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84 おいでませ地底温泉




 地底都市に先駆けて、新しい観光名所が完成した。

 今日はそのお披露目を兼ねて、宿の仕事が終わったあとみんなを地底にご招待することに。


「わぁっ、こんな風になってたんだぁ」


 アイナが照明に照らされた地下空間を興味深げにキョロキョロと眺めている。

 そういえばこの中でこの子だけ、ここに来るの始めてだったっけ。


「ネリィとガルデラさんが掘ったんだよねっ。すごいなぁ」


「でしょう、すごいんですよお姉さまは!」


「だよねぇ。ネリィ、すごいよねぇ」


 サクヤとアイナ、ほめる先がそれぞれズレてるな。

 それぞれニコニコしてて険悪さゼロだし、張り合ってるわけじゃないっぽいけど。

 ただ単に、自分の恋人をすごいすごいとほめてるだけだな、アレ。


「よしてくれよ、サクヤ。巨竜転身(ドラゴライズ)ができなくなった今、これだけのものを作る力はもう無いんだ」


「いいえ、それでもお姉さまは偉大で立派な方です! それにドラゴンメイドすっごくかわいいです!!」


「か、かわいいは関係ないだろ……」


「照れるお姉さまもかわいいですぅ!」


 たしかにアレはかわいかったし、顔を真っ赤にするガルダもかわいいと思う。

 元チャンプを追いかけてるファンのみんなに見せたいくらい。


 ……いや、実際に見せてみるか?

 ドラゴンメイド、ガルデラ・ドルファングの歌って踊るステージショー。

 うん、チケットとか飛ぶように売れそうだ。


「ネリィよ、なにを悪い顔しているのだ?」


「なんでもないよ、なんでもない」


 今はまだペーパープラン、誰かに話すのは時期尚早。

 それとなくガルダに提案して、口八丁手八丁でなんとか丸め込んで許可を取らなければ。

 あ、サクヤも協力してくれるかな。


「……おっと、新名所に到着だ。みんな、ここだよ、ここ」


 悪だくみはここまで、と。

 到着したのは地底都市の北側、カベぎわにぽっかりと口を開けた洞窟だ。


「な、なんなのだここは……。ミスティックダンジョンか?」


「だったらアイナを連れてこないよ。魔物なんか出ないから安心しな。さ、入った入った」


 みんなを促しつつ、先頭きって洞窟へ。

 穴ぐらの中には、カベの両脇に雷の魔石を使った照明をかけてある。

 うす暗いけど視界が効かないわけじゃない、眠気をさそうような暗さだ。

 ちなみに転ばないよう、地面は平らにしっかり舗装してある。


「な、なんだか暑いねぇ」


「あったかいでしょ」


「ネリィにとっては、な……」


 私にとってはちょうどいい湿気とあったかさなんだけど、みんなには蒸し暑い様子。

 ま、この奥にあるモノを思えば仕方ない。


 しばらく奥へと進んでいくと、洞窟いっぱいをふさぐ二つの小屋に突き当たる。

 入り口にはそれぞれ男性マークと女性マーク。


「あ、ネリィさん。もしかしてこれ……」


「ここまで来たらもうわかっちゃうよね。じゃあみんな、あったまろうか」




 脱衣所を抜ければ、そこは地底温泉。

 オレンジ色のほんのり優しい光にライトアップされた、洞窟の中の温泉だ。


 奥に行くほど天井が低くなってて、一番奥まで行けば水面と天井の高さはほぼ一緒。

 壁面にほら穴を作って、冒険心をくすぐる遊び心も出してみた。


 風の魔石を使った換気システムをつけたから、熱がこもり過ぎたりガスがたまったりすることもない。

 安全性にもしっかりと配慮しております。


「どうかな、地底温泉。入湯料は200ゴルド」


「いいね、面白いじゃないか」


「こんな温泉見たことありません! 新しい名所として、十分に通用すると思いますよ!」


「……んにゃぁぁぁぁ、ミアが一番乗りなのだぁぁぁ!!」


 ざぶーん!!


 こらえられなくなったのか、温泉の中に飛びこむミア。

 盛大に水しぶきをあげて湯面から顔を出すと、


「騒々しいのう。おぬし、他の客に迷惑じゃろう」


「マナー違反。自重を要求」


 いつの間にか一番乗りしていた二人の幼女に怒られちゃってる……。


「お、お前たちいつの間に!?」


「いいではないか。しかしこの温泉、ほどよい暗さでリラックス効果ハンパないのじゃ……」


「開示。提案者はこの私。賛美を要求する」


「いや、私とエルコ二人でアイデア出し合ったんじゃん……」


 ちゃっかり手柄を一人占めしようとは、油断も隙もない幼女だ。


「やれやれ、どっちが子どもだかわかんないな。サクヤ、アタシらも湯加減確かめよう」


「はい、お姉さまっ!」


 ラブラブなお二人さんも入っていって、肩までつかってほっこり。

 さぁて、私も入ってあったまろうか――。


「……アイナ?」


 ……と思ったら、アイナが立ち尽くしたまま。

 どうしたんだろう。

 そういえばこの子の感想、聞いてなかったような。


「アイナ、もしかして気にいらなかった……?」


「……あ、ネリィ。ううん、そんなことないよ」


 ふるふる、首を横にふってアイナは笑う。


「ただ、ここまでの色々に圧倒されちゃって。ネリィってホントにすごいなって、そう思ってただけ」


「……アイナの巨大温泉プールの方がずっとすごいよ。さ、いっしょに暖まろ?」


 アイナの手を引いてお風呂の中へ。

 二人でのんびりあったかく……。


「にゅああああぁぁぁぁっ、猫かきぃぃぃっ!!」


「……そこ、温泉で泳がない」


「お姉さま、あのほら穴の中、二人で行ってみましょ……?」


「あぁ、誰の目にもつかないところで――」


「横穴はそういう用途で作ってないから! やめろ、そこ!」


 のんびり、できませんでした……。




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