表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/93

70 感情のままに




 浮遊城に招待された私たちは、空飛ぶ城の真下までやってきた。

 エルコに続いて転送魔法陣の上で立ち止まると、次の瞬間景色がまるっと切り変わる。

 時間止めて場所移動させられた人って、こんな感じなんだろうな。


 ワープした城の中はオーソドックスなレンガ造り。

 ただひとつ異質な点は、プロムのトコと同じ緑のラインが壁や天井を走ってること。


 そのまま案内されてたどり着いた、なんだか見覚えのある大きな部屋の中。

 カベにマドみたいな――プロムはモニターって言ってたっけ、ソレがたくさんついていて、どこかの風景が映し出されてる。


「ここは……?」


「観測室。衛星軌道上の端末を通して、各地の映像を観測可能」


「え、えいせいきどう……?」


 なんかもうよくわからん単語が出てきた。

 まぁいいや、置いとこう。


「そして過去に観測した映像の閲覧も可能。先史文明のデータは抹消済。しかし、五十年前における襲来時のデータは生きている。これより映像を見せる」


「ボクスルート地方が、焼かれた日……」


 アイナがそでをギュッとにぎりながら、小さくつぶやく。

 思うところあるんだろうな。

 生まれる前だけど、自分の人生を大きく変えた出来事だもん。


「アイナ、辛いなら――」


「ううん、見るよ。見なきゃいけない気がする」


「そっか」


 芯は強いんだよね、この子。

 長い間つぶれそうな宿を一人で支えただけある。

 そんな私たちのやり取りはどこ吹く風で、モニター前のイスにすわって淡々と準備をしていくエルコ。

 やがて――。


「準備完了。これより再生する」


 その言葉と、カチっ、とボタンを押す音を合図に、モニターに映像が映し出された。


 黒く染まった空、炎上する街と城。

 その上空に浮かぶ、巨大な翼を四つ生やした竜のようなナニカの背中。


 王城のテラスに置かれた黒い砲台みたいなものから、ソイツに目がけて巨大な火炎弾が発射される。

 竜の全長よりも巨大な火炎弾だ。

 ところが、火炎弾は着弾直前で消失。

 次の瞬間、映像は閃光につつまれて真っ白になり、視界が晴れた時。

 そこには、燃え盛る荒れ地とガレキの山だけが残されていた。


「な、なんだ、今の……」


 ガルダの頬から大粒の汗が伝う。

 ミアもサクヤも、言葉を失っている。


「以上、邪竜イヴァラングの戦闘記録。不鮮明な部分も多いが、その脅威は伝わったはず」


「……あの、エルコ。邪竜を砲撃してた大砲、アレはなに?」


「炎の純魔晶石を用いた兵器。単純な攻撃力だけならば、ネリィ・ブランケットと同等の力を持っていると考えられる」


 そうか、アレがお披露目予定だったっていう『凄いモノ』か。

 アレを完成させてしまったがために、邪竜は降臨した。


「邪竜の脅威が理解できただろうか。であれば即刻退去を――」


「出ていかないよ」


 さっきまでの私なら、きっと出ていく選択をしたと思う。

 でも、街のみんなと宿の仲間たちが教えてくれた。


「不可解。説明を要求する」


「……もしも私がいなくなったら、この街の人たちは安心して暮らせなくなる。どうやら私、悪党避けの抑止力になっちゃってるみたいなんだ」


「抑止力……? あ、そっか、もしかしてあの兵器も――」


 何かに納得いったみたいにアイナがうなずいた。

 あの子の中でも、なにか答えが出たのかな。

 私も私の答えを叩きつけてやろう。


「それに、私自身も逃げたくない。ミアに認められる強者でありたいし、ガルダのお願いを叶えるおせっかいでありたい。頼れる街長さんで居続けたい。……なにより、アイナを悲しませたくない」


「……その結果、グラスポートがかつての王都のように、灰燼と化そうとも?」


「そんなことにはならないよ。私がアレを倒すから」


「……っ! どうしてそう言い切れる!! 提示したはず! グラスポートが滅びる可能性は100%だと!」


 瞳の端に涙を浮かべて、エルコが叫んだ。

 どうしてわかってくれないの。

 そう言いたげに、何度も頭を左右に振りながら。


「これまで観測したネリィ・ブランケットの戦闘データを用い、何万、何億とシミュレートした確たる結果! なのに、なぜ――」


「私のデータなんて集めてたんだ。……けどさ、そんなシミュレーションに意味なんてないよ」


「否! 私の演算能力を用いれば、限りなく現実に近づけられる!」


「エルコの能力を否定してるんじゃない。私の戦闘データが無意味って、そういう意味」


 涙をにじませたエルコの頭をポン、となでてから、私は答える。


「だって私、これまで一度も本気の本気を出してないんだもん」


 そう、恥ずかしながら本気で戦い合える相手が今までいなかった。

 ベヒモスに試した本気は、魔力を形にせずにそのまま全力でぶつけてみるというもの。

 そのあとの戦いも大体手加減してたり、そもそも戦いにすらならなかったり。


「私の本気、私ですら知らないんだ。ネリィ・ブランケットの全力は確率じゃ測れないよ」


「その、ような……っ」


「エルコさ、きっと何千年……何万年も、世界が滅びる記憶を持って生き続けてきたんだよね? ……つらかったね」


「辛いなど……。私は感情に流されない。そこの旧式とは違う……」


「違わないじゃろ。つか旧式言うな」


 プロムがジト目で、エルコのおでこをピンと弾く。

 ただ怒ってるわけじゃなくて、妹を見守るような優しい感じで。


「お主にも感情、ちゃんと組み込まれておるではないか。あるいは長い年月の間に芽生えたのか。……のう、感情があるのなら、押し殺さずに感情に従ってみぬか?」


「感情、に……?」


「心の声のまま、望むことをこやつにぶつけてやれ。心がスッと軽くなるぞ?」


 戸惑いを隠せない様子で、エルコの視線が左右にさまよう。

 やがてその目は私をまっすぐに見据えて。


「……ネリィ・ブランケット。邪竜イヴァラングを、倒して……! もう、邪竜が全てを壊すところを、見たくない……っ!」


「……了解。頼まれたならやらないわけにはいかないね。サクヤいわく、おせっかいさんみたいだし」


 ぽんぽん。

 軽く頭をなでてあげると、エルコの瞳から大粒の涙があふれ出す。

 それと同時に、


「……ありがとう」


 初めて、この子はニコリと笑った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ