58 ドラゴンロード開通
しゃべるドラゴン、神竜レガトゥース。
ソイツの遺した遺言というのが――。
「『災厄の竜を斃せ。我が牙を剣とし、その眉間に突き立てよ』……って言い残して息絶えたんだ。絶対にブチ殺せって恨み憎しみたっぷりに」
「そりゃおだやかじゃないね……」
「で、作られた剣を村でいちばん腕の立つアタシが持たされて、無理やり旅立たされた。例のドラゴン殺すまで帰ってくんなって」
「……なんというか、大変だったね」
「大変だったさ。コイツのおかげで、強さの面では苦労しなかったがね」
となりに立てかけた相棒をコンコン叩くと、ガルダはまたハートのチキンサンドをパクついた。
「ま、アタシ自身も嫌々やってるわけじゃない。竜が暴れた結果の悲劇は山ほど見てきたし、アイナの話を聞いた今となってはなおさらさ」
「……たしかに、ね」
ボクスルート地方をまるごと生き物の住めない土地に変えたドラゴン。
そんなのがどこかで生きてて、いつどこに現れるかわからない。
他人事にしておくには規模がデカすぎる。
「誰に言われたからじゃない。アタシはアタシの意志で、ソイツの眉間に『牙』を突き立ててやる」
サンドを食べ終えたガルダが、決意のまなざしで剣をにぎった。
「……ま、手がかりもないんじゃ探しようがないんだがね。今はコイツの力を土木工事に利用させてもらうさ」
「平和的利用。力の使い道としては一番だ」
「ははっ、違いない」
〇〇〇
道なき道を切り開くというのは、やっぱり大変だ。
雪を押しのけ森の木々を粉砕して、開拓した地面を踏み固めてもらいながら少しずつ、少しずつ王都を目指す日々。
開拓を始めて一週間たった今日、ようやく。
「山道を、抜けた……」
平原まで、王都へ続く街道までたどり着いた。
新しい道をつなげられた。
ぺたん、とその場に座り込む。
疲労感は特になく、達成感と解放感から。
『とうとう、とうとうやったな、ネリィ……!』
「うん……! やっと、やっと……っ、やっとこれでクソ寒い中重労働しなくてすむ……!」
『そっちかよ』
……こほん。
いや、もちろん街のためとかみんなのためとか、そういう思いも持ってるからね。
とにかく私たちの努力のおかげで、街と王都を結ぶ街道はリニューアル。
新しく通りやすいルートを開拓したおかげで、子どもでもふもとから街まで楽に歩いてこられそう。
これで雪が降ったとしても、物資の輸送に困らないはず。
「よし、試しにグラスポートまで歩いてもどってみよう」
『だな。最終チェックだ』
ガルダの巨体が光につつまれて、ドラゴンから人間の姿に。
抜き身だった竜の牙を背中に背負うと、私たちはテクテク街へと歩き出した。
……あ、後でお城に完成報告書届けにいかないと。
道中、とくに問題はナシ。
歩きやすいはばの広い道。
危険な場所も特になく、スイスイと戻ってこられた。
交通の便、かなり良くなりそうだな。
旧街道も残ってるけど、使う人いなくなって荒れていきそう……。
まぁ、危なくなったら廃止すればいいか。
〇〇〇
王城への届け出も終わって、正式に新しい街道が開通した。
白い竜となったガルダが舗装してる姿は遠くからでも目立ったようで、多くの人が見ていたらしい。
そのおかげで新街道は竜の道、ドラゴンロードという愛称がつけられた。
雪がつもっても問題なく通行できる広さのおかげで、王都からの輸送はまったく問題なし。
いつもと変わらない食材や生活用品が、安定して入ってくるように。
寒い中、がんばった甲斐があったってモンだ。
「ネリィ、おつかれさま。がんばったねぇ」
「うん、つかれたし寒かった……。もう行かなくていいと思うと、解放感がハンパない……」
「よしよし、偉かったよぉ」
昼下がり、あったかい部屋でアイナにひざまくらされて、頭をよしよしされる。
ノーギャラの仕事だったけど、ごほうびがコレなら文句ないや……。
「もうこの冬はなにもしない……。ずっと宿の中にいる……」
「冬眠しちゃう?」
「ん……。アイナもいっしょに冬眠しよ……」
「魅力的な申し出ですけど、つつしんでお断りしますっ。宿の経営、がんばんなきゃいけないもん」
どうせ冬場だし、お客さんあんまり来ないじゃん。
そう口に出しかけたところで、そういえばと思い出す。
今朝のお客さんの数、秋までとあんまり変わってないような……。
「……あの、もしかして忙しかったりする?」
「うんっ、新しい街道のおかげだよぉ。試しに歩いてみる人だったり、雪のせいで来たくても来られなかった人が街まで来るようになって」
「あー、なるほど……」
「だからね? ネリィも冬眠してる場合じゃありませんっ! はい、午後からまたがんばるよぉ!」
ひざまくら終了、ゴロンと床に転がされる。
ここまでの効果が出るなんて、ちょっと張り切りすぎたかな……。
ま、アイナが嬉しそうだからいいや。
 




