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79  なにもない世界で




『模造品、だと……! 貴様ぁ……ッ!』


『くく、図星を突かれたか。図星を突かれ、怒髪天を突いたか。なぁ!』


 竜の牙――神竜の発した言葉は、邪竜の逆鱗に触れたようだ。

 ヤツは怒りにまかせ、激しくバリアを踏みつける。


『抑止力たる我が力を恐れた一部の愚者によって、秘密裏に貴様は造られた。盗み出した我がデータを元にな。その結果が暴走、そして文明の崩壊。つまり貴様は失敗作だ』


『黙れ……!』


『我を殺そうと戦いを挑み、しかし殺せず別次元に逃げおおせる。まっこと臆病者よの。あぁ無様、無様っ!』


『黙れ……ッ!!』


『しかも、だ。文明が再起し一万年を経てもなお、第二の我が生まれることを恐れ、人の子の多く集まる場に強大な力を感知するや、姿を現し全てを無に帰す。これを、これを臆病者と言わずしてなんと言おうか!』


『黙れ、黙れぇぇぇッ!!!』


 ズガッ、ドガッ!!


 ヤツの攻撃も、こちらの口撃も止まらない。

 邪竜が怒りに我を忘れて、何度も何度もバリアに腕を、足を、尾をたたきつけ、毒炎を浴びせかける。

 命がいくつあっても足りないような猛攻を前に、聖なる結界に少しずつヒビが走り始めた。


「ま、まずいのじゃ……! このままでは……!」


「お、おい神竜! もう挑発すんな! これ以上はバリアが持たないぞ……!」


『……十分だ。もはや我は役目を終えた』


 ピシ、ピシっ……!


 亀裂が走る音は、バリアからだけじゃない。

 『竜の牙』からも、メキメキ、ピシピシと嫌な音が聞こえてくる。

 少しずつ、少しずつ、刀身の真ん中からひび割れが広がっていく。


『この世に未練などない。我が精神が滅びようと悔いなどない』


「アタシにはあるっての!」


「ワシもじゃ! まだ死にとうない!」


 一万年生きたヤツの言うことか、それ。

 なんてのん気なツッコミしてられないほどヤバいって、この状況。

 もしもバリアが割れたりしたら、アタシら一瞬で消し飛ぶぞ……!


『案ずるな、そなたらまで道連れにはせぬ。十分に気を逸らせた。時を稼げた』


「時を、稼ぐ……?」


 時を稼ぐといえば、アタシとプロムが立てた作戦だ。

 邪竜の気を引いてネリィが復活するまでの時間を稼ぎ、エルコに転送されてくる望みに賭ける。

 まさか神竜のヤツ、アタシらと同じことをしてたのか……?


『唯一の未練があるとすれば、ヤツの脳天を我が刀身でつらぬけなかったことだけか……』


 ピシ、ピシ……ッ!


 刀身の亀裂がどんどん大きくなっていく。

 横向きにいびつな線が走り、破片が飛び散っていく。


『ガルデラ。そなたに背負われ旅した日々、なかなかに面白きものだった。死した我には十分すぎるものだったわ』


「神竜、あんた……っ」


『純魔の少女よ。あとは、託したぞ……』


 パキィ……ッ!!


 『竜の牙』が、真ん中からへし折れる。

 同時に結界が崩壊していき、邪竜の業火がアタシら二人を包みこもうとした、次の瞬間。


 アタシとプロムの周囲に生まれたぶ厚い氷の結界が炎の直撃を防ぎ、突風のようなブリザードが毒炎をまとめて払い飛ばした。


「……な、なんじゃ? なにが起きたんじゃ?」


「何が起きたって、そんなの決まってるだろ。……なぁ、ネリィ」



 〇〇〇



 あの後私は、ミアに大温泉に連れてきてもらって冷え性を回復させていた。

 ゆっくり入ってる場合じゃないけど、肩までつかって体の芯まで温める。

 それが邪竜を倒すための一番の近道だから。


 温まっている間に、ミアの分身にはエルコを連れてきてもらった。

 幸いにも大きなケガは負っていないようで、ちょっと安心。


 プロムの空間にハッキングを仕掛けられたエルコなら、私をあの空間に転送することも可能なはず。

 そう踏んで、聞いてみたところ。


「容易。あのようなザル空間、侵入も転送もたやすい」


 ……とのことだった。


 そんなわけで復活した私はエルコに別空間へ飛ばしてもらい、結界が割れる場面に遭遇。

 すぐに全力の氷のカベを作って、二人を炎の直撃から守ったってわけ。


 ホントは時間を止めたかったけど、前にプロム、この空間じゃ時の凍結(クロノ・フリーズ)できないって言ってたし。

 どのみち炎の純魔晶石の力で邪竜に時止めは通じないから、対して関係ないか。


「二人とも、お待たせ」


「ホント、待ちくたびれたって……」


 力が抜けたみたいに、その場にへたり込むガルダ。

 すぐそばには、真っ二つに折られた『竜の牙』。


「……相棒、やられちゃったんだね。ごめん」


「……。……いいさ、別れは済ませた」


「話せたんだ」


「あぁ、最後の最後にな」


 少しさみしそうに笑うガルダ。

 しんみりした雰囲気を、打ち砕いたのは耳ざわりな声だった。


『純魔の力を宿す者……! 性懲りもなくまた来たか……!』


「……プロム。三十秒だけ、ガルダを連れて現実世界に行ってて」


「さ、三十秒とな……?」


 邪竜は無視してプロムにお願いする。

 とっても大事なことだから。


「そう、三十秒だけ」


「う、む……。了解じゃ……」


 何をするつもりなのかわからない、そんな顔ながら、プロムはワープホールを発生させた。

 そして二人は穴に飲まれ、消えていく。

 この空間から、この世界からいなくなる。


『くくく……。足手まといを逃がしたか……。だが解せぬな、たったの三十秒とは』


「三十秒で十分なんだよ。温泉のおかげで全快した私なら。周りに守るべき街も、人もいない、なんにも存在しないこの世界でなら」


『たわけたことを――』


全球凍結(ワールド・エンド)


 カキィィィィィィィ……。


 ……これが正真正銘、周りの被害も自分のことも、いっさいお構いなしの私の本気。

 プロムの作ったこの世界の、私が立っているわずかな空間を残して、全てを氷で閉ざした。

 端から端まで全て、邪竜もろとも。

 どれほど早く動けてもさ、世界をまるごと凍らされたら関係ないよね?


「終わりだよ。邪竜イヴァラング」


 パリィィィィィィィ……ン!!


 世界をおおった氷が粉々に砕け散る。

 凍り付いた邪竜の体と諸共に。




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