探究者
まず、ポイズンヴァンパイア・バリアントという種族が生み出す毒を確認する。
手始めにホーンラビットに毒を送り込んでみる。
1分もしない内に症状が現れて、泡を吹いて絶命する。
ジュルルルッ
毒の含んだ血を飲みながら何で死んだのか考えてみる。
俺が自然と作り出している毒は即死効果はない。
浸食していくタイプの遅効性の毒というのは見て分かった。
「う~ん?」
ここからは解剖学の出番というわけで、ブラッドナイフで死亡したホーンラビットの腹を開く。
普段は捨ててしまうが自身の作り出した毒がどんな影響を与えて死んでいるのか見る為だ。
毒を受けていないホーンラビットと見比べてみる。
「内蔵の殆どが毒に侵されているな」
血管を通った毒は内蔵をピンク色から紫色に変色させている。
つまり内蔵に大ダメージを与えて殺す毒を送り込んでいるようだ。
「脳は普通だな」
頭蓋骨を割って、脳へのダメージも見たが毒の影響はなかったようだ。
「次は」
個体毎による毒の影響範囲だ。
ノーブルウルフ、ロックボア、ノーブルベア、ロックリザードにも毒を送り込んで死亡するまでの時間や何処まで影響を与えているのかを確認する。
「個体差は出るか」
同じモンスターでもレベルが高い方が死亡するまでに時間が掛かった。
また、上位種族の方が毒への抵抗力を持っている事が判明した。
何時までも毒状態ではなく時間経過と共に中和している様だ。
「ここまでが俺が自然と作り出している毒か」
1ヶ月かけて何百回という実験で判明させた。
「次に毒は何処からやってくるのかが」
呼吸と同じように自然と毒は作られている・・・コレが制御できればもう一段階強くなれるような気がした。
「導きの声。毒魔法と血毒の違いは?」
【毒魔法は魔力にて毒を生成する魔法です。血毒は血の中に毒を含むスキルです】
「魔法とスキルの違いは?」
【魔法とは魔力を消費し現象を引き起こします。スキルとは自然と出来るパッシブスキルの物、自らの意志で使いこなすアクティブスキルで分類されます】
「血毒はパッシブスキルの部類か?」
【是】
「それを覆す事は可能か?」
【質問の意図が分かりかねます】
「パッシブスキルをアクティブスキルに出来るか?」
【可能の物は御座います。血毒もその一つです】
常に毒を送り込んでしまうと面倒な部分がある・・・血を吸う時に毒が邪魔をするからな。
「アクティブスキルとは?」
【自らの意志で発動する武技です】
「・・・アイツの使っていた物か?」
2年前に遭遇した隊長格が使っていた技、一気に間合いを詰めてこれたのはそういう事か。
「武技か・・・魔法も武技なのか?」
【いえ、自らの意志で発動させるアクティブスキルの中に武技と魔法に分かれるのです】
つまり、前衛職の武技と後衛職の魔法という訳か。
【是】
「このパッシブスキルをアクティブにか」
自然としている呼吸を無理やり意識して呼吸するような物だ・・・。
「血の中に毒を混ぜて相手に送っている事は分かったが、常に毒が俺の中で巡っているのか?」
【いえ、必要な時に毒が生成する臓器があります】
「毒袋みたいな感じか」
【是】
意識して、その臓器をコントロールするのは難しいぞ。
普通に生きていくうえで内蔵をコントロールするなんて簡単に出来ない・・・だが、ここはファンタジーな世界だ。
「魔力が何とかするだろ」
スゥウウ、ハァアア
体中に巡る魔力に意識を集中させる・・・さぁ、毒を作る場所は何処だ?
「・・・ここか?」
下腹部のちょい上辺りに毒の強い反応があった。
「ここで作っているのか?」
血を操作する事が出来る俺だから自身の内蔵を把握する事も出来た。
普通は無理な芸当だろうな。
【ブラッドセンサーが取得されました】
新たな魔法が出て来た。
「どんな効果なんだ?」
【自らの血を操り探知する魔法です。血を霧のように分散させて範囲を拡大することも可能、ただし魔力消費が増えます】
「なるほど」
思わぬ副産物だが使えそうな魔法だ。
「・・・ふむ、分からん」
内臓の場所が分かった所で勝手に毒が生成される臓器を如何にして操作するという事が出来ない。
そもそも脳が勝手に処理して毒を作って血に混ぜているんだからな。
自分の意志とは関係なく使ってる脳の機能をどう操作しろと?
「導きの声、魔法の種類に肉体強化等はあるのか?」
【無属性が該当します】
たしか、自然現象にならない部分が無属性に分類されると言っていたな。
「魔力察知」
俺の周囲30mの魔力を見つけるパッシブスキルを使用する。
「俺も居るな」
俺の魔力も中心にある事を再認識する。
ブラッドホーンラビット・・・
ビュオッ
血液と魔力を消費してブラッドホーンラビットを作り出す。
「変化」
ラビット型からウルフ型、ボア型、ベア型、リザード型へと形を変えていく。
血を操る魔力を普段より詳しく感じる中での操作だ。
【魔力操作(Lv1)を取得しました】
「これは?」
【魔力操作は魔力を自らの意志で操りやすくするスキルです】
「今まで発生しなかった理由は?」
【条件が達成していなかった為です】
フゥゥウッ
深呼吸をして再びブラッドアニマルズを操る。
確かに血も魔力も操作しやすくなった。
「これなら」
ブシュッ
もう一つのブラッドアニマルを作り出してラビット型とウルフ型の2つを同時に操る。
【血操術(Lv2)になりました。魔力操作(Lv2)になりました】
暫くして2つのスキルがレベルアップする。
「この魔力を浸透させて」
血での操作を止めて魔力のみを操り腕に纏わりつかせる。
「そのまま殴る!」
ピシッ
木に向かって魔力を纏わせたまま殴ると罅が入った。
「これじゃない」
今のは魔力で木を叩いただけだ・・・。
【血操術(Lv3)になりました。魔力操作(Lv3)になりました】
1週間は血操術と魔力操作を鍛錬していった。
【マナインパクトを取得しました】
「ってなんだよ」
【魔力だけをぶつける無属性魔法です】
「欲しいのはそれじゃないんだよな」
だが魔力操作レベル3の恩恵で随分操作しやすくなった。
魔力・・・これは一種のエネルギーなんだよな?
【・・・】
沈黙とは珍しいな。
導きの声は反応しなかった。
「まぁいい」
この魔力はエネルギーと仮定して俺はこの1週間は腕表面に纏わりつかせていただけに過ぎなかった。
俺の想像するのは腕の筋力をアップさせる魔法だ・・・バフ効果と言っても良い。
「なら内側からならどうだ?」
今までは一度放出した魔力を身に纏わせていた・・・なら体内から腕に留まらせるのはどうか?
魔力を放出する時、手から出るのを意識的に止める。
【腕力上昇を習得しました】
「おぉ!」
魔力が内側から浸透して腕全体が温かくなってきた。
「これも無属性だよな?」
【是】
「この調子で色々と試してみるか」
【脚力上昇を習得しました】
腕力と脚力の効果は?
【腕力は一時的な攻撃力や防御力を上昇させます。脚力は一時的な速力と跳躍力を上昇させます】
この調子で・・・毒袋に魔力を浸透させる。
「ぐぅう」
下腹部が温かくなり、何とも言えない気持ちになる。
【毒生成(Lv1)を取得しました】
「っはぁ! はぁ!」
【毒生成とはあらゆる毒を作り出すパッシブスキルです】
「レベル1は何が作れる?」
【現在生成している、内蔵にダメージを与える毒です】
「糸口はつかめたな」
ようやくスタートラインに立ったような物だ。
それから、ひたすら毒生成のレベル上げをしようとしたが今までのようにレベルは上がらなかった。
「導きの声、レベルを上げるにも条件があるな?」
【是】
「それは経験以外も条件に入るのか?」
【是】
やはりか・・・これまでのスキル取得の傾向から経験以外も含まれていた。
俺の毒スキルは毒キノコを食べた事から始まった・・・つまり毒を体内に入れるのも取得条件だ。
であれば他の要因で引き起こすしかない・・・例えば他の異常状態を受ける事が条件になっている可能性もある。
「探しに行くか」
毒キノコに変わる異常状態を受けられる何かを・・・