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72 迷いと戸惑いと




 掘り出した土の処理に出撃した浮遊城が、半重力装置とやらで山のような土を浮かべて遠くに運んでいく。

 さらにプロムも、土を術式空間へ移動させ、違うどこかへワープさせるっていうこれまたよくわかんない芸当で土を運んでくれている。


 始末に困ってた大量の土砂を運び出す速度が、二人の手伝いで効率大幅アップ。

 作業効率の大幅な向上により、たった一日で地下700メートルの縦穴を掘りきれた。

 これで明日から、巨大地下空間を作る作業に入れそうだ。


「ありがと、エルコ。もちろんプロムも。二人のおかげで予定よりずっと早く終わりそうだよ」


「ふふん、もっとほめるがいいのじゃ!」


「礼など不要。邪竜討伐は私の悲願。後顧の憂いなく戦えるなら協力は惜しまない」


 そっくりなのにやっぱ全然態度ちがうな、この二人。

 さて、今日も温泉に入って疲れを取ろうかな。

 できればアイナと二人っきりで……。



 〇〇〇



 ネリィのヤツ、浮かれた足取りで帰っていくのう……。

 大方温泉のことか、もしくは嫁とイチャつく段取りでも組んでおるのじゃろ。

 まったく、わかりやすいヤツじゃて。


 ではワシも、宿にもどってミアの料理を食べさせてもらうかのう。

 あやつの料理、ワシの胃袋をつかんで離さんのじゃ……、じゅるり。


「プロメテウス。少々話がしたい。ので、我が浮遊城に招待する」


「……おぬしがワシをお誘いとな? どんな風の吹き回しじゃ」


 せっかくミアの料理に舌鼓を打って、疲れを取ろうと思っとったというに。

 ……まぁ他ならぬ妹の頼みとあらば、聞いてやらんこともないか。



 浮遊城のテラスにて、夜空を背景に卓を囲んでむかい合う。

 茶など気の利いたものは出ぬが、致し方なし。


 ワシも食の喜びを知ったのは、ついこの間のことじゃからのう。

 エルコルディホの胃袋にもミアの料理をブチ込んでみるか……?


「して、何用かの。おぬしに限って世間話などではあるまい?」


「……ただ話をしたかった。それだけ」


「まことか」


 世間話をしたかっただけ、とな?


「不服?」


「……いや、驚いただけじゃ。なんというか……一万年前とは変わったの」


 先日もネリィの決断に取り乱しておった。

 作られた当初の、感情をまったく感じさせない機械のようなエルコルディホはもうおらんというわけじゃな。


「感情など不要ではなかったのか?」


「不要。判断力に悪影響をおよぼす。精神の平静に乱れが生じる。……かつての災禍を想起するたび、胸が苦しくなる」


「そうか……。ワシは滅びの時に眠っておったゆえ詳細を知らぬが……、辛いものを見たのじゃな。世界を見渡すこの『目』から」


「だからこそ、二度と同じ光景を見たくなかった。不干渉の誓いを破り、ネリィ・ブランケットに接触をはかった」


 先史文明の存在である自分とこの城を、現代の文明にさらさないための不干渉。

 おそらくこやつが決めたのじゃろうが、誓いを自ら破った理由は邪竜による破滅を二度と繰り返させないため、か。

 きっかけとなったボクスルートへの邪竜襲来、さぞ心が乱れたのじゃろう。


「だのに私は……、信じてしまった。託してしまった。ネリィ・ブランケットにすがってしまった」


 顔を伏せたエルコルディホの表情は、雷の魔石で動く頼りない卓上ランプの明かりではよく見えぬ。

 が、声色からは迷い――否、戸惑いがうかがえるのう……。


「確率で導き出せない未知の可能性に、根拠もなく賭けてしまった。プロメテウス、教えてほしい。私の決断は正解だったのか、それとも間違いだったのか」


「うむ、わからん」


「…………」


 いや、そんな未知の魔物を見るような顔されても困る。


「な、投げやりに答えたのではないぞ? 結果はワシにもわからんでな、だからそうとしか答えられんのじゃ」


「……謝罪する。愚かな問いだった」


「愚かでもなかろう。おぬしは感情のままに動いた。賭けたいと、信じたいと思ったのじゃ。だったら成否を案ずるよりも、あとはただ信じよ」


「信じる……?」


「そうじゃ、最後の最後まで信じ続けるのじゃ。後悔は全てが終わったあとにすればよい。邪竜討伐が成ったならば、そもそも後悔する必要などない。今から気を揉んでも、疲れるだけで良いことなど無いぞ?」


「……把握。不整合な事柄に思考を割き、無駄に心を乱してしまった。やはり感情はわずらわしい」


「じゃが、悪いものではなかろう?」


「同意しておく」


 お、少し頬がゆるんだの。

 いい兆候じゃ、姉として嬉しいぞ。


「感情との付き合い方、わかってきたかの。では次は食欲との出会いを――」


 ピピピピピピピピピッ!


「な、なんじゃ!?」


 甲高い警報音が城内から響く。

 いったい何が起こったのか……!?


「力場の乱れを感知? まさか……っ」


 エルコルディホが弾かれたように席から立ち上がり、テラスのふちから空をのぞき込んだ。


「どうしたのじゃ、いったい何が……」


 我が妹の視線は、空高くの一点を見つめたまま。

 同じく視線を見上げると……。


「あ、あれはいったい……」


 グラスポート山の上空、黒雲が渦を巻き、異様な雰囲気を醸し出している。

 自然現象、とはとても思えぬ。

 腹の底から恐怖がしぼり出されるような、得体のしれない感覚に襲われる。


「あれは、邪竜イヴァラング出現の兆候……。数週間のうちに、ヤツが来る……!」




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