65 早朝貸し切り状態
アイナ渾身の巨大温泉、流れるお風呂にスライダー付きは、オープン当日から大盛況。
すぐにウワサが王都まで広まって、宿泊客以外のレジャー目的の人まで押し寄せることに。
服飾店の人、水着が飛ぶように売れて笑いが止まらないだろうな。
「おーっほっほっほっほ!! 貸し切り! 早朝貸し切りですわっ!!」
この人も笑いが止まってないし。
サウザント王国第三皇女のエルサ姫。
はるばる巨大温泉につかりにきたVIPのお客人。
人がたくさんいる通常営業中に行かせると騒ぎになりかねないので、開場する前の早朝にこうして入っていただいてる。
あとついでに、いつもは入りたくても入れないほど忙しいミアやサクヤもいっしょだ。
「にゃああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! 高速ネコ掻きィィィィィィッ!!!」
水しぶきを上げながら猛烈な勢いで泳いでいくミアは、凹凸ひかえめな体型に似合うワンピースタイプの水着をご着用。
とっても楽しそうでなによりだね。
「おーっほっほっほ! さぁアイナさん、ざぶーんっとやっておしまいなさい!!」
スライダーのてっぺんには、さっきから笑いが止まらないお姫様。
赤と白のしましまビキニを着てる。
アイナに腕を持ってもらって、すべっていかないようにしてるご様子。
「は、はい、行きますよぉ……」
合図をもらったことで、アイナが手を離す。
そのとたん、お姫様は高笑いしながら勢いよくすべり出し、ざぶーんっ、と盛大な音を立てて着水。
「……ぷはっ! おーっほっほっほ!! 楽しいですわ! アイナさん、もう一度ですわっ!!」
「は、はいぃ……」
お姫様の接待、大変そうだな……。
私も援護に行きたいけど、アイナからダメって言われてるし。
そういや、サクヤとガルダは何してるんだろ。
探してみると……、いた、流れる水路に二人いっしょだ。
ちょっと声をかけてみようか――。
「きゃっ、お姉さまぁ……。ここ、流れが速くて怖いですぅ……」
「ははっ。怖がりだな、サクヤは」
「意地悪ぅ……。知ってますよね? 私がホントは――」
「あぁ、知ってるさ。サクヤが本当はとっても臆病だって、わかってる」
「お姉さまぁ……」
「アタシにしっかりつかまって、ひっついてな。絶対に離れるんじゃないよ」
「はいっ、絶対に離れません……っ」
……声かけるのやめとこ。
てかなんだあの茶番。
絶対にイチャつくための口実だろ。
「……なんかもう、いいや」
お姫様はアイナが接待してくれてるし、ミアも一人で楽しんでて、バカップルは二人の世界だし。
私は一人、のんびりぷかぷか浮かんでいようかな……。
「なんじゃ一人で。みなのとこには行かぬのか?」
「……行っても特にやることなさそうだし。で、アンタはアンタでやっぱりいきなり出てくんだね」
いつの間にか、となりでプカプカ浮かんでた金髪幼女プロメテウス。
さすがにもう驚かない。
「む、ならば合図を決めようか。ベヒモスがダンジョンから飛び出してくるのはどうじゃ?」
「勘弁して……」
さらっと恐ろしいことを言ってのけるな。
てか、よく見たらちゃっかりミアとおそろいの水着着てるし。
「しかし、また愉快なものを作ったのうお主」
「考えたのも作らせたのもアイナだよ。私は今回なんにもしてない」
「ほう……。あの少女もやるものじゃ」
そうそう、アイナはすごいんだよ。
今度は本人の前でほめてほしい。
「……あ、そうだ。あれからもう半年近く経つけどさ、結局ダンジョンのバグの原因わかんないまま?」
「何者かが書き換えたような痕跡を見つけた。見つけたのじゃが、犯人の心当たりがまったくない。そもそも今の世に、ダンジョンの術式にハッキング可能な存在がいるものか……」
「ハッキングとかはよくわかんないけど、少なくともプロムと同等の技術がなきゃムリってこと?」
「左様。同等か、もしくはそれ以上……じゃ」
そんな存在が先史文明から残ってて、今もどこかに存在し続けている。
そう考えるのが自然、だよね。
「逆探知などいろいろと試しておるわ。ワシには悠久の時間があるでな、気長に行くのじゃ」
「アンタが気長っつーことは、ホントに気長にやるんだろうね。下手すりゃ私らの寿命が尽きるレベルで」
なんかもうスケールが大きすぎてついていけないや。
私はこの街の長で、小さな宿を大きくするのにがんばってるだけの人間だし。
難しくって壮大なことは、全部この子がやってくれるでしょ。
私はひとまず、この場でぼんやりぬくぬくしてますよ、っと。
「…………」
「…………」
「……泳いだり流されたり、しに行かないの?」
「童じゃあるまいに。ワシはこの場でのほほんとするのじゃ」
「……」
子どもじゃん、と言おうとして言葉を飲み込む。
まぁいいや、動かないなら動かないでまったりと……。
「おーい、プロムじゃないか!」
「む、竜の少女か」
あら、さっきまで嫁とイチャイチャしてたガルダがこっちにやってきた。
嫁のシノビはというと、ミアといっしょに水路を流れに逆らって、猛烈な勢いで遡上してる。
おい、さっき「流れが速くて怖いですぅ」とか抜かしてたのはどの口だ。
「久しいな、お主とはなかなか顔を合わせられなんだの」
「アンタに聞きたかったことがあるんだが、残念ながらいつもタイミング悪くてさ」
そうだね。
勤務時間以外、四六時中サクヤとイチャイチャしてたもんね。
「あのさ、前にネリィに話したろ? 秩序を司る最強のドラゴンの話」
「したのう」
「どうにも気になってさ……。例の、破滅の竜と無関係とは思えなくて」
「しかしな、ネリィにも告げた通りよくは知らぬのじゃ。把握しとるのは造られた目的と、その名くらいじゃのう」
「名前……か。十分だ、名前くらいは教えてくれよ」
「物好きじゃの。あー、と、確か……。……そう、レガトゥース。神竜レガトゥースじゃ」




