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57 工事のお供に愛妻弁当




「ネリィ、今日も気をつけて頑張ってきてねっ」


「ありがと、アイナ。行ってくる」


 アイナに愛妻弁当……じゃないけど、手作りのお弁当を渡されてお見送りされる。

 なぜミアに作らせてくれぬのだ、とかネコが騒いでたけど、そうじゃないんだよなぁ……。


「お姉さま……、いっしょに働けなくてサクヤさみしいです……」


「ごめんな、できるだけ早く終わらせるから」


「はい……! あの、私もコレ、お弁当作ってきました……」


「ありがとう。おいしくいただかせてもらうよ」


 同じく愛妻弁当を受け取って、サクヤの頭をなでなでするガルダ。

 アレもうわかっててやってるよね。

 裏でこっそりくっついたりしてるんじゃないのか、あの二人。


 ちなみに今は作業三日目。

 ただいまの進捗しんちょくは全工程の5分の3程度。

 単純計算だと、あと2日はかかるかな。


 ま、あくまでも単純計算。

 私の考えてることを実行した場合、一週間以上伸びそうだ。



 街を出て、本日の作業場所めざして広くなった道を歩いていく。

 山道にもかかわらず、馬車が三台はならんで走れる道はばの広さだ。


「これなら物資の輸送に困らないね。むしろ前より往来おうらいが盛んになりそうだ」


「道も平らだし。子どもでも安心して歩けそうだよね」


 かつての村の中と、歩きやすさがほとんど変わらない。

 巨大なドラゴンの足でしっかり踏み固められ舗装された道。

 山道をこんなにするなんて人力じゃあまずムリだろうな。

 私でも手間かかりそう。


「ガルダがドラゴンになれて、改めて助かったよ」


「アタシってか、この『竜の牙』のおかげだけどな」


 竜の牙、か。

 ガルダの背負った、殺したドラゴンの力と能力を吸い取る魔剣。

 考えてみれば、こんなとんでもないシロモノをどこで手に入れたんだろう。


「ねぇ――」


「お、今日の作業場所が見えてきたよ!」


 あら、聞こうと思ったのに。

 本日舗装するのは、山道の中間地点あたり。

 さて、はりきっていきますか。



 いつものように道沿いの木を凍らせて粉砕、ドラゴンになったガルダがしっぽと足で固めていく。

 そんな感じでしばらく進んでいくと、木々がとぎれて一気に視界が開けた。


 眼下に広がる雪をかぶった白い森と、遠くに小さく見える王城。

 道は曲がりくねって、崖沿いにせまい道として続いていく。

 ギリギリ馬車が通れるくらいの広さの、難所と呼ばれてるところだ。


『これを広げるの、ムリじゃないか……?』


「うん」


 同意。

 だって広げるスペースがないんだもの。

 もう崖をけずるしかないんだもの。


『どうするよ。ここで計画頓挫(とんざ)かい?』


「知らなかったわけじゃないし、考えてなかったわけでもないよ」


 ここから先の道は、崖沿いに下ったあと大回りしながら森の中を地形に沿いつつ曲がりくねって続いてく。

 直線距離で考えると遠回りになってるわけだ。

 だから――。


「どうだろう、ここから先は新しい道を作ろうと思うんだけど」


 なかなかムチャな提案だと思ってる。

 用意された道を拡張するのと、何もないところに新しい道を作るのじゃ苦労は段違い。

 さっき思った通り、あと一週間は伸びるだろう。

 断られたら違う手段を探すつもりだけど、さて反応は……。


『あははっ! アタシらで新しい道を作る、か! 面白い、やろうじゃないか!』


 よかった、思いの他乗り気だった。


『で、まずはどうすんだい?』


「うん、まずは――」



 崖を避けて、森の中のゆるやかな斜面を選んで道を切り開いていく。

 なんとか最短距離でガケ下まで道を引けた頃には、もうお昼時だった。

 いったん休憩、たき火を囲んで暖をとりつつ昼食だ。


「サクヤの作った弁当、相変わらずスゴイね……」


 バスケットにあふれんばかりに詰め込まれたチキンサンド。

 それだけなら普通なんだけど、カットの仕方がハートマークなんだ。

 肉も、パンも、野菜も、全部が。


「かわいいだろ?」


「……念のため聞くけど、サンドが? それともサクヤが?」


「どっちもだよ」


「はいはい、ごちそうさま」


 食べる前からお腹いっぱいです。

 私の方は、ごくごく普通のパンに切れ目を入れてソーセージをはさんだもの。

 シンプルなモノでも、アイナが作ってくれたと思うとすっごくおいしい。


 ちなみにバスケットの底に炎の魔石が仕込んであるから、冷めずにあったかいまんま。

 ここでも気配り上手なアイナのいいとこが出てるよね。


「……あ、そうだ」


 一口ほおばりながら、朝に聞こうと思ってそれっきりだったことを聞いてみる。


「『竜の牙』って、どこで手に入れたモノなの?」


 巨竜の牙を削り出して作ったものだってのは聞いたことある。

 でも、どんなとんでもないドラゴンの牙を使えばそんなシロモノが出来上がるんだ。

 やっぱり非常に気になる。


「コイツは神竜レガトゥースの牙さ」


「しんりゅう……?」


「アタシの生まれ育った村に居着いてた、まぁ守り神みたいなモンさね。ソイツは古くから――ずっとずっと昔からそこにいたらしい。たまにどっかに飛び立って、なんかやってたみたいだけど」


「聞いたことない名前だな……」


「あくまで村の守り神だからねぇ……。ただ、あらゆる竜の力を吸収する特別なドラゴンだったんだ。で、アタシが生まれる三十年くらい前、その竜いきなり体調崩しちまったんだと」


 体調不良とは。

 そうとうなご高齢だったのだろうか。


「だんだんだんだん弱っていって、アタシが物心ついた時にはもう飛べなくなってたらしい。現にアタシ、アレが飛んでるトコ見たことないよ」


「で、老衰してそんな姿に?」


「いや、それがね。どうやら老衰じゃないらしいんだ。とある存在のせいだって言ってた」


「言ってたとは」


「言ってたんだよ。ソイツしゃべれたんだ」


「なんと」


 しゃべるドラゴン、コイツは珍しい。

 ……いや、正直半信半疑ですけども。




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