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55 地獄の季節がやってきた




 コショウの輸出が始まったとのウワサを聞きつけて、王都の商人たちが続々と集まって、果ては姫様から聞いたのか王宮御用達の料理番までやってきて。

 この街のコショウは、いろいろなところに流通していくことになった。


 コショウで儲けたぶんは、街長として全額街の金庫に納めることに。

 そうして2か月が経過して……。


「……すっごい金額になっちゃったんだけども」


 金庫の中には数十億ゴルド。

 金庫の中、というと正確じゃないか。

 正しくは、五個の満タンになった金庫の中、だ。

 早朝のミーティングにて御開帳すると、真っ先にミアが目を輝かせる。


「な、な、なんたる輝き……っ! これほどの金額、ミアも初めて見るのである……っ!」


「宿のお金ではないけどね。しっかし、コレどうすんだい?」


「はいはいっ! 私とお姉さまの結婚資金に――」


「ソイツは自腹で払おうな?」


「てへっ」


 ……いや、ちょっと待て。

 ツッコむのはそこか?

 それともアンタら、もう行くとこまで行ってんのか?


「……こほん。もちろんコレは街のために使おうと思う。たとえば道を舗装したり、雷の魔石を使った街灯を設置したり、周りの森を開拓するための資金にしたり」


「うんっ、いいと思うよぉ! 街を発展させるために、どんどん使っちゃお!」


「どんどんは使えないって……」


 みんなのお金なわけだし、使うところは慎重に選ぼう。

 ただ、今言ったことは全部実行するつもりだけど。


「で、アイナ。宿の方はこれからどうする?」


「うんっ。サクヤちゃんが二十人に増えたので、三号館を建てようと思いますっ!」


「思い切ったね。アタシはいいと思うよ」


「えへへっ。おかげ様で繁盛してますからっ」


「ミアの食堂も、さらなる拡張を希望する!」


「あ、そうだねぇ。お客さんがまた増えるから、そのぶん大きくしないとっ」


 うんうん、宿の方もまだまだ成長途上。

 街ともども、これからどんどん大きくなっていきそうだ。


「……あ、それとネリィ。とびっきりの温泉を作る計画もしてるんだっ」


「とびっきり……? なにそれ、気になる……」


「まだまだ構想段階なので教えられませんっ。ただ、すっごいのになる予定だよぉ」


「そこまで言うなら、期待させてもらっちゃおうかな」


「ご期待くださいっ! ……でも、今出てきた計画みんな、実行は来年の春になりそうだけどねぇ」


「……なんで?」


 私の疑問に、アイナはそっとマドの外を指さした。

 雪がつもった、一面の銀世界を。


「あー……」


 昨日降った初雪は、今もなお降り続けている。

 すっかりつもって山の木々は真っ白、この分だと街の中にもつもってそうだ。


「このへん、山だから。雪つもっちゃって冬場大変なんだよねぇ。建設とかは雪解けを待たないと」


「雪かぁ……。嫌だなぁ、滅べばいいのに」


「そうかい? 雪をながめながらの温泉ってのも、アタシは好きだがね」


「ミアも好きなのだ! 昨夜は仕事が終わったあと、野山を駆け回らせてもらった! ミアの故郷には降らないからな、新鮮で楽しかったぞ!」


「うわぁ、信じらんない……」


 私は雪遊びなんて絶対イヤだ。

 あったかい部屋の中でぬくぬくしてたい。


 雪見風呂も、この宿の温泉じゃなきゃ絶対にゴメンだ。

 さっき入浴に行ったとき、お湯に入る前に凍死しかけたし。


「そういうわけだから、街の発展も春が来て、雪が溶けてからになるねぇ」


「そっか……。コショウ栽培の温室は大丈夫かな」


「少し炎の魔石増やしとくかい?」


「あとで様子見に行って、寒そうだったらそうするよ」


 さて、こうなると私たちにできることは、各々のお仕事をこなしつつ黙って春を待つことだけか。

 よし、今日もがんばって――。


「よし、まず今日の勤務はコレからだよっ!」


「……え?」


 アイナさん、大きなスコップなんか持ち出してどうなさるおつもりで?


「お客さんがすべらないように、宿の前を雪かきしますっ!」



 〇〇〇



「ガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチ……!!」


「だ、大丈夫ですか、ネリィさん……。私の分身みたいに残像出てますよ……?」


「だだだだだだいじょうぶぶぶぶぶぶぶ……」


「人食い草みたいに歯をガチガチ鳴らしてるのだ……。気味が悪いのだ……」


「えっと、つらいなら中にもどってていいよぉ?」


「こここここここれでもだいぶマシな方だかららららららら……」


 そう、外に出られてるだけマシな方なのだ。

 冬場になると炎の魔石をコートの中にみっちり仕込まなきゃ死にそうになるのに、何も持たずに出てこられるだけ大したものなのだ。


「あはは……。ネリィがつらそうだし、早めに終わらせようか」


「承知したのだ! 見よ、ミア様のスコップ二刀流、その神髄をッ!!」


 なに言ってるのかわかんないけど、スコップを両手に一本ずつ持ったミアがすごい勢いで雪かきをしていく。

 ガルダは屋根の雪下ろし、サクヤも分身して宿の前の道の雪をせっせとどかしてる。

 そして私は、ガタガタガタガタふるえながらアイナといっしょに宿の前のせまいスペースを雪かき。

 なぜなら寒さで戦力外だから。


「ネリィ……。あとで持ち運び暖房用の炎の魔石、魔石屋さんにたくさん注文しておくね……?」


「あああああああありがととととととと」


 あぁ、できるだけトラブルなく春になってほしいな……。

 そんな私の願いは数日後、早くも裏切られることとなった。



――――――――――――――――――――


 グラスポートの街


 人口

 103人→182人 +79



 施設


 宿屋 鍛冶屋 食料品店 牧場

 雑貨屋 武具屋 アイテム屋

 冒険者ギルド 魔石店



 観光・産業


 ミスティックダンジョン

 コショウの栽培(大規模)

 コショウの輸出

 アウロラドレイクの竜肉(期間限定)




 宿屋『森のみなと亭』


 施設

 本館 宿泊可能人数 100組

 別館 宿泊可能人数 100組

 食堂 90席 温泉・サウナ


 平均宿泊客

 1日に190組


 平均食堂利用者

 日に900人


――――――――――――――――――――




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