表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

82/93

82 甦れ竜の牙




 竜狩りの剣士ガルデラ・ドルファングのトレードマーク。

 いつも背中に背負った大剣にして、異名にすらなっている文字通りの代名詞『竜の牙』。

 邪竜との戦いでへし折れたままだったあの剣、実は修理に出されていたらしい。


「っていうか、回収してたんだね」


「あぁ、お前が倒れたドタバタで置き去りになってたのを、プロムが届けてくれてな」


「その節はご迷惑をおかけしました」


「いやいや、お前がいなけりゃみんな死んでたから。で、カヤさんとこに修理に出してたってわけだ」


 と、しゃべってる間にカヤさんの店の前へ到着だ。

 元は村で唯一の鍛冶屋兼雑貨屋だったこのお店。


 ミスティックダンジョンに挑む冒険者たちの御用達ごようたしとなった結果、今や五倍くらいに大きくなってる。

 小さな小屋みたいな店と野ざらしの作業場だけだったのが、鍛冶場内蔵の立派な店舗になっちゃって。


「カヤさん、いるかーい」


「おぉ、『竜の牙』じゃないッスか! それに『氷結の舞姫』も!」


 入店した私たちを出迎えたのは、カヤさんの弟子のひとり。

 規模が大きくなったことで、何人か弟子を取ってやってるんだ。

 本人いわく「弟子を取るような腕じゃない、こいつらはただの店員だ」とのことらしいけど、みんなそろいもそろって弟子を名乗っているようで。


「『竜の牙』はよしてくれよ。相棒を失った、今のアタシゃただのガルデラさ」


「またまたぁ、今日からまた『竜の牙』名乗れるでしょうに」


「……ってぇことは、出来上がってるんだな?」


「親方の仕事、今回も最高でしたぜ? 今呼んできやーす!」


 弟子の人が店の奥、鍛冶場へと走っていってしばらく待つ。

 その間、店内にいる冒険者たちが私たちを見てざわざわしてたけど、気にせず待つ。

 視線に耐えて待つ。


 ちなみにガルダは勤務中につきメイド服。

 きっと私以上に視線に耐えられないだろうな……。


「やー、お待たせお待たせ。ちっと仕事が立て込んでてな」


 ようやく奥からカヤさん登場。

 2分くらいが5分にも10分にも感じたよ。

 カヤさんは抱えてた大きな箱をドン、とカウンターに置いた。


「コイツが例の品だ。破損がひどすぎて元通りにできなかったんで、ちとアレンジしちまった」


「かまわないさ。事前に言っただろ? どんな形であれ、またコイツと共に戦いたいって」


「だな。その言葉がなきゃ、さすがに原型とどめないほどの改修なんてできねぇ」


「へへ、楽しみになってきたよ。さぁ相棒、どんな姿になっちまった?」


 持ち主の手によって、箱が開かれる。

 中に入っていたのは……。




 宿への帰り道、改めて確認してみる。


「ねぇ、そんなんなっちゃってホントによかったの? もう全然ちがう武器じゃん」


「かまわないっつってんだろ? コレはコレでなかなか気に入ったよ」


 腰のベルトから下げた鞘、そこに入った二本の剣のうち一本を引き抜くガルダ。

 牙のような見慣れた質感の刃が、陽光を反射してギラリと輝いた。


「二刀での戦いにも心得アリ、だしな。チャンピオンナメんなよ?」


「さすが、素敵ですお姉さまぁ♪」


「だろ、惚れ直すなよ?」


 ……いや、なんで普通にサクヤがいるのさ。

 ガルダもガルダで軽く流すなって。


「それでそれで、お姉さまっ。新生『竜の牙』、前みたいな特殊な力は無いんでしょうか」


 もともと多機能だったからな、アレ。

 身体能力の強化に、倒したドラゴンの能力吸収。

 果てはドラゴンに変身まで。


「もし残っていなくても大丈夫ですっ! このサクヤ、お姉さまの手となり足となって戦うので!」


「気持ちだけ受け取っとくよ。どうやら身体能力強化(エンチャント)の機能、残ってるようだからな」


「言われてみれば。よーく見ると赤いオーラが出てるね」


「見えるんですか!? 私見えませんよ!?」


 ……そうなんだ、普通は見えないんだ。


「特殊能力の方は、と」


 魔力をみなぎらせ、ギュッと剣を握りこむ。

 すると、右隣にガルダが一人増えた。


「お、アウロラドレイクの幻影も使えるな」


「きゃーん! お姉さまがふたりぃ♪ まるで夢のようですぅ!」


 あんたは二十人に増えるだろ。

 しかも光の屈折じゃなくて本当に。

 ついこの前、三十人まで増えられるようになったんだったっけ?

 まぁともかく。


「この調子ならさ。巨竜転身(ドラゴライズ)もできるんじゃない?」


「そうですよお姉さま、試してみましょう!」


 ……というわけで、街の外れまでやってきた。

 街中でドデカいドラゴンになるわけにいかないからね。

 みんなガルダだって知ってても迷惑だし。


「っし、いくぞ!」


 二本の剣を引き抜いて、それぞれの柄を長く伸ばし根本をドッキング。

 双刀の長得物になった『竜の牙』をブンブン振り回し、ガルダは叫んだ。


巨竜転身(ドラゴライズ)!!」


 カッ!


 ガルダの体が一瞬、まばゆい光につつまれる。

 次の瞬間、そこに立っていたのは……。


「お、お姉さま……。そのお姿は……」


「あちゃ~、失敗か。巨竜化の能力、失われたみたいだな」


「いや、その……。気づいてないの?」


「何が――んん?」


 言われてやっと変化に気づいた様子。

 自分の体をジロジロ見て、目を丸くしてる。


「な、なんだこれ……」


 なんだこれって、なんだろう。

 大部分は普段通りのガルダだよ。


 ただし竜のしっぽと翼が生えていて、ツノが頭から伸びている。

 それから八重歯も伸びてるね。

 これはまさしく……。


「ド、ドラゴンメイド……! お姉さま、お姉さまが可愛すぎますぅぅぅぅ!!!!!」


「うおっ、サクヤ!?」


 かくして巨竜転身(ドラゴライズ)は失われ、別の何かになってしまった。

 弱くなったわけじゃなさそうだし、サクヤのツボにがっつりハマったようで何より何より。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あいなさんちのメイドラゴン あるがとうございます…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ