93 世界一の宿屋に
邪竜の最後のあがきとも言うべき、この騒動。
戻ってくる大勢の冒険者たちを守りながら、無限に湧き出る魔物を倒し続けるだなんて、私たちにとっては容易いことだった。
「喰らうのだ、端裂斬り!!」
ミアのあやつる鬼斬り包丁が次々に魔物たちの体をスライスしていく。
南の島からやってきた戦う料理人。
私のせいで活躍を奪っちゃうことが多々あったけど、あの子もちゃんと強いんだよね。
「ミア、危ないのじゃ!」
背中をねらって斧で斬りつけてきた牛人間の攻撃に、プロムが反応。
すぐさま身をひるがえして、
「閃斬り!」
横一閃で斬り捨ててみせた。
「プロム、助かったのだ!」
「なぁに、お主は少々頼りないからの。ワシが見ててやらねばならぬじゃろ」
軽口叩きながらも、なんだかんだでミアのことが大好きなんだろ、プロムってば。
「がんばってるな、ミアのヤツ。アタシも負けていられないね!」
双刃の柄を合体させた長得物、新生『竜の牙』をふるって暴れまわるドラゴンメイド。
出会った時から安定の強さだったな、ガルダってば。
竜人転化に変わっても、強さはどうやら竜の時のまま。
火炎弾の代わりに刀身に炎を燃え上がらせて、モンスターを湧いたそばから斬り伏せていく。
「私たち、の間違いですよ、お姉さま!」
そしてアンタはいつからいたんだ、サクヤ。
ガルダの影、背中の死角をカバーするように動いて、クナイで次々に魔物の急所を撃ち抜くサマはまさにシノビ。
初めは苦手な子だったけど、今となってはとっても頼もしい存在だ。
みんなの戦いを実況しつつ、もちろん私もちゃんと戦ってるよ。
といっても、モンスターの魔力に反応して追尾する氷柱を適当に射出してるだけなんだけどさ。
これでもう、私の担当区域の魔物、勝手に死んでくからね。
そんな感じでしばらく戦い続け、帰還する冒険者もいなくなってきたころ。
とつぜん、止まらなかった魔物のリポップが終了した。
私たちの猛攻の前に、モンスターの大群はあっという間にいなくなる。
「むむ? これは……」
「どうやら終わったみたいですね」
「じゃな。さすがは我が妹じゃ」
ダンジョンの風景も、気づけば落ち着いてる。
どうやら一件落着、みたいだね。
みんなが一息ついたその時、私たちの中心、プロムの頭の上の空間に穴が開いた。
そこから落ちてきたのは、もちろん銀髪幼女エルコルディホ。
頭の上に開いた以上、
「ぐえっ!」
当然プロムは妹の下敷きに。
「な、なにするのじゃ……!」
「報告。作業完了」
「うん、お疲れ様。エルコだけじゃなくて、もちろんみんなもね」
邪竜が引き起こした最後の事件も、これにてキレイさっぱり解決っと。
さぁ、あとは街の人たちにも解決したって知らせて、それから――。
〇〇〇
「ふぃ~」
それから、やっぱりコレだよね。
最後はやっぱりみんなでのんびり温泉だ。
疲れをとるにはコレが一番。
そもそも私、入浴中だったわけだし。
「えへへ、ネリィお疲れさまっ」
あったかいお風呂の中でアイナになでなで。
いつもコレで全快するんだから、燃費がいいものだと我ながら思う。
「大変な事件だったのに、今回もあっという間に解決しちゃったねぇ」
「朝飯前、って言いたいトコだけど、私一人の力じゃないよ。私一人だけじゃ、事件の解決はできなかった。それだけは断言できる」
「その通りなのだ! アイナにも見せたかったぞ、ミアの八面六臂の活躍を!」
「お主、言うほど活躍したかの……?」
「心外なのだ! プロムこそ、ただ突っ立っていただけであろう!」
「なにをぅ!!」
なんだか痴話ゲンカを始めちゃったこの二人。
デリバリーを始めたころから数日くらい、気まずい雰囲気を感じていたけどすっかり元通りの仲良しだね。
「ま、力仕事なら極論ネリィ一人だけで十分なんだろうけどな」
「エルコさんのトラブルシューティングだけは、誰にもマネできませんよね」
「あの……、ワシは……?」
たしかにエルコの迅速なバグ修正、アレだけは他の誰にも、もちろん私にも逆立ちしたってムリなこと。
でも、一人じゃムリってのはそういう意味だけじゃないんだな。
「……戦力的な意味でなくてもさ、みんな私の支えになってる、私の大事な人たちだから」
ちょっと照れ臭いけど、ここはハッキリと言ってみよう。
みんな、私の力さえあればいいなんて思っててほしくないから。
そういうのって寂しいし、ホントのとことも違うもん。
「最たる例がアイナだよ」
「あたし……?」
「そ。アイナがいつも元気に笑顔でいてくれるから、私は心置きなく事件解決に乗り出せるし、いろんなことを考えられるんだ」
「ネリィ……。えへへ、ありがと」
いつも待ってるだけって、邪竜の時も見てるだけしかできなかったって言ってたアイナ。
前にも伝えてあげたけど、こうやって口に出すことでこの子が笑ってくれるなら、少しくらいの恥ずかしさもガマンできる。
「ネリィさん……。……そういうこと、口に出すタイプだったんですね」
「うっさい」
サクヤよ、茶々入れんな。
はぁ、アイナと二人だけの時に伝えるんだった。
「……さて、お風呂から上がったら営業再開だね」
「うんっ、午後からもがんばるぞぉ!」
「おやつの時間も夕食の時間も、ミアの料理が火を噴くのだ……!」
「火を噴くのか……、危険極まりない料理じゃな……」
「気合い入ってんな、ミア。アタシも負けずにメイド業務とアイドル業、どっちも張り切っていかないと、だな!」
「そして私は、そんなお姉さまを影ながらお支えします……!」
みんな張り切ってるねー。
じゃあここは音頭を取らせていただいて。
あったかい温泉と美味しい料理、かわいい若女将が出迎えてくれるこの宿を、世界一の宿屋にするために。
「森のみなと亭、午後からも頑張って行こう!」
――――――――――――――――――――
グラスポートの街
人口
7893人
施設
宿屋 鍛冶屋 食料品店 牧場
雑貨屋 武具屋 アイテム屋
冒険者ギルド 魔石店 服飾店
飲食店 土産物屋
観光・産業
ミスティックダンジョン
コショウの栽培(大規模)
コショウの輸出
アウロラドレイクの竜肉(期間限定)
ガルデラ・ドルファングのアイドル活動
地底都市
宿屋『森のみなと亭』
施設
本館 宿泊可能人数 100組
別館 宿泊可能人数 100組
三号館 宿泊可能人数 100組
食堂 550席 温泉・サウナ
巨大温水プール
平均宿泊客
1日に300組
平均食堂利用者
日に4000人
――――――――――――――――――――
ご愛読ありがとうございました。
本作はここで一旦の完結となります。
話の性質上無限に続けていくことができるので、ほのぼの系を書きたくなった場合、また再開するかもしれません。
なので一旦と表現させていただきます。
次回作はしばらく間を置かせていただいて、4月の初旬から始めさせていただければと思います。
湯沸かし勇者以上の殺伐系を目指しますので、また温度差がえらいことになりますが。
それでは、またお会いする日まで。
追記:新連載を開始しました。
よろしければ応援のほどお願いします。




