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53 街長は誰ですか?




「街長なんぞ、ワシには務まらんでな……」


 コショウの件を相談するために、村長――じゃない、街長さんの家に行った私。

 で、会ったそばからいきなりこんなこと言われたらどうすりゃいいのさ。

 ぷるぷる震えるご老人を前に、少し考えたあと言葉を返す。


「えっと……、いきなり村が街になっちゃったのは私たちががんばり過ぎたからで、その件に関しては責任みたいなものも感じてます」


「そうじゃろうそうじゃろう……。ワシはもう歳だでな、小さな村しかまとめられんて」


 うんうん、とうなずく村長さん。

 街長じゃないらしいので村長さん。


「あ、あの……。じゃあこれから街長は……?」


「誰かに任せるでな……。若くて活きのいい誰かに任せるで……」



 ……そんなわけで。

 とつぜんの現職辞任によって、グラスポートの街はいきなり街長不在に。

 もうコショウの商談どころじゃない。

 誰が次の街長になるのかって、ウワサはすぐにグラスポートを駆けめぐった。


「……つっても、どうなるんだろ」


 ふつう、大きな街ってのは貴族のお偉いさんやお役人さんが仕切るもんだ。

 住民で決めた代表がいろいろなことを決めるのは、小さな村くらい。

 で、グラスポートは小さな村だったわけで、村長さんが村のみんなの意見を聞いて方針を決めていた。


 大きくなって街と呼ばれるようになったのも、つい最近の話。

 変わらず村長さんが方針を決めるシステムだった。


 ……でもさ、これからどんどん街は大きくなっていくよね。

 この際だからお役人さん呼んで、仕切ってもらうのが丸く収まる形じゃないか。



 そう思った私は、ちょいと王都まで出向いて相談することにした。

 この国の第三皇女殿下様に。


「……と、いうわけなんですけど」


「簡単な相談ですわね」


 はじめて会った時みたいに、城の庭園でお茶会しながらの会談。

 お姫様に事情を話すと、ハキハキと頼もしいお返事が。


「じゃあ、さっそく役人を呼んでもらって――」


「アイナさんにグラスポート辺境伯の位をさずけましょう。彼女がグラスポートの街を治めて一件落着ですわっ!」


「……いやいや。アイナは宿の女将の仕事があるんで、貴族に戻るつもりはありませんよ。少なくとも、今は」


「そうですの?」


 アイナがおじいさんから受け継いだのは、爵位じゃなくて宿だもんね。

 忙しくても楽しそうだし、あの子。

 何より私たちで勝手に決めていいことじゃない。


「でしたら――ネリィさん、あなたが街を治めればいいのではなくて?」


「…………。…………はい?」


 え?

 いや。

 なんて?

 なんかとんでもないこと言い出した、このお姫様。


「それがいいですわ! 役人なんかを派遣するよりも、わたくしが一筆委任状を書きましょう。万事解決、めでたしですわね!」


「ちょ、ちょっと待ってください……! 私、あそこに来て半年もたってないよそ者ですよ!? しかもこんな小娘ですよ!?」


「あら、文句を言う人なんて一人もいないと思うのですけれど」


「いやいやいや……」


 そんなわけないって。

 誰も認めないって。

 私が街長になるだなんて、そんなメチャクチャな……。



 〇〇〇



 『ネリィ・ブランケット街長就任おめでとう!!』


「えぇ……?」


 委任状を片手に、村長さんに相談した翌日の朝。

 いつものようにお使いに出た私は、街の広場のド真ん中に張られた横断幕を目撃して、思わず立ち止まる。

 いや、なんなんコレ。


「おぉ、『氷結の舞姫』だ……。とうとう街長になるらしいな……」


「あやかりたいモンだわ、まったく……」


 ぼうぜんと立ち尽くす私を横目に歩いていく冒険者たち。

 ちがうの、私もなにがなんだかなの。


「あぁ、ネリィちゃん。おめっとさんっ」


 ぽんっ、と肩をたたかれる。

 ふりむけば満点スマイルのルミさん。


「ネリィちゃんが街長なら、みんな文句なしだわ。これからよろしくたのむでな」


「えっと……、コレもう決まってるの……? あと、元々村に住んでたみんなは賛成なの……?」


「だぁれも反対なんかしとらんよぉ。おじいちゃんおばあちゃんも、グレンダルさんだって賛成しとるわぁ」


「マジで……」


 どうしよう、既成事実みたいになっちゃってる。

 私にだって宿の仕事があるし、こんな大役いきなり任される心の準備もできてないのに。


「あの……。まだ決まったわけじゃないから、少しだけ考えさせて。村長さんにもそう伝えてくる」


「あ、そうだったん? でも、ネリィちゃんが街長だったらウチは嬉しいけどなぁ……」



 念のため、他の人の話も聞いて回った。

 だけどみんなルミさんと同意見。

 私に街長をやってほしいって。


「こうなっちゃったら、あとは私の気持ち次第じゃん……」


 どうしよう、私。

 どうすんだ、私。

 ごちゃごちゃ頭のまま、私は『森のみなと亭』へと帰ってきた。


「あ、おかえりぃ。タマゴ四十個、もらってきてくれた?」


「……あ、ゴメン。忘れてた」


 そうだった、もともとお使いで出てきたんだった。


「すぐにルミさんのとこ行ってくる! もう少しだけ待ってて!」


「うん、わかった。……あの、ムリしないでね」


「あ……、誰かから聞いた?」


「ウワサ、もう街中に広がっちゃってるよぉ?」


 苦笑いでそう答えるアイナ。

 そりゃそうか、みんなが知っててこの子が知らないわけないよね。


「嫌だったら断っちゃっていいんだよ? 誰もネリィに強制なんかしてないから。ただ、みんなネリィにやってほしいだけなんだよぉ」


「……そう、だね」


 みんなが私にやってほしい、か……。

 そこまでのことを私はしたんだろうか。

 私は……どうしたいんだろう。




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