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75 純魔の力




 凍った時間の中、私は王都からグラスポートまでの距離を駆け抜けた。

 ガルダと二人で作った山の中の街道、ドラゴンロードを全速力で。

 そして到着早々、邪竜に目がけて十五個の氷山を全力でブッ放し、ガルダのとなりで時間停止を解除。

 かくして今に至る。


 さて、邪竜は雄たけびをあげながらふっ飛んでった。

 ダメージは与えられただろうけど、あんな程度で倒せたとも思えない。

 ともあれまずは――。


「サクヤ、街の人たちの避難誘導をお願い」


「あ……、ネリィさん……! は、はい!」


 尻もちついて呆然としていたサクヤ。

 私の存在に気がつくと、止まっていた時間が動き出したかのように、立ち上がりつつ何度もうなずいた。


「それと、分身使ってミアにもこの状況を伝えて。あの子食堂にいるよね」


「宿のお客の避難誘導やってもらうんですね、了解です!」


 うん、頭の回転は戻ってるね。

 これなら任せて大丈夫そう。

 大きくうなずくと、サクヤは街の人たちに声をかけながら走っていった。


「あとエルコだけど――」


「浮遊城に戻り、其方そちらの援護に回る」


「助かる」


 さすが判断が早い。

 転送魔法陣の応用なのか、エルコはその場から時間でも止めたみたいに消えた。

 たぶん浮遊城の中にワープしたんだと思う。


「さて、避難が終わるまで街に近づけさせないよう、頑張るとするかね」


「避難が終わるまで? 倒しちゃわないの?」


「ハッ、言うねぇ」


 ガルダが竜の牙を天にかかげ、


巨竜転身(ドラゴライズ)!」


 白い巨竜に姿を変えると同時、私は邪竜が吹き飛んだ方向へとジャンプ。

 森の上を飛び越えながら敵の姿を探すと……いた。

 山の中腹あたりで、こちらをじっと見つめている。

 動くつもりがないのなら好都合だ。


「このまま一気に――」


『……純魔の力を宿せし者か』


「え……?」


 頭の中に直接ひびく、重苦しい声。

 まさか邪竜の声か?


『面白い、試してみよう』


 ギュン……ッ!


 はるか遠くにいたはずの邪竜が、一瞬で目の前までせまっていた。

 このままじゃ一発痛いのをもらってしまう。

 だったら……、


時の凍結(クロノ・フリーズ)!」


 ピキィィィ……ン!!


 時を凍らせてやればいいだけの話だ。

 動きの止まった邪竜の前で、空中に作った氷の足場に着地。

 そのまま後ろに飛び下がりつつ片手を上空にかかげ、氷山並の大きさのつららを作り出し、


「ギガント・アイシクルッ!」


 ヤツの腹にめがけて撃ち出した。

 大質量のつららが邪竜のどてっ腹に命中寸前でピタリと止まる。

 時間を解凍した瞬間、ヤツの体を貫通するはず。


「……動け!」


 ズドオオォォォォォォォォッ!!!


 氷山が激突し、氷の破片がキラキラと舞い散る。

 そして邪竜は――。


『成る程、時の凍結。宿した力は氷の純魔か……』


「……ははっ」


 思わず笑っちゃった。

 だって貫通してないんだもん。

 体の真ん中くらいまでをえぐっただけ。

 しかも瞬時に再生していく。

 新たに氷の足場を作って着地した時には、かすり傷すら残っていなかった。


「……ノーダメージじゃなかっただけマシだね。急所さえ的確に打ち抜けば、きっと殺せる……!」


『ネリィ!』


 巨竜に姿を変えたガルダが、私のとなりにやってきた。

 大きな翼で羽ばたきつつ、自分よりもはるかに巨大な邪竜をにらみつける。


『無事、じゃないわけないか。むしろまだ仕留められてない方が驚きだ』


「私もビックリ。ちょっとだけ手こずりそう」


『ちょっと、か。最高に頼もしいね』


 私の軽口で勇気づけられるならいくらだってするよ。

 そのくらい、コイツは規格外。

 できることならガルダだって下がっててほしいくらいだ。


『その姿、その気配。貴様、神竜か? ……いや、違う』


『神竜の力をもらったただの人間さ。感動の再会といかなくて悪かったね』


『で、あろうな。奴には遠く及ばぬ、取るに足らぬ蚊トンボだ』


『あぁ? 誰が蚊トンボだって!?』


『問題は、やはり純魔……』


 スルーかい。

 ホント、ガルダは一切眼中にないって感じだ。


「時間止められるの怖い? だろうね、次の瞬間には頭潰されてるかもしんないんだもん」


『確かに保険が必要だ。あの力、使い時が来たな……』


 保険……?

 何をする気か知らないけど、させるとでも思ったか。


「もう一度……、時の凍結(クロノ・フリーズ)!」


 ピキィィィ……ン!


 妙な動きをする前に、時を凍らせる。

 止まった時間の中で邪竜はピクリとも動かない。

 今度こそ仕留めるために、今回の巨大氷山つららの照準は敵の脳天だ。


「喰らえ、ギガント・アイシクルッ!」


『……無意味だ』


「な……」


 なんでアイツ、今しゃべった?

 時間が止まってるはずなのに、時間を凍らせてるはずなのに。

 嫌な予感がする……。


 ヤツの頭の前で氷山つららがピタリと止まる。

 このまま時を動かせば、邪竜は脳天を刺しつらぬかれてお陀仏だ。

 ……ヤツが、凍った時の中で動きでもしなければ。


『何故無意味か、教えてやろう』


 嫌な想像、ドンピシャの大正解だった。

 全てが凍り付いた時の中、ヤツはスルリと動いて氷山つららの前に回り込んだんだ。


『元来我が体内には、地の純魔が宿っていた。地表を侵す毒炎が地の力だ。しかし五十年前、我は新たな純魔を我が身に取り込んだ』


「五十年前って、まさか……!」


『炎の純魔晶石……。熱とは粒子の加速。事前に我が周囲を加速したならば、停止する時の中を自在に行動可能、ということだ』




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