91 街長のお仕事
音がしたのはミスティックダンジョンの方からだ。
すぐに服を着て、中庭から一気にジャンプ。
飛んでる間に上空から状況確認。
すると、入り口のあたりから黒煙が立ち上っているのが見えた。
それから、何匹かのモンスターの死骸と武器をかまえてる冒険者たちの姿。
何が起きたのか、まずはあの人たちに聞いてみるべきだね。
ダンジョン前にスタっと着地。
冒険者は女の子の三人組だった。
私の姿を見ると、安心したように表情をゆるめる。
「あっ、『氷結の舞姫』……!」
「舞台の上で見せた天使のような歌と舞い……。まさに二つ名通りの……!」
「あの、私I`s dragonのライブ見ました! もう感動しちゃって、一生推してくって決めちゃって……!」
「はい、何が起きたのかさっさと教えて」
ホント、そこに触れるのだけはやめてくださいお願いします。
「あ、そうですね……。私たち、ミスティックダンジョンに挑戦しようとしてたんですけど……」
「ダンジョンに入ろうとした時、いきなり入り口からモンスターの群れが飛び出してきたんですよー」
――で、その後なんとか三人でモンスターを倒しきったらしい。
爆発音は魔法使いのメンバーの爆炎魔法だったようで。
「なるほどね……」
ミスティックダンジョンの異常なら、管理者であるプロムに当たってみよう。
あの子は今ごろ食堂でミアといっしょに働いてる最中かな。
よし、さっそく宿に戻って――。
ドゴオオォォォォォォッ!!!
「……!」
またもやの爆発音。
今度の発生源はすぐにわかった。
岩や砂塵を吹き飛ばして、巨大なベヒモスが地面から三匹まとめて出現したんだ。
『ブオオオォォォォオォォォッ!!』
魔獣は咆哮を上げて私たちに襲いかかる。
身の程知らずにも、ね。
こんなやつら、時間を止める必要すらない。
「アイシクルレイン」
ズドドドドドドドドドッ!
奴らの頭上に、大量のつららを雨のように降らせてやった。
体中をとがった氷が貫通して、穴ぼこだらけになった三体のベヒモスが息絶える。
ダンジョンの異常にベヒモスの出現、か。
ここに来た日にも、似たようなことが起きたけど……。
(アレはエルコが、私の実力を測るためによこしたんだったよね)
今の奴ら、あの時とは様子がちがった。
私を狙ったというより、目についた人間に本能のまま襲いかかった感じ。
つまり、何にも操られていない。
「あ、あのベヒモスを三体まとめて一撃で……」
「す、すごい……」
「かっこいい、推せる……!」
「関心してるとこ悪いけど、この異変を街に知らせに行ってほしいんだ。ちょっと面倒なことになりそうな予感がする」
「わ、わかりました……!」
「ネリィさんの真剣な表情、素敵すぎるぅ……」
指示を出すと、冒険者の子たちはすぐに街へと走っていった。
……さて、と。
「ダンジョンの中、何が起きてんだ……?」
わかるのはただごとじゃないってことだけ。
ひとまずは――、
「ひとまずは中の様子を確認して、潜入中の冒険者たちの安全を確認しなきゃ、だよな」
私の思ったことを口に出してくれたのはガルダ。
現在アイドルとしてソロ活動中、人気急上昇です。
「ガルダ、宿の仕事は?」
「街の安全の方が気がかりなんでね。若女将に許可取って、飛び出してきた」
「なるほど。頼りになるよ」
ステージの上でないなら、隣にいてくれるのは心強い。
状況分析的にも、心情的にもね。
「ふふん……。では行くのだ、我らが街の危機を救うために……」
「……ミア、食堂は?」
私のとなりで偉そうに腕を組んで、ドヤ顔してるミア。
デリバリーサービスは、地底都市を中心に大好評です。
「……お客がみんな避難誘導されてしまったのだ。アイナの手によって」
「さすがアイナ」
ネコにとっては料理食べてもらえなくて残念だったんだろうけど。
お客さんの安全が第一だもんね。
「で、肝心のプロムはどこよ」
ミスティックダンジョンをコントロールしてるのはプロムだ。
あの子に何かあったのかもしれない。
いつもいっしょにいるミアなら何か知ってるかも、そう思って聞いてみると……。
「エルコとともに、原因を調べるとかで家に帰ったのだ」
と、答えが返ってきた。
家……って、あぁ、異空間ね。
プロムの家という認識なのか、ミア的には。
「判明次第、ミアのところにワープしてくるとのこと」
「ミアのところ、なんだ……」
どうせなら私のところに来てくれよ。
まぁ、プロムたちが来るのならミアがいる意味もあるか。
「よし、じゃあ行くよ」
「うむ、いざ戦場へなのだ!」
ミアのおかしなかけ声とともに踏み込むと、目に飛び込んできたのはカオスとしか言えない光景。
景色がデタラメに入れ替わり、大量のモンスターが暴れまわり、冒険者たちがあるいは逃げ惑い、あるいは必死に応戦していた。
「こりゃひどいのだ……」
「ともかく助けるぞ!」
「うん、見えてる限りサクっとね」
街のトラブルを解決するのも街長の仕事。
迅速に事を収めてみせましょうか。




