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8 流浪の料理ネコ娘




 村の外れ。

 森の中の開けた広場で、私は謎のネコ娘・ミアとむかい合う。

 少し離れたところには、ハラハラしながら成り行きを見守るアイナの姿。


「あのぉ、二人ともケガしないようにねぇ……?」


「ケガするつもりも、させるつもりもないよ。……少なくとも私には」


 残念ながらむこうはやる気満々だ。

 背中に背負った巨大包丁を手に取って、巻いてた包帯を一気に取り外す。


「お前、準備はいいのだ? ミアの強さに恐れおののきひざまずく、その準備は!」


「どっちが上かわからせる準備ならできてるよ」


「上等!」


 黒みがかった巨大な鋼の片刃包丁、その刃はミアの身長ほどもある。

 そんなドデカい包丁の付け根の持ち手を両手でにぎって、アイツは軽々と肩にかついだ。

 そして、


閃斬り(ラインスラッシュ)!」


 ブオンッ!


 すさまじい速度で横一文字になぎ払う。

 かがんだ私の頭の上を剣圧が通り過ぎて、後ろの森の木々をまとめて斬り倒していく。


「やるのだ! けどまだまだぁ!」


 よけられてもまったく驚かず、ミアは一気に距離をつめてきた。


微塵斬り(シュレッダーカット)!」


 繰り出されたのは目にも止まらない連撃。

 あまりに振りが早すぎて、観戦してるアイナの目には巨大包丁の姿すら見えてないだろうな。

 まぁ、私は全部見えてたし全部よけたけどね。


 しかし自分で強いというだけあって、私ほどじゃないけどかなり強い。

 とりあえずロシュトの数十倍は強い。


「ぬぅ、これでもダメなのだ……!」


「大ぶりの巨大包丁じゃなきゃ、とらえられたかもしれないね」


 反撃を警戒したのか、技を出し終えたミアが後ろにとびのいて間合いを取った。


「ねぇ、胸に差してる二本の包丁は使わないの?」


「こいつらは調理用具、しとめた獲物を料理するためのものなのだ。戦いには絶対使わない、それがミアのルール……!」


「つまり武器はでっかい包丁ただ一つ、と。もしそれを奪われたら?」


「当然、戦場で武器を失えば死あるのみ。もっともー、ミアがこの『鬼斬り包丁』を手放すわけ――」


時の凍結(クロノ・フリーズ)


 ピキィィィ……ン!


 はい、いいこと聞いちゃった。

 時間を止めてミアの手から巨大包丁を奪い取る。

 それから元の場所にもどって地面に包丁をぶっ刺し、それにもたれながら時間を解凍。


「――がなかろう……あれ? あれ? あれっ?」


「お探しのものはコレ?」


「にゃー!! ミアの鬼斬り包ちょぉぉぅ!!!」


 がくっ。


 丸腰になったミアは地面にひざまずく。

 勝負あり、かな。


「うぅ、ネコの時もそうだった……。まったく動きが追えなくって……、完敗なのだぁ……」


「わかってくれたみたいだね、どっちの方が強いのか。ほら、返すよ」


 鬼斬り包丁だったっけ。

 でっかい包丁を返すと、がっくりしながら包帯を巻いて背中に背負う。


「で、アンタのルールに従うと?」


「弱い者は強い者に従う……。敗者に二言はナシ、煮るなり焼くなり茹でるなり好きにするのだ……」


 よし、思った通り大人しくなった。

 あとは言うこと聞かせて、アイナから二度と食べ物盗まないように誓わせるか――いや、待てよ。


「……そうだ、いいこと思いついた。アンタ料理人なんだよね」


「いかにも。ミアの料理は天下一品と島でも評判で……」


「ちょっと作ってみてよ。ちょうど作りかけのスープパスタがあるし」


「あ、そういえばお昼ご飯まだだったねぇ」


 お昼を作りつつコイツをおびき寄せたからね。

 今にもお腹が鳴りだしそう。


「料理を作ればいいのか? お安いご用なのだ」


 強者の命令と受け取ったのか、ミアは一足先に宿屋へと走っていった。

 その背中をアイナが困り顔で見送る。


「うーん、困っちゃったねぇ。あの子、どうしよっかぁ……」


「大丈夫、私にいい考えがある」


「いい考え……?」


「そう、いい考え。ここはミアに料理を作らせて、まずかったら問答無用で放り出せばいい」


「さ、さすがにかわいそうだよぉ」


「で、ホントにおいしかったら……」



 〇〇〇



 宿屋に入ってすぐのところ、大きな食堂がある。

 軽く五十人は座れる大食堂だ。

 もちろんこれだけ広くても、今ここにいるのは私たち三人だけ。


「へいお待ち、ミアの特製『スープパスタとやら』なのだ」


「わぁ、おいしそぉ!」


 座って待っていたアイナの前に、湯気を立てるスープパスタが置かれた。

 完成品を知らないまま、アイナのレシピだけを頼りに作ったにも関わらず、どう見てもおいしそう。


 私はこの野良猫が変なことしないかキッチンで見張っていたんだけど、いたって普通に料理してた。

 料理人としての姿勢だけは、とりあえず信用していいのかな。


「お前も座るといい。冷めないうちに早く食べるのだ!」


「それには同意」


 冷たいモノなんて食べたくないし。

 さっさと席について、私の前にもう一皿のスープパスタが置かれる。


 ミルクをベースにした白いスープ。

 具は近場の山でとれるキノコに、緑の野菜――ほうれん草(スピニッチ)かな。

 それとベーコン、彩りで香草がまぶしてある。


 あとは……なんだろう、この全体的に散りばめられてるナゾの黒いカケラ。

 コイツの持ってきた調味料?

 ま、いいか。


「いただきますっ!」


「いただきます」


 アイナは無警戒に、私はおそるおそる。

 ひとくち目を口に含む。

 その瞬間、口の中に広がる濃厚なミルクの風味。


 いや、ミルクだけじゃない。

 隠し味に加えられたほのかなニンニクと、スパイシーな黒いつぶつぶ。

 これは……っ!


「お、おいしいよぉ!! すごい、ミアさんこれおいしい! お店開けるよぉ!」


「お、おみせ? なんなのだ、それ」


 おっと、言いたいこと全部アイナに先言われちゃったな。

 ともかく、この味ならいけそうだ。


「……ねぇアイナ。この食堂、ホントの食堂にしてみない?」


「えっ? ど、どういうことぉ?」


「宿泊客以外にも開放して、飲食店にするんだよ。ミアにはここの料理長になってもらってさ。どうかな」




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