森の王
グルォォオオオ!
全長15mは超えるであろう巨大熊と対峙している。
あれから2年は森の中で住み、コツコツとレベルを上げていった。
2年前、俺を震え上がらせたロックボアの上位種ロックボアキングは1年前に倒せるレベルまで上がっていった。
目の前にいる奴がこの森最強と思われる個体だ。
ノーブルベアの上位種であろう個体。
種族名は分からないが、紅い毛皮を身にまとい、硬く黒い爪を生え揃え、怒りを宿した目で俺を睨んでいる。
ブホォオッ
吐き出された息は熱いのか白い煙として空気に溶けていく。
「シャドウワープ」
ドプンッ
地面に潜り込んで奴の背後に回る。
「ブラッドハルバード」
ザシュツ
幾度も攻撃をしているが毛皮が固く大したダメージが与えられていない。
ガォオオオオ!
周囲の空気を振るわせる咆哮が響き渡る。
1年前に現れた恐怖耐性のお陰で脚がすくむ事もない。
ゴフッ
巨大熊の口から吐血の症状が現れた。
「血毒が回ってきたな」
これも1年前に毒キノコを食べた所で毒耐性(Lv3)と血毒(Lv3)のスキルを取得した。
当時は胃が焼ける痛みに悶え苦しんだが良いスキルを手に入れる事ができた。
血毒は血の中に毒を潜り込ませるスキルだ。
レベル3となれば毒状態になれば徐々にダメージを与える物だ。
俺は何度も切りつけるのと同時に血毒を相手の体内に送り続けていた。
ゴボボボッ
血液、魔力が続く限り攻撃を続けて巨大熊が倒れた。
俺の攻撃は殆ど通らなかったのだから死因は毒による物だろう。
「早速」
ガブリッ
ビリリッ
血を飲もうとした瞬間、喉が焼ける感覚に陥った。
「あっがっ、!?」
ジュォオオ
口から煙が出て混乱する。
「いだ、い」
【ノーブルベアキングの体内は濃密な毒が回っています】
早く言えよ!
【毒耐性でも中和できません。ダメージを受けます】
体力が減っていくのを感じる。
【レベルが規定値を超えました。進化条件を満たしました】
こんな状況で進化!?
レベルが20になったら進化するのかよ。
【ハーフヴァンパイアからレッサーヴァンパイアへと進化します】
ドクンッ
【進化中に異常発生。異常物を取り込んだまま進化が強制的に発動しました】
止まらないのかよ。
ドクンッ
胸の鼓動が大きく跳ね上がり、喉の痛みが引くのと同時に意識を手放した。
パチッ
「俺は一体・・・」
そういえば進化が如何とか・・・
ズキッ
痛っ
角付近から痛みが走る。
ポロッ
「んん?」
耳の上にあった角がポロリと外れた。
「なんで?」
【進化が完了しました。バイオラヴァンパイア・バリアントとなりました】
「バイオラヴァンパイア・バリアントってなんだよ」
【毒に特化したヴァンパイアの亜種です】
「能力は?」
【毒無効、常時毒攻撃が発動します】
「消費するものは」
【最初から備わっているので無いです】
「弱点は増えたのか?」
【力は通常のヴァンパイアより劣ります】
「レッサーとか言ってなかったか?」
【バイオラヴァンパイア・バリアントはレッサーヴァンパイアと同格です】
「ヴァンパイアとしての弱点とかあるのか」
今まではハーフだったから気にしていなかったが・・・
【光弱点、水弱点、銀弱点が増えてます】
どこかの伝承に出てくる吸血鬼と同じ弱点か・・・
日中での活動今後は無理だな・・・あと水にも入れない。
銀製品は追々でいいだろう。
「髪の毛も伸びたのか」
ムニュンッ
前髪を触ろうとして手を持ち上げたら柔らかい物に触れた。
「え?」
下を向けば小振りながら双丘が出来上がっていた。
「女・・・俺、女だったのか!?」
2年もこの体だったが知らなかった。
いや、排泄もしない体だから気にもしなかった。
「下は無い・・・上は有る」
今は月夜だから泉まで来て自身の姿を映す。
顔立ちは少女が水面に写っていた。薄い青の髪を肩口まで伸ばしている。
八重歯は牙と言っても差し支えなく鋭く伸びている。耳の上に生えていた角は深紅に染まり斜め後ろに向かって生えている。
進化して体の成長も遂げて150㎝位で薄紫色の肌をしてスラっとした体系をしている。
「これは、中々」
男目線で言えば美少女といってもいいだろう。
2年前に見た人間の女性も美人の部類だったがその上を言っていると思う。
「ローブだと武骨すぎるな」
グニャグニャッ
【ブラッドドレスを取得しました】
赤黒いシンプルなドレスを作り出す。
性能面はローブと同じだ。
【森の王を倒した事により、ベアリアルの森を支配領域にします】
「支配領域?」
【強い個体が一定の領域を支配している事を指します。先ほどまで森の王”ベアリアル”を倒したことによって森の支配権が主に移りました】
「ここの支配者だったのか・・・どおりで」
強かったわけか。
「と、いう事は俺に逆らうモンスターは近くにはいないって事だな」
【支配領域に住まうモンスターからの攻撃権限は与えておりません】
「つまりは安全地帯の確保だな!」
【限りなく安全地帯でありますが、他の支配領域からの攻撃はあります】
「他にも支配領域があるのかよ」
【この森の規模は世界で言えば下の下です】
「うぇ・・・もっと強い奴らがいるのかよ」
【このまま他を支配すれば安全度は増します】
「その代わり危険度も増すんだろ」
【是】
「お隣が飛竜の支配領域だしな」
南の草原は飛竜の支配領域だと確信する。
【南の草原は飛竜の狩場ですが、飛竜の支配領域ではありません】
狩場も支配領域ではないのか。
【狩場も支配領域にしてしまうと他のモンスターが入り込めなくなります】
なるほど、フリー状態にする事で餌が自ら入ってくるように仕向けているのか。
ロックボアキングが飛竜の狩場に入れたのはその為か・・・
「この中なら比較的安全なら良いか」
俺は塒に帰って眠る事にした。