87 ドラゴンメイドアイドル計画
ドラゴンメイドアイドル、歌って踊れるガルデラ・ドルファング計画。
この企みをサクヤに持ちかけてみた結果、
「やりましょう!!!!!」
鼻息荒く食いつかれた。
「の、乗り気だね……。てっきり私、お姉さまのかわいい姿は独り占めしたいんです! とか言われるかと思ってた」
「昔の私なら、迷わず断っていたでしょうね。ですがっ! 今の私はお姉さまと相思相愛! ですので問題なし!」
胸を張って誇らしげにドヤってみせるサクヤ。
つまりこの子の言うところは……。
「ガルダが自分を見てくれてるって絶対の自信があるから、安心してみんなの前にかわいいお姉さまをお出しできる、と」
「そういうことです。むしろ見てほしい、いいえ見てくださいお姉さまのかわいらしさを! ファンが増えれば増えるほど、そんなお姉さまを独り占めしている優越感で興奮してしまいます……!」
「…………」
色ボケ、なのかコレは。
それとも恋に臆病だったぶん、抑圧されていた何かが解放されてしまったのか。
なんにせよ、幸せそうで何よりです。
「まずはお姉さまの歌唱力チェックからですね。善は急げです。数日のうちにでも、お姉さまを誘い出しましょう」
「決定だね。サクヤの方から誘っといてよ。どうせ同じベッドで寝るんでしょ?」
「えへへ、そうなんですよ。毎日同じベッドで寝てます……」
照れ照れしちゃって、まったく。
幸せそうで何よりです。
〇〇〇
昼時になると、食堂がいそがしくなる代わりに宿の客入りがほとんどなくなる。
私たち宿組には少しの間ヒマができるんだ。
その間に昼食を食べたり、いろいろとやったりしてるわけだけど、今日はちょっと特別。
「えへへぇ、ピクニックだぁ」
「とは言っても、ほんの近所だけどな。少し宿から離れてメシ食うだけっていう」
そう、ほんの近所へのピクニック。
ミアとプロム、エルコで新たに結成された食堂組だけを残して、外で昼食をとろうという話になった。
せっかくだからいったん宿の受付を休止して、アイナも含む他の全員で。
もちろん、コレは建前。
ガルダをおびきだし、歌って踊れる場所の確保と歌う流れを自然に作るための作戦だ。
というわけで、今私たちは街から少し離れた丘の上で食事中。
ルミさんの牧場を見下ろせるようになってて、柵の中に放牧されてる馬の姿もよく見える。
「やっぱ美味いな、サクヤのチキンサンド」
「えへへ、光栄ですぅ」
いつかの道路工事の時にも食べてたハート型のチキンサンド、ほんとおいしそうに食べてらっしゃる。
見てるだけでお腹いっぱいになってくるね……。
「はい、ネリィ。あーんっ」
「あーん……」
んん、アイナが食べさせてくれるハンバーグおいしい……。
食事が終わっても、まだまだお昼時。
忙しくなりはじめる時間帯には程遠い。
(というわけで、サクヤ、頼んだ)
アイコンタクトを送ると、ウインクが返ってくる。
『お任せください!』ってことでいいっぽい。
「お姉さま、少し腹ごなしのレクリエーションしませんか?」
「あぁ、かまわないよ」
よし、まずは上々。
こういうこと、私が言い出すと不自然極まりないからね。
サクヤを共犯にしといて助かった。
「さて、なにしようか。言い出しっぺのサクヤ、なんか考えてるんだろ?」
「もちろん。お姉さま、歌いながら踊ってみてください!」
「……はぁ、歌いながら。演武みたいな?」
「違いますよ! 今、王都の辺りで人気なんですよ、アイドルってご存じありませんか?」
「ア、アイ……? 偶像崇拝?」
「今から手本、見せてみますから!」
すごい勢いでまくし立てると、サクヤは歌いながら踊ってみせる。
百点満点の笑顔で、ものすっごい女の子した振り付けのダンスを踊りながら、とろけるような甘い声で甘い歌詞の歌を。
「……はいっ、こんな感じです!」
「わぁっ、サクヤちゃんかわいいっ」
無邪気にパチパチ拍手するアイナ。
正直、私もそう思う。
いっそのことサクヤがやればいいんじゃないかってくらい。
「覚えましたよね、ではどうぞ!」
「じょ、冗談じゃないって! そんなん歌えるかよ!」
「やって……、くださらないんですか……?」
上目づかい、瞳をうるませてのお願い。
最愛のサクヤの懇願を、ガルダが断り切れるはずもなく……。
「いーまーっ、あなたのーもとーへーっ」
「ハイハイハイハイ!」
「届けーるー、愛の転送魔法ーっ」
「ふわふわふーっ!」
顔を真っ赤にしながら歌って踊るガルダ。
つーか何なのサクヤ、その合いの手は。
「う、うぅ……、もうムリぃ……」
歌い終わると同時、ひざから崩れ落ちた。
でもさ、まんざらでもなかったよね?
実はかわいいモノとか女の子らしいヤツとかにあこがれてるクチだな、コレは。
「お姉さま、眼福でした! またやってみましょう! というかコレ街の名物にしましょう!」
「うえぇぇっ!? いやいやいや、ムリだってば! 第一アタシ、その……、こんなカワイイ感じのやつ似合わないし……」
「似合ってます! とーっても似合ってますって! ねぇアイナさん!?」
もう必死。
捕えかけた獲物を逃がすまいと、必死にアイナに援護を求めてる。
「うんっ、すっごくかわいかった。ガルデラさん、チャンプの頃からファン多いし、いいと思うよぉ」
「アイナまで!? ネ、ネリィ……」
「私もいいと思う」
……おお、この世の終わりみたいな表情になった。
「いや……、でも、さすがに、アタシ一人でなんて……」
「一人じゃイヤなのぉ? ……あ! じゃあさ、ネリィもいっしょにやろうよぉ!」
「……は?」
え、何をおっしゃいますかアイナさん?
「いい考えですよアイナさん! お姉さま、ネリィさんが一緒ならやれますか!?」
「そ、それならまぁ……、恥ずかしさもまぎれるかなぁ……」
ウソ、でしょ……。
サクヤ、裏切ったの……?
冗談、だよね……?
「むふふっ、というわけで……、ネリィ?」
「ネリィさんもさっきの歌とダンス、やってみましょうか」
あぁ、もう逃れられない。
ガルダ一人に恥ずかしい役を押しつけようとした、これが私の罰なのか。
きっと私、今この世の終わりみたいな表情してるんだろうな……。




