ったことじゃないわよクソッタレ! 最悪だわ! 何してたのかしらワタシたち! 最初にチビスケを運んだのなら、一緒にアイツも連れて行かせるべきだったのに! フラグ、なんて恐ろしいの!」


 フラグの魔力の恐ろしさを体感している僕たちの背後には、未だに運ばれていないミアさんが気を失ったまま横になっています。

 たぶんですけど、これほどルルさんとシンさんが戻ってくるのに時間がかかったのは、ミアさんを心配したアルさんを説得しようとしていたからなのでしょう。しかも二人が折れるという結果となってしまった。

 守り続けていた僕と御猫様も気付いていなかったという落ち度はありますけど、子供を戦場に連れてくるというのは普通しません。これがフラグの魔力だとするのなら、僕もフラグ撲滅委員会に入ろうと思います。危なそうな伏線とかぶっ壊していきますよ絶対!

 ですがそれは後々のこと。今回のフラグは既に回収されかけているせいで、一匹のDHTGSさんが一番後ろを走っているアルさんに襲い掛かったではありませんか!


(言ってる傍からコレですか!)


 咄嗟に僕はアルさんに襲い掛かったDHTGSに標準を合わせますが、その射線上にはさっきまでたしかに寝ていたはずのミアさんが全力で走っていました!

 愛する人が危機に瀕する直前に目を覚まして、即座に行動するというのは、ある意味でご都合展開と言ってもいいかもしれませんが、この場合はあまりにも嬉しくないご都合展開です!


「バカヤロオオオオオオオオオオオオ! どこを走ってる! ふざけるあああああああああああああ!」


 御猫様の全力の雄叫びと共に僕は体制を少しずらして、間に合うよう願いながら即死ビームを放ちました!

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