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73 真面目な話です




 グラスポートの山頂に現れた渦巻く暗雲。

 エルコいわく、アレが邪竜降臨の前兆らしい。


 あと数週間しか猶予がないということで、地下空間を作る作業は急加速。

 私も遠慮なく時間を止めて、掘り崩した土砂はプロムに異空間を経由して外へ飛ばしてもらい、その土砂はこれまでどおりエルコに浮遊城を操作して運び去ってもらう。

 三人のフル回転の連携で、わずか三日で広大な地下空間を掘りきれた。


 お次は昇り降りのための階段や通路、それから建物とかの建設に、空間が崩れないための補強や照明の用意。

 こっちは私たちじゃどうにもならないので、ものすごい技術と身体能力を誇る大工さんたちにまかせよう。



 暗雲を不安がる街のみなさんへは、ガルダが説明をしてくれた。

 あの雲が邪竜降臨の前触れであること、今作っている地下施設が避難所になること。

 可能ならば遠くまで逃げてほしいということまで。

 あとは街にやってくる人たちの一時足止めと、避難先の用意をしなきゃいけない。



 というわけで、黒雲出現から一週間ほどたったその日。

 私とアイナは王城へとやってきていた。


「おーっほっほっほ! ネリィさん、ようこそいらっしゃいましたわ!」


「あ、ど、どうも……」


 出迎えたのはエルサ姫。

 相変わらず気に入られているようで、熱烈な歓迎ぶりだ。

 私室に通されると姫様はいきなり、


「んん、今日も白い肌と艶やかな青い髪が素敵ですわ……」


「ちょ……っ」


 私のほほにつー……と指をすべらせて、髪をひとふさ手に乗せてサラサラと落としていく。

 こ、このスキンシップやり過ぎでは……。


「ま、待って待って待ってぇ!」


「アイナさん。ご機嫌うるわしゅう」


「うるわしくありません! 近いですっ、ネリィに近いですぅ!」


 ムキになって引き離そうとするアイナ。

 普段女の子の裸とかによだれ垂らしてるわりに、こういう時はしっかり私への独占欲を出してくれるんだよね。

 ちょっとうれしい。


「あらあら、妬けちゃいますわね。このわたくしですら、お二人の間に入れないだなんて……、残念ですわ」


「誰であっても入れませんよぉ……」


 うん、まぁそうだよね。

 私も入れさせない。


「……こほん。して、お二方。今日は真面目な話をしにいらっしゃったのですわよね?」


「その通りです、死ぬほど真面目な話です」


 いきなり出鼻をくじかれて、真面目な雰囲気出せなかったけども。

 一通りじゃれ終わったことでお姫様も真面目モードに入ってくださったようだ。


「わたくし、とっても気になっていましたの。ここからでも見えますもの、グラスポートの山頂に渦巻く暗雲が」


 テラスに出て、東の山へ目をむけるお姫様。

 ここからでも見えるってことは、当然、王城の人たちも異変を察知してるわけだ。


「手の者を使って調べさせましたが何もつかめず。……が、お爺様の遺した手記にそっくりな記述がありました」


「五十年前……、王都が邪竜に襲われる前に同じものが現れた。そうですよね」


「……驚きましたわ。あなたたち、どうやってそれを知りましたの?」


「プロムの妹……みたいな存在が教えてくれました」


「まぁ、あの子に妹が……! ぜひとも会ってみたいですわね」


「かわいい子ですよぉ。あの子とも温泉に入ってみたい……。うへへ……」


「私、いっしょに入ったよ」


「うそぉ!? いつ!?」


「工事が始まった日――ちがう、こんな話をしに来たんじゃない」


 話が変な方向に広がって、あやうく脱線事故起こしかけたよ。


「こほん。姫様もご存じみたいですね。あの黒雲は邪竜降臨の前触れ。数週間のうちに、グラスポートに邪竜が現れます」


「その件で、ここへ足を運んできたと」


「はい、街長として一時的な街道の通行止めと、避難を希望する人の受け入れをお願いしに来ました」


「……かつて邪竜は、ボクスルート地方をあまねく灰燼と変えましたわ。王都もまったく安全ではありません」


「問題ありません、私が倒しますので。避難はあくまで念のためです」


「まぁ」


 お姫様、私の自信満々っぷりに、あんぐり開いた口元を片手で隠しながらビックリしてる。

 けど、不可能だとかは思ってないのかな。

 小さく笑ったあとにうなずいた。


「承りましたわ。避難民を受け入れるよう、すぐに手配しま――」


「……ッ!!?」


 ゾクリ。


 その時、氷を服の中に入れられたような、氷水の中に突き落とされたような感覚が全身に走った。

 この世のものとは思えない殺気、重圧、威圧感。

 とっさにグラスポートの方へと目をむける。

 すると……。


「……っ、ウソだろ……!」


「ネリィさん、どういたしました?」


「……邪竜が来ました」


「え……?」


「えっ、えぇっ!?」


 黒雲の中から飛び出した黒い影。

 そいつは信じられないほどのスピードで飛行して、グラスポートの上空辺りでピタリと止まる。

 ここからじゃハッキリ見えないけど、どうやら大きく体をのけぞらせて攻撃態勢に入ったようだ。


「……アイナ、ここで待ってて。お姫様も、安全なところに」


「あ、う、うんっ! ネリィ、頑張ってっ!」


「えぇ、ご武運を!」


「全力で頑張るよ。時の凍結(クロノ・フリーズ)


 ピキィィィ……ン!


 時間を止めてテラスから飛び出し、グラスポートへの道を全速力で走り出す。


 想定よりもずっと早い到来。

 しかも私のいない間に来るだなんて。


 完全に不意をつかれた形だけど、上等だ。

 今すぐ片づけて、平和な日々を取り戻してやる。




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