81 なでなでトライアングル
「ネリィが無事に目覚めたので改めて! 邪竜討伐祝い、祝勝会なのだー!!」
「「「かんぱーい!!」」」
ミアが高々とかかげたグラスに、ガルダとサクヤ、それからアイナが自分のグラスをカツンとぶつける。
いわゆる乾杯、いわゆる宴会。
南の島からやってきたネコ娘は、みんなで騒ぐのが大好きなのだ。
私とちがって。
あと、みんなもみんなでノリいいよね。
私とちがって。
「ネリィもやるのだ、ほらほら!」
「か、かんぱい……」
やれと言われればやるけどね。
できれば一人か少人数でチマチマやる方が好きなのよ。
邪竜襲来によるグラスポートへの人的被害は、最小限に抑えられた。
何人かが避難中に転んだりした程度。
建物への被害も、いくつかの家の屋根がふっ飛んだりしたくらいで、街の金庫から支援を出せばどうにかできそう。
あと、街じゃないけど浮遊城。
エルコの住み家であるあそこが、街の盾になった時にかなりの被害を受けてしまった。
自己修復と自己メンテナンスの機能を搭載しているらしく、時間をかければ直るらしいけど、いつごろ修復が完了するのかエルコ自身にもわからない様子。
それまでずっと、浮遊城は街の外れに落ちたまま。
そして、それまでずっとエルコはこの街に住み着くようだ。
あとついでにプロムも。
「どうじゃエルコルディホ、これが食というものじゃ!」
「衝撃……! 頬が裏側から落ちそうなこの感覚、抗い難い……」
プロムに強制的に食べさせられた料理の味に、エルコが目を輝かせる。
味に目覚めてしまった少女が一流シェフの作った大衆料理に抗えるはずもなく。
銀髪幼女はすごい勢いで、いろんな料理をかっ喰らい始めるのだった。
「おぉっ、いい食べっぷりなのだ! ほら、どんどん食べるのだ! これもこれもこれも!」
「もぐ、まうっ、至福、至高……!」
「いい食いっぷりじゃのう。どれ、ワシも負けておれぬな……!」
二人の幼女においしく食べてもらって、ミアってば嬉しそう。
そんな光景を見守りつつ、上品に味わって食べていく私。
「もぐもぐむぐ……」
「もうネリィ、リスさんみたいにほっぺ膨らませてぇ。もっとお上品に食べないとダメだよぉ? えへへ、でもかわいいっ」
……アイナ的にはお上品じゃなかったようで。
まぁいっか。
アイナに口元ふきふきしてもらえたし。
〇〇〇
食後はお約束の温泉タイム。
泡風呂や電流風呂ではしゃぐミアとプロム、巻き込まれるエルコを背景に、普通の温泉にのんびりつかる。
「プロムちゃんとエルコちゃん、かわいいねぇ。ホントの姉妹みたい」
「わかる、年相応って感じ。……一万歳超えてるんだけどね」
電流風呂の刺激に目をぐるぐるさせるエルコと、それを見てケタケタ笑うプロム、ミア。
非常にほほえましい光景だ。
きっと精神年齢が似通っている――失礼、波長が合うんだろう。
「でもやっぱり、ネリィが一番かわいいっ。知ってる? 温泉に入ってる時、顔がとろけちゃってるの」
ぷにぷにとほっぺを突っつかれた。
悪い気はしないよ。
あと一番かわいいのはアイナだと思う。
「んん……。温泉に入ってる時が一番幸せだし……」
一日に何度入ってもいいモノだよね。
むしろ一日中入っていたい。
「……あの、ネリィさん」
「お、サクヤ」
私たちのとなりに音もなく、スーっとやってきたサクヤ。
お姉さまの裸を前にして、まさかこっちに来るとは。
「あの、ありがとうございました」
「何のありがとう?」
「邪竜をやっつけてくださったこと。街を守ってくださったこと。それに、お姉さまを死なせないでくださったことです」
「いろいろだね」
「いろいろです。……私、本当に怖かったんですよ?」
うつむきがちに、サクヤがぽつりと話し始める。
「邪竜が目の前に来た時、怖くて動けませんでした。街の人たちを避難させながら、この街が消えちゃうんじゃないかってどこかで思っていました。邪竜とお姉さまが消えた時、お姉さまが死んでしまったらどうしようって泣いちゃいました」
「そっか……」
「はい。だから、ありがとうございます、ですよ。私には見ていることしかできませんでしたから」
「見てるだけ、なんかじゃないよっ、サクヤちゃん」
「アイナさん……?」
「本当に見てるだけだったのはあたし。お城のテラスから、グラスポートの方向を見守って祈ることしかできなかった……」
そう言って笑うアイナの表情は、少し寂しそうで。
なんだか無性に抱きしめたくなった。
「サクヤちゃん、分身して街の人たちの避難誘導してたんだよね? みんながパニックにならないように落ち着かせながら。みんなが無事だったのはサクヤちゃんのおかげだよ。あたしの大好きなこの街を守ってくれたのは、サクヤちゃんだよ」
アイナはそっとサクヤの頭に手をのばし、
「怖いのにがんばったね。よしよし」
「あ、ぅ……、アイナさん、恥ずかしいですよ……」
なでなで。
アイナの得意技。
包みこむような母性に、さすがのサクヤもたじたじだ。
でも……。
「アイナが何もできてないなんて、そんなことないよ。アイナがいたから私、この街を守ろうって思えた。最後までがんばれた。だからアイナも偉い」
アイナをマネして、私もアイナの頭をなでなで。
「ひゃっ! もう、ネリィってばぁ。……ありがとねっ」
よかった、笑ってくれた。
さて、じゃあこのあたりで――。
「むむむ、だったら私はネリィさんの頭をなでなでしますっ!」
いや、どうしてそうなるんだ。
サクヤに頭をなでられながらアイナの頭をなでて、アイナはサクヤの頭をなでなで。
おかしなトライアングルなでなでは、サウナから出てきたガルダがツッコミを入れるまで続くのだった。




