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56 冬季雪中強行事業




「えー、近ごろお客さんが減っています」


「な、なんだと……っ!!」


 朝のミーティングで、アイナの口から大々的に発表された事実。

 そういや、昨日あんまりいそがしくなかったな。


 大ショックって顔してるミアは置いといて、まぁ予測できた範囲だ。

 だって……、


「冬だからじゃない? 寒いと外出たくないモンでしょ」


 冬は暖炉のついた部屋の中で布団を五重にかぶって炎の魔石を十個くらい抱えるに限る。

 ……私だけってのはわかってるよ、もちろん。

 普通の人は夏場の私くらいの厚着するだけで平気なんだろうし。


「えっとぉ……、冬季の客入り減少そのものは想定内でした。正直、そっちは大した問題じゃありません。問題は、減少の原因の方ですっ!」


「なんだと……っ!!」


 まったく同じリアクションかよ。

 ま、常夏から来たコイツにとって冬は初めてだろうから。


「問題はね。お客さんの入りじゃなくってぇ……」


 なんだろ、それ以外の問題。


「王都とココをつなぐ旧街道がね。雪でほとんど埋もれてしまって……。王都からの人や物資がこの街に来られませんっ!!」


「だ、大問題じゃん……」


「そ、そうなのだ……、大問題なのだ……! ミアの食堂が、開けなくなってしまう……!」


 ミアの言うとおり、この宿の食材の大部分は王都の商人に届けてもらってるものだ。

 十日分くらいの食材をまとめて持ってきてもらって、腐りやすいモノは地下の食糧庫で私が凍らせている。

 だからいつでも新鮮なままおいしく食べられ――まぁ、この話は置いといて。


「食堂も問題だけどさ。そもそも街全体が飢えかねないよね」


 この街、山の中にあるだけあって畑はごく小さな趣味程度の規模しかない。

 ルミさんの牧場も本格的な始動は春からだ。

 つまりこの街、食料のほとんどを王都からの輸入でまかなっているわけ。


「なるほどね。人が増えてきても、人数を食わせるだけの生産力がまだこの街にはない、と」


「さすがお姉さま、要点をしっかりまとめてくださってます!」


 冬は飢饉ききんと凍死がつきものだ。

 まさか絶賛発展中のこの街に、そんなピンチが訪れるとは夢にも思わなかったけど。


「うぅ……、今年はいつもより雪が多いみたいで……。こんなことならもっと早くに手を打っておけばよかったよぉ……」


「……どうやらここはアタシら二人が、一肌ぬぐしかないみたいだね。ネリィ?」


「だね。寒いし一肌も脱ぎたくないけど仕方ない」


 街のために極寒の中、ちょっくらタダ働きでもしてきますか。



 〇〇〇



 たっぷり2時間温泉につかったあと、コートの中に暖房用の炎の魔石五十個を仕込んだ。

 これが私のフル装備、極寒の中でも寒くない。


「小刻みに震えてるが……。ネリィ、いけるかい?」


 訂正、死にそうなほどには寒くない。

 普通に魔力を使えるし、ふだん通りに動ける自信もある。

 湯冷めまでの時間はいつもより短いだろうけど……。


「……いける、と思う」


「上出来、声までは震えてないな」


 ニヤリと笑って、ガルダが『竜の牙』を両手にかまえた。


 今私たちがいるのは街の西側、王都へと続く道の前。

 うっそうと茂った森にのびていく小さな山道が、雪に埋もれて消えそうになっている。


「こりゃ、確かに誰も通れなくなりそうだね……」


 この旧街道を、これから私たちの力で馬車がすれ違えるくらいの広々とした街道に作り変える。

 冬季の危険な、しかも長い区間を整備しなきゃいけない大事業。

 普通の人なら無理だろうけど、私たちなら短期間でいけるはず。


「さ、アタシらで道を切り開くよ!」


 うまいこと言って、ガルダが手にした大剣を天高く振りかざす。

 瞬間、その体がまばゆい光につつまれて――、


巨竜転身ドラゴライズ!!』


 巨体をほこる白い竜へと姿を変えた。

 アウロラドレイクの事件の時に、この能力は広く世間に広まってる。

 だからとつぜん村の中にドラゴンが現れても、騒ぎにはならないはず。


『さぁ、手はず通りにいくよ!』


「りょーかい。ガルダはあとからついてきて」


 道幅を広げるための工事計画はこうだ。

 まず私が先を行って、


「……ブリザード」


 道のそばに生えてる木を、極低温の風で根っこまで凍りつかせて粉砕。

 十分な広さを確保したところで、後ろから来るガルダがそのパワーで道を踏み鳴らし、平らに固めていく。

 これを山道の入り口まで続けていく、ちょっと気の遠くなりそうな作業だ。


『必要以上に木を取り除くなよ。木の根に支えられた地盤がもろくなって、土砂崩れの危険が増える。他にも雪崩や土石流を食い止めてくれたりするから、森は大事なんだ』


「そうなんだ、気をつける」


『あぁ、気をつけてくれ。欲にまみれて木材を取り尽くし、山を裸にした結果、土砂に埋もれて滅びた村を見たことがある』


「それはお気の毒」


『いやいや、ありゃ自業自得だったな。なんせその村ときたら――』


 そんな雑談を続けつつ、私たちは順調に工事を進めていく。

 とはいえ、普通の人が歩いたら半日はかかる距離を舗装していかなくちゃいけないわけで。

 この作業、いったい何日かかるのやら。




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