82 甦れ竜の牙
竜狩りの剣士ガルデラ・ドルファングのトレードマーク。
いつも背中に背負った大剣にして、異名にすらなっている文字通りの代名詞『竜の牙』。
邪竜との戦いでへし折れたままだったあの剣、実は修理に出されていたらしい。
「っていうか、回収してたんだね」
「あぁ、お前が倒れたドタバタで置き去りになってたのを、プロムが届けてくれてな」
「その節はご迷惑をおかけしました」
「いやいや、お前がいなけりゃみんな死んでたから。で、カヤさんとこに修理に出してたってわけだ」
と、しゃべってる間にカヤさんの店の前へ到着だ。
元は村で唯一の鍛冶屋兼雑貨屋だったこのお店。
ミスティックダンジョンに挑む冒険者たちの御用達となった結果、今や五倍くらいに大きくなってる。
小さな小屋みたいな店と野ざらしの作業場だけだったのが、鍛冶場内蔵の立派な店舗になっちゃって。
「カヤさん、いるかーい」
「おぉ、『竜の牙』じゃないッスか! それに『氷結の舞姫』も!」
入店した私たちを出迎えたのは、カヤさんの弟子のひとり。
規模が大きくなったことで、何人か弟子を取ってやってるんだ。
本人いわく「弟子を取るような腕じゃない、こいつらはただの店員だ」とのことらしいけど、みんなそろいもそろって弟子を名乗っているようで。
「『竜の牙』はよしてくれよ。相棒を失った、今のアタシゃただのガルデラさ」
「またまたぁ、今日からまた『竜の牙』名乗れるでしょうに」
「……ってぇことは、出来上がってるんだな?」
「親方の仕事、今回も最高でしたぜ? 今呼んできやーす!」
弟子の人が店の奥、鍛冶場へと走っていってしばらく待つ。
その間、店内にいる冒険者たちが私たちを見てざわざわしてたけど、気にせず待つ。
視線に耐えて待つ。
ちなみにガルダは勤務中につきメイド服。
きっと私以上に視線に耐えられないだろうな……。
「やー、お待たせお待たせ。ちっと仕事が立て込んでてな」
ようやく奥からカヤさん登場。
2分くらいが5分にも10分にも感じたよ。
カヤさんは抱えてた大きな箱をドン、とカウンターに置いた。
「コイツが例の品だ。破損がひどすぎて元通りにできなかったんで、ちとアレンジしちまった」
「かまわないさ。事前に言っただろ? どんな形であれ、またコイツと共に戦いたいって」
「だな。その言葉がなきゃ、さすがに原型とどめないほどの改修なんてできねぇ」
「へへ、楽しみになってきたよ。さぁ相棒、どんな姿になっちまった?」
持ち主の手によって、箱が開かれる。
中に入っていたのは……。
宿への帰り道、改めて確認してみる。
「ねぇ、そんなんなっちゃってホントによかったの? もう全然ちがう武器じゃん」
「かまわないっつってんだろ? コレはコレでなかなか気に入ったよ」
腰のベルトから下げた鞘、そこに入った二本の剣のうち一本を引き抜くガルダ。
牙のような見慣れた質感の刃が、陽光を反射してギラリと輝いた。
「二刀での戦いにも心得アリ、だしな。チャンピオンナメんなよ?」
「さすが、素敵ですお姉さまぁ♪」
「だろ、惚れ直すなよ?」
……いや、なんで普通にサクヤがいるのさ。
ガルダもガルダで軽く流すなって。
「それでそれで、お姉さまっ。新生『竜の牙』、前みたいな特殊な力は無いんでしょうか」
もともと多機能だったからな、アレ。
身体能力の強化に、倒したドラゴンの能力吸収。
果てはドラゴンに変身まで。
「もし残っていなくても大丈夫ですっ! このサクヤ、お姉さまの手となり足となって戦うので!」
「気持ちだけ受け取っとくよ。どうやら身体能力強化の機能、残ってるようだからな」
「言われてみれば。よーく見ると赤いオーラが出てるね」
「見えるんですか!? 私見えませんよ!?」
……そうなんだ、普通は見えないんだ。
「特殊能力の方は、と」
魔力をみなぎらせ、ギュッと剣を握りこむ。
すると、右隣にガルダが一人増えた。
「お、アウロラドレイクの幻影も使えるな」
「きゃーん! お姉さまがふたりぃ♪ まるで夢のようですぅ!」
あんたは二十人に増えるだろ。
しかも光の屈折じゃなくて本当に。
ついこの前、三十人まで増えられるようになったんだったっけ?
まぁともかく。
「この調子ならさ。巨竜転身もできるんじゃない?」
「そうですよお姉さま、試してみましょう!」
……というわけで、街の外れまでやってきた。
街中でドデカいドラゴンになるわけにいかないからね。
みんなガルダだって知ってても迷惑だし。
「っし、いくぞ!」
二本の剣を引き抜いて、それぞれの柄を長く伸ばし根本をドッキング。
双刀の長得物になった『竜の牙』をブンブン振り回し、ガルダは叫んだ。
「巨竜転身!!」
カッ!
ガルダの体が一瞬、まばゆい光につつまれる。
次の瞬間、そこに立っていたのは……。
「お、お姉さま……。そのお姿は……」
「あちゃ~、失敗か。巨竜化の能力、失われたみたいだな」
「いや、その……。気づいてないの?」
「何が――んん?」
言われてやっと変化に気づいた様子。
自分の体をジロジロ見て、目を丸くしてる。
「な、なんだこれ……」
なんだこれって、なんだろう。
大部分は普段通りのガルダだよ。
ただし竜のしっぽと翼が生えていて、ツノが頭から伸びている。
それから八重歯も伸びてるね。
これはまさしく……。
「ド、ドラゴンメイド……! お姉さま、お姉さまが可愛すぎますぅぅぅぅ!!!!!」
「うおっ、サクヤ!?」
かくして巨竜転身は失われ、別の何かになってしまった。
弱くなったわけじゃなさそうだし、サクヤのツボにがっつりハマったようで何より何より。




