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侵入者

ピッ


日中は殆ど眠っているが、夜は活発的に動いている。


そんな中、森に侵入者を知らせる感覚が起こった。


支配領域での出来事は俺に流れ込む仕組みだ。


元々住んでいるモンスターなら問題ないが、外からきた侵入だった場合は直ぐにわかる。


時折、人間達が森に入ってくるが早々奥まで侵入してこない。


「この速度は馬か?」


人間の出せるスピードよりも速く移動している。


「それに森にいない気配が多数」


ノーブルウルフ、ロックボア、ノーブルベア等のモンスターとは違う反応が多数ソレを追いかけている様だ。


ノーブルベアの縄張りを横切っていく馬に反応してノーブルベアが襲い掛かり始める。


馬も追いかけてきたモンスターも敵と認識して乱戦となる。


俺が到着する頃にはノーブルベア5頭に囲まれた集団が立ち往生していた。


近くにはバラバラになった木片や車輪の破片。


数頭分にもなる馬の死骸が転がっている。


夜という時間はモンスターを凶暴化する上にノーブルベアの縄張りに入れば当たり前の光景になる。


5人のプレートアーマーを着込んだ騎士風の男達とメイド服の女性と豪奢なドレスの少女が震えている。


「自然の摂理だしな」


興味を無くして塒に戻ろうと踵を返す。


ザシュッ


キャァア!


豪奢なドレスを着込んだ少女がノーブルベアの攻撃を受けて肩を深く傷を負う。


フワッ


血の匂いが俺の鼻へと運ばれてくる。


ドクンッ!?


嗅いだ瞬間、心臓が跳ね上がった。


「なんだ?」


傷ついた少女が目に再び入り、再び心臓が跳ね上がった。


ドクンッドクンッ


今までにないほど鼓動が早くなる。


「なんなんだ、この旨そうな香りは」


この2年間、血の匂いは腐る程嗅いできた。


なのに嗅いだことの無い血の香りに俺の視線は少女に釘付けになる。


ギギギッ


牙が無意識に伸びて吸血衝動が俺の体を巡っていくのが分かる。


ブワッ


魔力が溢れて足が自然に進んでいった。


グルルッ


『な、なんだ?』


囲まれていた騎士の4人が急に攻撃をやめたノーブルベアに怪訝な顔をした。


グルルォン


ひと吠えするとノーブルベアの群れは去っていった。


『助かったのか?』


『隊長、姫さまが!』


『姫様、お気を確かに!』


『ポーションを』


『ノーブルベアの爪を受けたんだ、解毒ポーションを掛けてからだ』


カチャカチャっ


傷を受けて気絶している姫の治療に入る。


3人の騎士は大小の傷を負うも周囲を警戒する。


パキッ


『誰だ!』


一人の騎士が松明を音のした方向に向ける。


『女の子?』


一見、女の子が現れた様に見えた。


『馬鹿! モンスターだ!!』


『こんな森に人型のモンスターだと!?』


『あの姿、魔族だ!!』


『この森に魔族だと!?』


『あの目は魔族の証・・・陣形整えろ! お前は姫様の治療を続けろ』


騎士たちは5人で陣形を整えて臨戦態勢に入る。


シュォオオ


メイドが姫に薬液をかけて治療を施す。


傷跡も無くなるほどの治療薬だったようで出血も無くなる。


ドクンッ


トクンッ


血の香りが薄れていき俺の意識が正常へと戻っていく。


俺の中にある吸血衝動が強く意識が殆ど持っていかれていた。


『この化け物め! 姫様には近づかせん』


『隊長! 我々が押さえます。その間お逃げください!』


『いくぞ、化け物!!』


3人の騎士が各々の武器を掲げて突っ込んでくる。


「ブラッドハンマー」


『『『ぐぁあああ!』』』


暗闇から突如現れた巨大なハンマーが3人の騎士を纏めて横薙ぎに吹き飛ばす。


朦朧とする中、俺の防衛本能が魔法を使ったようだ。


『お前たち!? サム、2人を頼めるか!!』


『隊長!?』


『この中で一番若いのはお前だ。2人を抱えて森を抜けろ。これは隊長命令だ!』


『くっ。メアリー、姫様を』


『はい』


サムと呼ばれた騎士は気絶している姫を抱えると南に走り去っていた。


その後ろにメイドが追随する。


『魔族の化け物め。ここは通さんぞ』


シュォオッ


隊長と呼ばれた騎士から魔力が漏れ出る。


武技アーツ:疾走!』


ギョッ


一瞬にして俺との間合いを詰めてきて驚く。


「ブラッドハルバード」


『なんの!』


地中から生やしたハルバードを軽く避けて迫ってくる。


武技アーツ:光剣三連』


魔力を纏った剣が光り輝き、一度の振りで3つの軌跡を発生させる。


複数魔法の様な効果を持っているのか?


「ブラッドクロー」


俺も複数魔法を発動して爪の三連攻撃を使う。


ギギィンッ


剣と爪がぶつかり合い互いに弾かれる。


『私の武技が・・・魔族とはこれほどまでに』


「ブラッドハンマー」


巨大なハンマーが出現して隊長は死を覚悟する。


ドッ


強い衝撃を受けて意識が断ち切られる。


「この体は強いな」


相手の言葉が全然分からなかったが、あのシチュエーション的には高貴な貴族を護衛している騎士って所だな。


その騎士に勝てるという事はLv1でも中々の強い個体だっていう事だ。


「さてと」


気絶した騎士4人をどうするか考える。


普通なら侵入者に容赦なくその命を貰い受けるのが自然の摂理ってやつだな。


「だが」


こういうシチュエーションで騎士4人が行方不明になったならこの森に調査する人間が来るであろうことは明白だ。


そうなると困る・・・人数が少ないなら対処できるが数は力だ。


「捨てるか」


4人の騎士が途中で起きて暴れても困るから武装解除する。


カチャカチャッ


1人目の武装解除が一番時間が掛かったが4人の武器防具は取り外した。


最初に向かってきた騎士は30代の男達。最後の魔法スキルを使ってきた男は40代だと外見で判断する。


「この世界の男も美形なんだな」


無精ひげを生やして何日も風呂に入っていないのか匂うが顔立ちは全員整っていると思う。


「ほぅほぅ、騎士だけあって鍛えているな」


気絶中の男達は全体的によく鍛えられている筋肉を持っている。


「俺も男性型が良かったな」


残念、女形なんで目の前のシックスパックは自前では持てなさそうだ。


「さてと、捨てに行くか」


ハンマーで怪我はしている様だが自業自得だろと思い4人を血を操って森の外である南側へと運ぶ。


「情けだ」


ロングソードだけは4人の傍らに置いて防具だけは貰っていく。


・・・


『隊長! 隊長!!』


朝方、森に近い所で気絶していた4人の騎士の傍には先へ逃げていた騎士、メイド、姫の3人が合流していた。


飛竜の狩場と恐れられる草原を横断するのをためらった3人は朝まで待ち、気絶して倒れている4人を発見した。


『おぉ、姫様。また会えるとはここは天国か?』


隊長の男は見る事もかなわないと思っていた主君の顔を見て呟く。


『アルフォンス。何をバカなことを言ってますか』


『では、ここは一体』


『隊長! 助かったんですよ』


若い騎士サムは涙ぐむ。


『俺達はどうして?』


『分かりません。あの化け物が見逃してくれたかと』


『そうだ、あの魔族は』


ズキッ


アルフォンスは右肩を押さえてる。


『アルフォンス、ケガをしているのです。ポーションはもうありませんし』


『これ位の傷・・・この程度なのか?』


アルフォンスは受けたダメージが軽微すぎると疑問に思う。


『防具がない』


今更防具が無い事に気づく。


気絶している3人の騎士たちも防具を剥がされている事に気づく。


あるのは騎士剣だけだった。


『他の3人が目覚めたら移動を開始しましょう』


『それにしても、あの魔族は一体』


『ベアリアルの森にあんな化け物が居るなんて聞いたことがない』


『この森で何が起こっているんだ』


『その件は後回しにしましょう』


1時間もしない内に気絶から回復した騎士3人も起き上がり森伝いに徒歩で移動を開始していった。


その様子を俺は30m離れた場所から眺めていた。


「言葉が全く分からん」


何を話しているのかが理解できなかった。


「まぁ、思いがけない物も手に入ったしな」


騎士鎧4セットは塒に飾っている。


剣も欲しかったが武器無しでは辛いだろうと思い返してやった。


俺はホクホク顔で太陽が完全に顔を出す前にシャドウワープで塒へと帰る。


この時、5人の騎士が守っていたのは隣国サーペンティン王国第一王女のルーデシアであった。


数日前、サーペンティン王国は大規模な反乱が発生し国王は王女を逃がす為に同盟国へと十数人の騎士を護衛に送り出した。


逃げる途中で様々な障害が発生し、たった5人の騎士を残してベアリアルの森へと入っていった。


この数奇な出会いがどう出るかは神のみぞ知る。

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