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7  泥棒ネコを捕まえろ




 叫び声にあわてて服を着て、アイナがいるはずのキッチンへと急ぐ。

 まさか泥棒か盗賊か、また物騒なモンスターでもでたのか?


「アイナ、なにがあったの!?」


「えぅ、えぐぅ……」


 キッチンに飛びこむと、アイナは床にへたり込んで半泣き状態。

 さらには宿の裏へと出られる勝手口のトビラが半開きになっていた。

 まさか、ホントに泥棒……?


「ね、ねこが、ねこがぁ……」


「……ネコ?」


「うん、ネコがね……。タマゴと干し肉と山菜持ってったぁ……」


「……そりゃまた、たくさん盗られたね」


 ずいぶんと大喰らいの泥棒ネコのようで。

 そういや、昨日もアイナってばネコに料理取られてたな。

 こりゃ完全にナメられてる。


「そのネコについて詳しく教えてくれるかな」


「半月くらい前からね、この村に住み着いた黒猫さんなの。最初はかわいいなぁって思ってたんだけど、だんだんあたしの食べ物狙うようになってきてぇ……。今日はとうとう、キッチンにまで侵入されたぁ……」


「あー、なるほど……」


 こりゃ完全に、完璧にナメられてる。

 一日いっしょにすごしただけでも、この子がどんくさそうなのわかるもんな……。

 とはいえ、このまま放置してエスカレートしたら大変だ。

 引っかかれてケガでもされれば一大事。


「……よし。そのネコ、私が捕まえるよ」


「ほんとぉ!? 助かるよぉ、ありがとネリィ!」


 両手をにぎってぶんぶん。

 これはこの子のクセなのか、感謝の気持ちだけは痛いほど伝わってくるけども。

 にしても、魔獣ベヒモスの次の相手が泥棒ネコだとは……。



 時間はすぎて昼食前。

 私は今、キッチンの物陰に気配を殺して身をひそめている。

 昼ごはんの用意をするアイナの様子を、じっと見守りながら。


「うっ、うぅぅぅっ、きょ、今日のお昼はスープパスタにしよぉかな~?」


 野菜をグツグツ煮ているナベを前に、包丁片手に体をゆらしながら、ムリに明るい声を出してる姿が痛々しい。

 怖いのはわかる、でもガマンしてくれ。

 この作戦はキミにかかってるんだから。


 作戦はいたって単純。

 朝みたいにアイナに料理をしてもらって、ネコがおびき出されたら私が時間を止めて捕まえるだけ。

 たっぷり温泉に入ってきたから体はバッチリ、ポカポカだ。


「そ、そうだぁ! お肉もいれちゃお~! 今朝買ってきたばっかりのおいしいベーコンを――」


 ギイィ……。


「ぴっ!!」


(来た!)


 ゆっくりと開く勝手口のトビラ。

 短く甲高いアイナの悲鳴。

 いったいどうやって開けたのか、侵入してきた黒猫は姿勢を低くしながらアイナに近づいていく。


「ね、ねこちゃ~ん……、あのね、ここにはね、ねこちゃんのご飯はないの……。だ、だから……」


「フー……、フシャー!!」


「ひゃああぁぁぁ!!」


時の凍結(クロノ・フリーズ)


 ピキィィィン……。


 黒猫が飛びかかった瞬間、時間を凍らせた。

 のけぞった体勢で固まったアイナの前に移動して、ベーコン目がけて一直線に飛んでいく黒猫の首根っこをガシッとつかむ。


「これでよし、と。解凍」


「ああぁぁああぁぁぁ……あれ?」


「フシャッ……、ふにゃ……?」


 時間が動き出して、いきなり現れたように見えたんだろう。

 きょとんとした表情のアイナに、首根っこつかんでぶら下げた黒猫を見せる。


「終わったよ。捕獲成功」


「わぁ、すごい。ありがとうネリィ!」


「ベヒモスに比べたらチョロいって」


「ナッ、フシャッ!」


 ネコは私の手から逃れようと、必死に暴れ続けている。

 ま、逃げられるはずがなかろうが。


「で、コイツどうする? かるーくシメとく?」


「ひ、ひどいことはしなくていいよぉ、かわいそうだよぉ……。飼ってくれるおうちを探すとか?」


 アイナは優しいねぇ。

 黒猫のヤツも観念したのか、やっと大人しくなった。

 さて、それじゃあこのまま村を回って飼い主候補を――。


「……ニャッ!!」


 カッ!!


「うわっ!」


「ひゃぁぁっ! 今度はなにぃ!?」


 大人しくなったと思ったとたん、ネコの全身が光につつまれた。

 なにを言ってるかわからないと思うけど、私もわからない。

 ネコのシルエットは光の中でどんどん大きく、人型に変化していって……。


「え? えっ? お、女の子……?」


 光が消えたとき、そこには黒髪、黒ネコ耳の女の子がいた。


「は、放せ! えり首離すのだ!!」


「あ、ごめん」


 ネコの首根っこつかんでたはずなのに、いつの間にか女の子の服の首根っこつかんでた。

 手を離すと女の子は服を正して、私にびしっと指を突きつける。


「初対面の相手の首根っこをつかむとは! 失礼なヤツなのだ!」


「……あのぉ、あなたは……?」


 いきなり現れた女の子に、おそるおそるアイナがたずねる。

 てか、明らかにネコが変身したよね。


「よくぞ聞いてくれたのだ! 我が名はミア! なにを隠そう、流浪さすらいの料理人ミアとは我のことよ!」


 料理人を自称したこのネコ娘、たしかに胸元に二つ、包丁の入ったケースがついている。

 そして背中に背負った、包帯でグルグルに巻かれたでっかい包丁。

 それも調理器具なのか……?


「……で、その流れの料理人が、なんでアイナの食材を盗みまくってたわけ?」


「この世は弱肉強食。弱き者は強き者に奪われる、それがセツリ……」


「あ、あたし弱き者ぉ……?」


「そしてミアは誰より強い。弱者は強者に従うしかないのだ……。というわけで食材はいただいていく」


「いくな、待て」


「ぐえっ」


 ベーコン持っていこうとするネコ娘の首根っこを引っつかむ。

 コイツ、ネコみたいに自由気ままで自分勝手なヤツだな……。


「なんなのださっきから! ミアの首を取っ手みたいに引っつかんで!」


「食べ物食べるには対価が必要。お金とか労働とか。わかる?」


「お金……とは……?」


 コイツ、本当に心の底からわからないって顔している……。

 まったく違う文化圏から来たとでもいうのか、このネコは。


「とにかく離すのだ、無礼なヤツめ!」


「うーん……」


 遠くの国から来たっぽい獣人娘。

 コイツに一から貨幣かへい経済のなんたるかを教えるよりも、コイツの価値観に合わせるほうが手っとり早いか。


「ミア、だっけ。強い者は弱い者にしたがうって、さっき言ってたよね」


「その通りなのだ!」


「だったらさ、私と勝負しようよ。勝ったら言うこと聞いてもらうから」




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