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89 やけくそ




 地底都市が完成し、一般に開放される日がとうとうやってきた。

 民家や店舗はあらかじめ街の景観の一部として建てられていて、入居者希望制。

 嬉しいことにほとんどの物件が契約済みだ。


 地底都市の初日は地上以上のにぎわいを見せて、想像以上の大盛況。

 洞窟温泉にも、たくさんのお客さんが詰めかけてくれている。


 この光景、地底都市を考えた街長として、涙が出るほどうれしい。

 そして、嬉しい理由がもう一つ!


「もうすぐ本番ですよ、ネリィさん!」


「ほらほら、衣装に着替えてっ。お客さん待たせちゃうよぉ」


「うんっ! 今行くねっ!!」


 とびっきりのスマイルを浮かべて、アイナPとサクヤPのお二方に返事をかえす。

 ここは地底都市の中央広場にある役場、その一室。

 ステージ前の控室として使わせてもらってるんだ。


 ステージというのは、中央広場で行われる私とガルダが歌って踊るやつ。

 地底都市オープン記念の特別ステージだ。


「緊張するなぁ、ネリィ。……でも、楽しみだっ」


 もはや恥ずかしがることもなくなったフリフリ改造ミニスカメイド服の衣装を身に着けて、ガルダがとってもいい笑顔で笑う。

 緊張の原因、きっとステージがうまくいくかどうか、って感じなんだろうね。


 私はぜんっぜん緊張してないよ!

 大勢のお客さんの前で、この衣装着て立つのがとっても楽しみ!


「そうだね! 本番、早く始まらないかな!」


 私たちの最高スマイルとキレッキレのダンス、そしてたくさん練習した歌で、お客さんたちを楽しませてあげなくちゃ!




 着替え終わって開演五分前。

 ここは中央広場、野外ステージの裏側。

 ものすごい数の人がいるみたいで、ざわざわとした喧騒が聞こえてくる。


「ガルダ、準備はオッケー?」


「あぁ、もちろんさ!」


 双剣になった竜の牙を連結させて、グッと親指を立てるガルダ。

 うん、気合い十分だね。

 私も負けずに、せいいっぱいがんばろ!


「二人とも、司会席から見てるからねぇ」


「お姉さまのかわいらしいお姿、この目に焼き付けます!」


「あぁ、サクヤ、しっかり見守っていてくれ。最高のパフォーマンスを約束するよ!」


「アイナが見ていてくれるなら、もう何も怖くないね」


「えへへ、がんばってねっ! じゃあサクヤちゃん、あたしたちは客席の方にいこっ」


「はい! ――あぁ、お姉さまのアイドル姿、楽しみすぎますぅ……っ」


 ウキウキで立ち去っていく二人。

 その場でしばらく待っていると、拡声器を使ったアイナの声がひびく。


「お待たせしました、I`s Dragon(アイスドラゴン)のステージ、開幕ですっ!」


『うわああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』


 アナウンス、そして大歓声。

 私とガルダは互いにうなずき合う。


「行こう、ガルダ!」


「あぁ、最高のステージを見せてやろう!」


 そして私たちは、光り輝くステージへと駆け出した!


 ステージの上には、王都で話題のアイドルのバックバンドを務めている皆さんがいる。

 私たちの歌の演奏をするために、わざわざ来てくれたんだ。

 この人たちに恥じない最高の歌とダンスをしなくちゃね。


 そして正面には、私とガルダを見に来てくれたお客さんたちの姿。

 私たちのために、こんなに集まってくれたんだ!

 てへっ、ちょっと感動しちゃった。


「みんな、今日はアタシたちのために集まってありがとう! 改めて自己紹介を、アタシはガルデラ・ドルファングだ!」


「私はネリィ・ブランケット、街長をやらせてもらってるよ。そして、今日の私たちは――」


「「……せーのっ、二人合わせて、I`s Dragon(アイスドラゴン)ですっ!」」


『わぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!』


 うん、大歓声。

 ちょっと恥ずかしいくらいだね。


 お客さんたちの声にこたえて、ガルダが手にした双刃をブンブンと振り回す。

 そしてビシッと構え、天高くかかげて叫んだ。


竜人転化(ドラゴナイズ)!」


 瞬間、光につつまれるガルダ。

 次の瞬間には、ドラゴンの翼としっぽが衣装から生えていた。


「きゃあぁぁぁぁっ!! かわいいぃぃぃっ!!」


「『竜の牙』サイコー!」


「おねえしゃまさいこぉでしゅぅぅぅ!!」


「あははっ、みんなありがとーっ!!」


 笑顔で手をふりふり。

 こりゃ私も負けてられないね。


「よぉーし、みんな、いっくよー!」


「聞いてください、私たちの歌! 『熱して冷ましてとろけちゃえ』!」


 バックバンドの演奏が始まって、私たちのステージの幕開けだ。

 お客さんのテンションも最高潮!

 さぁ、練習の成果を見せる時!




「燃やして~」


「冷やして~」


「「アチチでヒヤリ~☆」」


 ジャンっ!


『っうわあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』


 演奏が終わると同時、大歓声がこだまする。

 みんな私たちの歌とダンスで笑顔になってくれた。

 最高にうれしい!


 ガルダと二人、顔を見合わせて笑い合って、それから同時に頭を下げる。


「「ありがとうございましたっ!」」


 やったね!

 ライブ、大成功!



 控室にもどってしばらくすると、アイナとサクヤがやってきた。


「お姉さま、最高以上の最高でしたぁぁ! あの投げキッス、私に飛ばしてくれたんですよね?」


「ネリィも、最高に輝いてたよぉぉ!! とびきりスマイルとウインクに、あたし心臓撃ち抜かれちゃったぁ!」


「あはは、二人ともすごいテンションだな」


 そうだね、二人も満足してくれたみたいだね。

 がんばった甲斐があるってもんだよ!


「……なあネリィ、アタシ、楽しかったよ。きっと一人じゃ勇気が足りなかったけど、ネリィといっしょだからあのステージに立てたんだ。でももう大丈夫、今度は一人であそこに立ってみせるよ」


「ガルダ……」


 そっか……。

 そっか!

 もう私、あそこに立たなくてもいいんだね!!


 よかった!!!

 コレで終わり!!!!

 もう二度とやんないからな!!!!!




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